元バレーボール男子日本代表福澤達哉インタビュー 前編 パリ五輪・バレーボール男子日本代表は、1972年のミュンヘン五輪以来のメダル獲得が期待されている。ネーションズリーグ(VNL)では、47年ぶりとなる主要国際大会での準優勝を果たしたが、現…

元バレーボール男子日本代表

福澤達哉インタビュー 前編

 パリ五輪・バレーボール男子日本代表は、1972年のミュンヘン五輪以来のメダル獲得が期待されている。ネーションズリーグ(VNL)では、47年ぶりとなる主要国際大会での準優勝を果たしたが、現在のチームについて、元日本代表の福澤達哉氏はどう見ているのか。VNLで見えた成長や、パリ五輪でポイントになる試合などをについて聞いた。


パリ五輪でメダル獲得が期待される男子バレー日本代表

 photo by FIVB

【あらためて感じた層の厚さとミドルの成長】

――VNLではどういった点に注目していましたか?

福澤 パリ五輪の出場権はすでに獲得していましたが、VNLのレギュラーラウンド終了時の世界ランキングが五輪本戦の組み合わせに影響するため、「5位以内」という目標を立てていましたね。大会前にフィリップ・ブラン監督に話をうかがった時には、「第1週がカギになる」と話していました。

 主力である石川祐希選手や髙橋藍選手が、直前までイタリアリーグのプレーオフを戦っていた関係で、代表への参加が遅れた。彼らがいない第1週でどうチームをつくっていくのか、どこまでできるのかに注目していました。

――第1週の対戦チームはどこも五輪出場権を獲得していなかったので、最初から全力で臨んできた印象があります。

福澤 そのなかで、あらためて日本の層の厚さを感じました。昨年度に出場機会が少なかった富田将馬選手や甲斐優斗選手などもチームにフィットし、非常に高いパフォーマンスを発揮していた。日頃の練習で、日本がやるべき戦術、技術がチーム全体に浸透し、すべての選手がそれを実行できることが証明されましたね。

――第2週の日本ラウンド、第3週のフィリピンラウンドはいかがでしたか?

福澤 全体を通して、レシーブとつなぎの精度は出場国のなかで突出していると感じました。その上で、しっかりとサーブで攻め続けましたよね。富田選手や甲斐選手もそうですが、もともとサーブがいいチームに、ビッグサーバーが次から次へと出てきているところが大きいです。

 石川選手、髙橋藍選手が合流してすぐの日本ラウンドは、コミュニケーションや連携の部分などでかみ合わない部分もありました。チームが少し不安定ななかで、「非常に頼もしい」と感じたのはミドルブロッカー陣のパフォーマンスです。

 どうしても石川選手や髙橋藍選手、西田有志選手にマークが集まるなか、苦しい場面にミドルで点数を取っていくシーンが多く見られた。 昨年のワールドカップ序盤で、石川選手がパフォーマンスなかなか上がらないシーンがありましたが、そういった経験も踏まえてセッターの関田誠大選手がうまくコントロールしていましたね。中心となる選手がマークされていたり、パフォーマンスが上がらない選手がいたりしても、場面ごとで柔軟に戦術を組み立てて戦っていました。

――第1週でキャプテンを務めた山内晶大選手も、頼もしさが増した印象があります。彼は「オフェンス型のミドルブロッカー」とも言われていましたが、VNLではいいブロックが目立ちましたね。

福澤 昨年から、ブロックは成長していると感じていました。ブロックについては、チーム全体としてもう一段レベルを上げるというのが課題でしたが、それが結果として出てきていますね。

 ミドル陣の練習を見ても、ブロックの手の出し方、体の寄せ方などの意見交換が活発なんです。山内選手も「練習方法を工夫して、感覚的な部分がよくなってきています」と言っていました。それによって、スパイクをシャットアウトしたり、ワンタッチをとって後ろで拾える確率が上がった。あとは経験を重ねたことで、読みや戦術理解なども向上していると思います。

【VNLで感じたチームの進化】

――ほかにチームの進化を感じた部分はありますか?

福澤 劣勢を巻き返す力がついてきたことでしょうか。特に20点以降でも慌てず、粘ってセットを取りきるシーンがたくさん見られました。その起点となるのはレシーブやつなぎ。「追い込まれているのに気づいたら勝っている」という、トップチーム特有の底力がありましたね。レギュラーラウンド第3週のフランス戦で、2セットを先取されてからの大逆転もそうでした。

 勝ち方が明確になって、選手たちも自信を持っているんだと思います。ピンチの時にチームとして「立ち返る場所」があるのは大事。ずっと「誰が出ても強い、同じ約束事のプレーができる」というコンセプトを掲げてきて、それがより高いレベルで展開できるようになってきたと感じます。

――レギュラーラウンド第3週の途中で、髙橋藍選手がケガの影響で欠場となりましたが、大塚達宣選手などがその穴を埋めましたね。

福澤 それも「誰が出ても」というところですよね。大塚選手は、サイドアタッカー陣のメンバー争いが激化し、結果を出さないといけないプレッシャーがあるなかで、十分に持ち味を発揮しました。特に第2週のポーランド戦をきっかけに大会中に成長していきましたね。

