(27日、第106回全国高校野球選手権東東京大会準決勝 二松学舎大付1―6関東第一) いまも、忘れられない景色がある。 先輩たちに甲子園に連れて行ってもらった2年前の夏。二松学舎大付の片井海斗(3年)は、「1年生・4番」として打席に立った。…

(27日、第106回全国高校野球選手権東東京大会準決勝 二松学舎大付1―6関東第一)

 いまも、忘れられない景色がある。

 先輩たちに甲子園に連れて行ってもらった2年前の夏。二松学舎大付の片井海斗(3年)は、「1年生・4番」として打席に立った。

 いつもテレビで見ていた場所に、いま自分がいる。焼けつくような暑さと、スタンドの熱狂。「これが甲子園なんだ」。興奮に胸が高鳴る中、2回戦でアーチを放ち、一躍注目のスラッガーとして話題を集めた。

 2年生の春にも、先輩たちが甲子園に連れて行ってくれた。けれど、初戦で敗れた。「やっぱり夏の雰囲気とは違う。この場所には、夏に来ないと意味がない」。再び帰ってくることを誓ったが、その夏は3回戦で敗れ、夢を果たせなかった。

 だからこそ、最後の夏にかける思いは誰よりも強かった。冬場は人一倍バットを振った。「片井をもう一度甲子園に連れて行こう」と口にする仲間に、「俺たちは先輩に甲子園に連れて行ってもらったんだから、今度は俺たちが後輩を連れて行こう」と返した。

 ノーシードで臨んだ今夏。調子に波があるなか、優勝候補校の4番の役割を果たした。準々決勝まで21打数12安打4打点。この日の準決勝も、4点を追いかける五回裏、真ん中に来た変化球をとらえて、チーム初となる安打を放った。その後、本塁にかえり、関東第一ペースで進む試合の流れを変えかけた。

 だが、関東第一投手陣を捉えきれなかった。

 九回裏の攻撃前、市原勝人監督に「どこの地区の高校野球でも奇跡は起こせるし、お前たちも起こしてきた。だから1人もアウトになるな」と発破をかけられた。

 その言葉を胸に刻み、「絶対につなぐ」と打席に入ったが、三振に倒れた。それが、この夏最後の打席になった。

 試合後、真っ先に出てきたのは自らのふがいなさを悔やむ言葉だった。「この試合が自分の全てだったと思う。執念が足りず、勝負弱さが出てしまった」。ただ、市原監督は「最後だからと気負ってしまった部分があったのかもしれない。今大会よく打って、頑張ってくれた」とねぎらった。

 野球は続けるつもりだ。「この経験を生かして、先のステップで頑張りたい」。目を赤く腫らし、言葉を詰まらせた。=神宮(佐野楓)