パリオリンピックの初戦で、なでしこジャパンは昨年のW杯王者・スペインに1-2と敗れた。不動の右サイドバック・清水梨紗の負傷離脱は痛いが、藤野あおばのFKなど、セットプレーが武器になる部分は見えてきた。決勝トーナメント進出に向け、次のブラジル…

パリオリンピックの初戦で、なでしこジャパンは昨年のW杯王者・スペインに1-2と敗れた。不動の右サイドバック・清水梨紗の負傷離脱は痛いが、藤野あおばのFKなど、セットプレーが武器になる部分は見えてきた。決勝トーナメント進出に向け、次のブラジル戦は負けられない一戦だ。

【スペインの思惑を外した日本だったが......】

 やはり世界チャンピオンは強かった。昨年の女子W杯を初制覇したスペインは今年2月、新設されたUEFA女子ネーションズリーグも制し、ヨーロッパの頂点に立った。今や一点の曇りもない絶対王者である。



なでしこジャパンは藤野あおば(写真左)のFKなどを武器に、バリオリンピック第2戦のブラジル戦に臨む photo by Hayakusa Noriko

 そんなスペインが昨年のW杯で唯一完敗したのが日本だった。4失点を喫し、クリーンシートを達成されたことは、王者にとっては放置しがたい状況だ。特に宮澤ひなた(マンチェスター・ユナイテッド)には2ゴールを決められ、日本のカウンターに撃沈した。その後の奮起が優勝につながったと言ってもいいくらいだ。

 その時、ミスマッチだった宮澤のいた右サイドを徹底的に対策したスペインに対し、今回、宮澤が配されたのは、まさかの右サイド(スペインの左サイド)だった。「固定していても面白くないですから」と本人が自信ありげな表情をしていたのはこのことだった。代わりに左サイドには清家貴子(浦和レッズレディース)が入り、システムも4バックを起用するなど、池田太監督はスペインの思惑の裏側を突いた。

 序盤にさすがのスペインも苦戦したのは、想定外だらけの日本に戸惑ったからだろう。ただ、そこからしっかり立て直して自分たちのペースを握り直すところに、スペインの強さを見た。

【自信をつけた藤野あおばのFK】

 日本も、やられっぱなしではなかった。先制ゴールを決めた藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)のFKはそのひとつだろう。「まさか(GKの)手が伸びてくると思ってなかったので内心焦りました(苦笑)」と振り返る強烈な弾丸FKが、なでしこジャパンのパリ五輪初ゴールとなった。

 きっかけは、昨年のW杯敗退の試合となったスウェーデン戦だ。終盤に決めれば同点となる直接FKのキッカーを任されたのが藤野だった。ペナルティーエリア左からのいい角度。しかし、キックを極めた自負の薄かった藤野は自信のなさを拭いきれず、蹴り出したボールはクロスバーを叩いた。

 チームの勝敗を左右する一本を外して悔しくないはずがなく、責任感の強い彼女がそのままにしておくはずもなかった。そこからの努力を裏づけたのが、フランスへ出発する前日に金沢で行なわれたガーナとの国際親善試合だ。W杯の時とほぼ同じ左サイドで得たFKで、ボールを置いた瞬間「あの時(W杯)の借りを返せそうだ」と思った藤野は、その自信をボールに乗せ、ゴール左上ギリギリにGKの手に触れさせることなく突き刺した。

 このゴールについて藤野は、「積み重ねてきた部分もありますけど、あれ(金沢でのゴール)がまぐれだったと言われないように結果を出し続けないといけない。それなりの練習はしてきたつもりなので、それを五輪の舞台で出したい」と話していた。スペイン戦のFKは有言実行となった。

 右サイドからのキックは「得意ではない」と本人は言うが、五輪のピッチで今までと違ったのはただ一つ、彼女のマインドだ。ボールを置いた瞬間、苦手なその角度のキックを「蹴りたい」と思った。その自信がそのままボールに乗ったゴールだった。

 セットプレーだけは誰にも邪魔されず勝負ができる。藤野以外にも、長谷川唯(マンチェスター・シティ)、北川ひかる(INAC神戸レオネッサ)などキッカーは多い。この五輪での得点源のひとつになっていくに違いない。

【ブラジル戦は勝利するのみ】

 初戦で勝ち点は得られなかったが、最少失点差におさえたことは決勝トーナメント進出に向けては好材料だ。中2日で続く第2戦の相手ブラジルとは、昨年から3戦(日本の1勝2敗)交えており、戦い方は心得ている。負け越してはいるが、内容的にも相性的にも、決してやりにくい相手ではない。

 ただし、フィジカル的に上回るブラジルは中盤をマンツーマン気味に守ってくる可能性が高い。日本はボランチが相手のマークをどう剥がしていくか、攻守の切り替え時に好機が潜んでいる。

 不動の右サイドとして信頼の厚かった清水梨紗(マンチェスター・シティ)が、スペイン戦で無念の負傷離脱となった衝撃はあまりにも大きい。

 それでも希望もある。ナント入りしてからも別メニューで調整を続けていた北川(金沢で負傷)、林穂之香(ルトゥケ/合宿地で負傷)のふたりがスペイン戦翌日の練習から完全復帰したのだ。

 ここからはスペイン戦で狙われた左サイド、そして清水の抜けた右サイドの穴を埋めながらの総力戦となる。ブラジルも初戦でナイジェリアを1-0の僅差で破っていることから、グループCは実力が拮抗している。ブラジルに勝てば、決勝トーナメント進出が見えてくる重要な一戦だ。

 移動日の朝にはフランスの高速鉄道の線路が破壊される事件が発生し、大混乱を起こした。なでしこジャパンは初戦開催地のナントからの鉄道移動が不可能となり、練習会場へ乗ってきたバスでそのままパリへ向かうことになった。

 ナント駅までの2、3分で終わるはずだったポリスエスコートもパリまで続行。約5時間かけて選手村に入るというハプニングもあったが、それも選手たちはストレスとしてではなくポジティブに捉えていた。

 スペイン戦からの切り替えはすでに完了している。あとはパリでしっかりブラジルに勝利するのみ、だ。