 レギュラーラウンド終了の時点でパリ五輪メンバーが発表され、彼も選出されたことによって覚悟が決まり、ファイナルラウンドでも高いパフォーマンスを発揮できたんだと思います。東京五輪以降、主要な試合では石川選手と髙橋選手がスタメンで起用されることが多かったですが、途中出場の試合でも結果を残してきた。日本代表としてプレーする責任との向き合い方なども含め、試合を重ねるなかで技術的にもメンタル的にも成長し、"欲"みたいなものも出てきた。それがいいプレーに結びついています。

 大塚選手だけに限らず、多くの選手が「与えられたチャンスをモノにするんだ」という意志の強さを見せ、「どう成長につなげようか」といった試行錯誤をしてきたからこそ、ここまで選手層が厚くなったと思います。オリンピック前に大塚選手がもう一段階成長したことで、さらに総合力がアップしましたね。

【熾烈な代表争いをしたリベロは「どちらも世界トップレベル」】

――続いて、主将の石川選手について伺います。福澤さんが解説されていたファイナルラウンド、特に準決勝のスロベニア戦でもキレキレのプレーを見せ、福澤さんも驚きを隠しきれない様子でしたね。

福澤 イタリアリーグでのプレーも見ていたので、パフォーマンス自体に驚いたというよりは、メンタルの安定感と、経験に裏打ちされたプレーの質の高さに対してでしょうか。負けたら終わり、決勝進出をかけた大事な試合でも気負うことなく、いつもどおりの力を発揮してチームをけん引していた。

 オリンピックでメダルを獲るためには、"勝ち方を知っている選手"の存在が重要になると思います。プレッシャーがかかる場面で、いかに自分たちでスイッチを入れていくのかという点でも、石川選手の存在はとてつもなく大きい。単純な技術の高さだけで世界と戦うではなく、石川選手は自分だけじゃなくて、チームメイトのスイッチも入れることができるキャプテンになっている。いよいよ、世界トップの選手になってきていますね。

――リベロの選考についてはいかがでしょうか。今回メンバーに入った山本智大選手、メンバー外となった小川智大選手ともにレベルが高く、福澤さんも解説のなかで「僕が監督だったら選べないです」とおっしゃっていました。

福澤 あらゆるデータなど複合的な要素を考慮した上でブラン監督が選んだのでしょうが、みなさんおっしゃるように、どちらも世界トップレベルのリベロであることは間違いありません。それが日本にとっての大きな強みでもありましたし、それぞれの特長を生かしてチームを支えていました。

 VNLを戦った16名から12名に絞る上でリベロの枠はひとつになりますから、チームとしてはつらい選択をしなければならなかった。ただ、東京五輪以降にふたりで守護神の座を争ってきたからこそ、お互いにスキル、メンタルもあれだけ磨かれたんだと思います。山本選手は東京五輪にも出場しましたが、明らかにパフォーマンス、コート上の立ち居振る舞いも成長している。高め合った小川選手の分も、パリで見せてほしいです。

【パリ五輪のポイントになる試合は?】

――パリ五輪のグループリーグの組み合わせは、アメリカ、アルゼンチン、ドイツと同組のグループⅭ。オリンピックに出場する国はすべて強豪ですが、なかなか厳しい組み合わせなのではないかと思います。

福澤 すべてが強豪国というのはおっしゃるとおりですし、どこが相手でも関係なく、本番までにコンディションを上げ、自分たちのパフォーマンスを発揮できるようにすることが大事だと思います。選手たちも「やるべきことをしっかりやれば、どのチームにも勝てる」という自信を持っていると思うので、あとはそれを、五輪の舞台でも発揮できるかどうかですね。

 あえてポイントを挙げるなら、初戦のドイツ戦でしょうか。ドイツは昨年のワールドカップで、7戦全勝で五輪出場を決めました。その過程で"ジャイアントキリング"も起こしていますし、"台風の目"になり得るチームのひとつだと思います。

 今や多くのチームが、日本に対して挑戦者の気持ちで挑んでくるようになりましたが、この初戦でも"受け"に回らないことが大事。それができたら、アルゼンチン、アメリカ、その後も自分たちのペースで戦えるでしょう。ドイツは「初戦で当たるには一番嫌な相手だな」と思う反面、チームの"スイッチを入れる"という意味では、いい相手かもしれません。

――石川選手は、「ドイツと、アルゼンチン戦に勝つことが大事」とコメントしています。

福澤 東京五輪でアルゼンチンが周囲の予想を覆して銅メダルを獲得した時は、正直驚きました。オリンピックはやはり、ひと筋縄ではいかない大会。勢いがあるドイツ、五輪銅メダリストの実績と自信があるアルゼンチンに対してどんな戦いを見せられるかが、その後を左右することになりそうです。ともあれ、ぜひともメダルを獲って、世界をさらに驚かせてほしいですね。