7月26日、「第33回オリンピック競技大会(2024/パリ)」が幕を開けた。「FIBAバスケットボール ワールドカップ2023…

7月26日、「第33回オリンピック競技大会(2024/パリ)」が幕を開けた。「FIBAバスケットボール ワールドカップ2023」でアジア最上位の成績を残し、4年に一度の祭典に挑む男子日本代表ついて、トム・ホーバスヘッドコーチの下でプレー経験を持つサンロッカーズ渋谷の永吉佑也とベンドラメ礼生に話をうかがった。

インタビュー=酒井伸

写真=サンロッカーズ渋谷、fiba.basketball

◾️ベンドラメが富樫を心配「一緒にリラックスする友がいなくなって、寂しいだろうと思っています(笑)」


――いよいよオリンピックが開幕します。日本代表チームについてどのような印象を持っていますか?

永吉 自分は経験者としてホーバスHCのバスケを理解しているつもりですが、それにフィットする選手がそろったと思っています。ホーバスHCが彼らを起用してどのようなバスケを見せてくれるのかとても楽しみです。

ベンドラメ 八村(塁/ロサンゼルス・レイカーズ)選手が加わったことで、インサイドが強くなり、特にディフェンス面が良くなるのかなと。ワールドカップでは渡邊(雄太/千葉ジェッツ)選手と(ジョシュ)ホーキンソン(SR渋谷)選手が中心でしたが、そこに八村選手も絡んできます。(渡邉)飛勇(信州ブレイブウォリアーズ)選手を含めて、インサイドでもしっかり戦えると思っています。

――ホーバスHCはお2人にとってどのような指揮官ですか?

永吉 初めて会ったのが2年前の夏。女子日本代表を指揮する姿を見たら厳しくて、自分の意見が一番大事という頑固なイメージでした。実際に会うと、すごく親しみやすく、よく話を聞いてくれました。プレー面では求められることがシンプルだったからこそ、自分の役割がハッキリしていて。それをチーム内で発揮できれば、評価してくれました。ホーバスHCのスタイルは日本に合っています。これまでのキャリアでファイブアウトのバスケを経験することはありませんでしたが、すごく面白かったですし、これなら上を目指せると感じました。あとは気持ちの部分です。ホーバスHCがよく言う「信じること」。これがいかに大切かを教えてもらえたのは自分にとっての財産です。

ベンドラメ 僕はよく怒られましたね。当時の僕はディフェンスにプライドを持っていて、ある試合では出場して3分くらいで2つのファウルをしてしまって。ハーフタイムに「勝つ気はあるの? ファウルだけしてディフェンスしていない」と。比江島(慎/宇都宮ブレックス)選手と一緒に怒られました。始動直後は3ポイントシュートを打つだけという印象でしたが、ホーバスHCのバスケが表現されるようになり、すごく可能性を感じるようになりました。

――選出された12名について、コート内外のことを含めて聞かせてください。背番号順でまずは富樫勇樹(千葉J)選手から。

ベンドラメ 前回大会では選手村で夕日を見られる場所に行って、ただ一緒に時間を過ごしていました。特にやり取りがあったわけではなく、「15分後」とだけLINEで連絡したらその場所にいるみたいな。特に話すこともなく、リラックスの時間でしたね。僕は心配です。心のケアというか、一緒にリラックスする友がいなくなって、寂しいだろうと思っています(笑)。

永吉 ホーバスHCと富樫選手の信頼関係は強く、お互いのことを信頼していると感じます。河村(勇輝/横浜ビー・コルセアーズ)選手も素晴らしい選手であることは確かですが、仮に彼が先発で崩れてしまった時、バックアップには富樫選手がいる。日本での強化試合を見て、起用方法の引き出しが増えたと思っています。

ベンドラメ 途中交代の選手にはいろいろな役割があります。流れを変えるとか、いい流れをキープするとか、流れをもっと良くするとか。試合の状況に応じてプレーしなければいけないので、難しさもあると思っています。

――最年少のジェイコブス晶(ハワイ大学)がメンバー入りしました。

永吉 経験を積む若手枠ではないと思っていて、十分な実力を兼ね備えています。ワールドカップ前の韓国遠征で初めて合流して、身体能力の高さ、手の長さ、走力などポテンシャルを感じました。何より人間性が素晴らしい。まっすぐな目で僕の話を聞いてくれました。あとは誰よりも自主練習していた印象です。プレーを重ねるごとに彼のポテンシャルが発揮され、この夏に至ったと思っています。戦力としてすごく期待しています。

ベンドラメ 試合を重ねるごとに良くなっていったと思います。オリンピックで活躍できるかはわかりませんが、何かをきっかけに急成長するタイプなのかなと。そこはホーバスHCも期待しているというか、将来を見据えた上で経験させておくべきだと思って選出したはずです。外のシュートが上手なので、試合に出たら躊躇せずに打ってほしいし、気負うことなくプレーしてほしいです。

――河村選手のプレーについては誰もが知っていると思うので、意外な一面などがあれば聞かせてください。

ベンドラメ いい子です。

永吉 バスケットボールがうまくて、こんなにもいい子がいるのかってほどです。天狗になることもないですしね。それにバスケットボールが大好きで熱心。

ベンドラメ 僕だったらドヤっちゃうかな。

永吉 間違いないね。僕もそう。

永吉&ベンドラメ 謙虚。

永吉 たまに先輩をイジることがありますけど、イジり方がすごく上手。謙虚な子がイジってくれると、先輩としてはうれしいですよ。競技力と人間力がどちらも高いので、やはり相関するものなんだなと。

ベンドラメ プレー面を挙げるなら、とにかく速い。スピードは世界で通用すると思います。そこに彼の判断力、シュート力が合わさると、相手にとって厄介な存在になります。対戦国は河村選手の対策をしてくるはずです。そこで彼がどのように攻めるのか。インサイドに切り込む力を持っているので、そこから周りがどのように合わせるのかはすごく楽しみです。キックアウトが増えてくると思うので、チームメートがシュートを決められる準備をしておくこと。そこまでの道のりを作ってくれると思います。

◾️ベンドラメが前回大会の八村を明かす「自転車で選手村を1周するのが彼の日課」


――最年長の比江島選手。永吉選手は同じ青山学院大学出身で、1学年下の後輩にあたります。

永吉 僕は招集されず、同級生の張本(天傑/名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)選手も選考から外れたのに、比江島選手はまだトップレベルで頑張っている。この世代では最後の1人で、本当にすごいですよね。シュート成功率が上がっているし、 パフォーマンスも高まっている。一緒にプレーしたからこそ、まだ成長するのかいう驚きがあります。次のロサンゼルスオリンピックまで続けられるんじゃないのかなと。日本代表活動に参加した2年前の夏、当時も年齢が一番上だったので、2人でバスの最後列に座りました。30歳を超えても僕の隣に比江島選手がいて、比江島選手の隣に僕がいる。すごくしみじみしましたね。まだ頑張っているなって。

ベンドラメ プレー面ではちょっとリズムが違います。世界でも対応するのが難しいから、あれだけドライブできて、得点を取れると思います。真似しようとしてできるものではないですよ。だからこそ今でも活躍できているのかなと。オフコートのエピソードは特にないな(笑)。なんかありそうですけど。

永吉 あんなに後輩たちからイジられるキャラなんだなって。

ベンドラメ めちゃくちゃイジられますよね。

永吉 いい意味でイジられている。大学の先輩後輩ですが、宇都宮に鵤誠司選手がいるじゃないですか。比江島選手が4年生の時、鵤選手が1年生。同じ福岡県出身ということもあって、彼を成長させてきたと勝手に思っています。

ベンドラメ 1年生の時から「マコ」って呼んでいましたよね。でも怒る比江島選手を見たことがない。

永吉 そうそう。

――テーブス海(アルバルク東京)選手についてはいかがでしょうか?

永吉 僕は2年前の日本代表で一緒にプレーしました。当時のことを考えたら、ジェイコブス選手を除いて一番のサプライズ選出だと思います。日本代表のバスケを勉強して、シーズン中は滋賀レイクスとアルバルク東京で自分なりのポイントガード像を作り上げたなと。日本代表に懸ける思いが強く、しっかりと結果を残したのはすごいです。彼は3ポイントの成功率があまり高くなく、ピック&ロールのディフェンスではアンダーを抑えられがちでした。シューティングなどやらなければいけないことに取り組んだ結果、今のテーブス選手があるのかなと。所属チームでも日本代表のことを常に意識していたはずです。

ベンドラメ 彼が選出されたことで、2ガードの戦術が加わりました。2ガードでうまくいった試合もありましたよね。彼はドライブからキックアウトのパスを出す力も持っています。海外でプレー経験があり、フィジカルや戦い方を理解しているはずです。サイズで世界と対抗するのなら、テーブス選手がいると安定するのかなと。アウトサイドシュートに関してはこの1年間で克服してきたし、それを補うだけのフィジカル、パス、ドライブセンスがあります。彼が試合に出たら、チームとしてプレースタイルをガラッと変えることもあると思います。

――八村選手が3年ぶりに日本代表へ復帰しました。

永吉 皆さんもわかっていると思いますが、間違いなくホーバスHCのバスケにフィットします。楽しみしかないですね。復帰後、日本代表のユニフォームを着て、試合に出場する姿をまだ見られていません。渡邊選手や比江島選手など前回大会に一緒に出場した選手もいるので、馴染んだ状態でオリンピックに出場することを期待しています。

ベンドラメ 前回大会の話ですが、選手村はすごく広く、徒歩での移動では時間が掛かるので、僕は自転車を購入して持ち込んだんですよ。富樫選手とリラックスしていた時、毎晩のように八村選手が来て「自転車を貸してください」と。自転車で選手村を1周するのが彼の日課で、すごく楽しんでいました。

――渡邊雄太選手の活躍も期待されます。

永吉 彼が高校生の時、初めて日本代表で一緒にプレーしました。高校卒業後はアメリカへ渡り、成長を続けていきました。2016年にジョージ・ワシントン大学が来日した際に対戦しましたが、昨年夏の日本代表活動で久しぶりに再会して話しました。人間的に変わっていませんでしたね。NBAルールがあって、日本代表での活動が限られるなか、こんなにやるのかというほどトレーニングに励んでいました。意識の高さに驚き、自分が感銘を受けました。

ベンドラメ 日本代表の精神的柱ですよね。彼の闘志が日本代表に勢いを与えると思っています。ケガから復帰して、必ず出場してくれるのかなと。辛いと思いますけど、ケガを乗り越えるだけの強さを持っています。彼がいないとチームも勢いづきませんから、個性豊かなチームを引っ張ってほしいです。

――次は馬場雄大選手です。

永吉 Gリーグやオーストラリアでのプレーを経て、人が変わったかなと感じるほど人間的にすごく成長しました。それがプレーにも現れているのかなと。彼はとにかくストイックで、自分に厳しくすることが楽しみなんじゃないかと思うほどです。どう説明したらいいのか……言いたいことわかる?

ベンドラメ 聖人というか。悟りを開いたかのように変わったんです。

永吉 プライベートな部分では自分の時間を大切にしているというか。合宿時、よく一緒にサウナに入るんですよ。彼と須田(侑太郎/シーホース三河)選手の整い方は、ほかのアスリートとは違います。こだわりが強いです。サウナから出て、水風呂に入って瞑想するような感覚。その時の姿勢が聖人みたいで、見てはいけないぐらいです。

ベンドラメ 馬場選手はボールがないところで活躍できる選手だと思います。ボールを持って、ピック&ロールから得点を取るのではなく、ディフェンスからトランジションを仕掛けたり、相手の隙を見てバックカットしたり。20得点をコンスタントに取る選手というより、相手にダメージを与える10得点を取れる選手だと思っています。海外挑戦を掲げ、スタッツを残さなければいけない意識があると思いますけど、ワールドカップでチームとして多くの3ポイントシュートを打てたのも、馬場選手のディフェンスがあったからです。あとはオフボールの動き。ボールを持つ前の勝負で、一歩前に出られる選手です。ホーバスHCのバスケでは3ポイントシュートを打つチャンスがあれば打つ。そういった意味では彼の考えがシンプルになっていると思います。ボールを持つ前に仕掛ければ、世界で活躍できる選手だと思っているので、そこに期待したいです。あとは「泣かないで頑張れ」と言いたいです。

永吉 ハハハ(笑)。

ベンドラメ あんなに泣く姿は初めて見ました。自分を追い込んで、ストイックに取り組んできたからこその強い思いもあるはずです。彼が感情を爆発させて泣く姿を見た時は、僕も感動して、もらい泣きしちゃいました。すごくうれしかったです。

◾️「吉井選手は僕よりレベルが2個ぐらい上」(永吉)


――チームメートのジョシュ・ホーキンソン選手についても聞かせてください。

永吉 どこからそんなにエナジーが出てくるのかと感じるほど、自分を鼓舞する選手です。自分が持っている以上の力を発揮しようとします。それはシーズン中に何度も見てきて、ある試合後には脱水症状を起こしてロッカールームで倒れ込んだほどです。オリンピックで彼が頑張ってくれるのはうれしいですが、チームメートとしては無事に帰ってきてほしいと思っています。

ベンドラメ 歌うのが大好きなので、試合に勝った時の歌を楽しみにしたいですね。何を歌うのかも含めて楽しみです。SR渋谷で活動している時もよく歌っていますから。

永吉 あとは口笛がうまい。自分で「隠れた才能材料」と言っているくらいです。

ベンドラメ エンターテイナー。

永吉 間違いないね。

――続いては富永啓生選手です。

永吉 僕は前回大会の3x3代表候補で、その時に初めて会いました。彼はシュートセンスが半端ない。あれほどすごい選手はいないんじゃないですか。一緒にプレーする上で心掛けたのは、彼になるべく気持ちのいいシュートを打ってもらうこと。彼にディフェンスが寄った時、自分が活かされると感じました。東京オリンピックの翌年に5人制でも一緒にプレーして、彼にシュートを打たせたら勝てると思っていたほどです。彼にはどんどんシュートを打ってほしいです。

ベンドラメ スクリーンを掛けてもらってシュートを打つのは上手ですけど、個人でスペースを作るのがあまり上手ではない印象でした。ワールドカップ後の1年間を大学で過ごし、個で打開する力を磨いてきたと感じました。一瞬でも隙ができ、ディエンスが届かない距離だったらいつもどおりのシュートでいいのかなと。正直に言って、シュートセレクションはめちゃくちゃだなと思いますが、彼のリズムになってしまえば全部決められると思います。

――渡邉飛勇選手は川真田紘也(長崎ヴェルカ)選手や井上宗一郎(越谷アルファーズ)選手との競争に勝ち、メンバー入りを果たした選手です。

ベンドラメ ケガをするな!

永吉 まずはそれだね。

ベンドラメ 大会の直前に2回連続ぐらいでケガをしていますよね。

永吉 彼も日本代表に懸ける思いがすごく強い。僕も日本代表の選手としてプレーしたかった1人として、彼の日本代表に対する思いを認めています。Window6に向けた合宿に参加した時、練習から次々とダンクを決めるんです。1人だけレベルの違うダンクを連発していて、僕が「そんなに頑張るのか」と呟いたら、「僕は遅れているから。一番頑張らなければいけない」と。彼はやってくれそうな選手だなと感じました。その後、僕は代表から外れましたけど、飛勇選手と川真田選手がいいバトルを見せてくれました。同じビッグマンとしてうれしかったし、お互いを高め合う関係性だったのは良かったです。12名と限られたメンバーですけど、川真田選手なくして飛勇選手を語れないと思っています。彼自身もそういった思いをわかっているはずです。

ベンドラメ ホーバスHCのバスケにフィットするのは難しいと思いましたが、体が強く、ゴール下で活躍できる選手。リバウンドを取ったあとは頑張って走りますよね。東京オリンピックでは竹内譲次(大阪エヴェッサ)選手、竹内公輔(宇都宮)選手との世代交代のタイミングで、メンバーに選ばれた時は泣き叫ぶほど喜んでいました。その後はケガを繰り返し、心配していましたが、メンバー入りして僕もうれしかったです。

――最後は吉井裕鷹(三遠ネオフェニックス)選手です。

永吉 「こんな選手いるのか」という衝撃を受けました。バーベルスクワットを誰よりも上げられます。僕は彼の影響を受けて取り組むようになりました。

ベンドラメ そんなに上げるんですね?

永吉 すごいよ。

ベンドラメ ヨッさん(永吉)もすごいですよ。チームでスクワットをしていたら、みんなが「おー」と驚くくらいですから。

永吉 吉井選手は僕よりレベルが2個ぐらい上。

ベンドラメ 体格の差があるのにすごいですよね。

永吉 体幹がしっかりしていると思います。一緒にトレーニングして、自分を高めさせてもらったというか。

ベンドラメ 昨シーズンは所属チームでプレータイムが限られ、日本代表でプレータイムがある状態でした。試合勘を含めてすごく難しいと思いますけど、ワールドカップの試合を見て、強いフィジカルでドライブできるのが馬場選手と吉井選手だと感じました。相手に体をぶつけながらフィニッシュに持ち込む力を持っています。ジャンプ力も活かして、力強くプレーしてほしいです。

――12名の紹介は以上になります。ありがとうございました。

永吉 最後に僕からいいですか? 日本代表は自分たちのバスケを信じて戦うだけ。そうすれば目標のベスト8に進めると思います。期待しています!