来年3月開業予定の新ファーム施設「ゼロカーボンベースボールパーク」の建設に携わるキーマンへの直撃インタビュー(不定期掲載)で、“シン・虎の穴”誕生への軌跡を追う。初回は久米設計大阪支社 設計本部 上席主査の佐藤行彦氏(38)が登場。球場に…

 来年3月開業予定の新ファーム施設「ゼロカーボンベースボールパーク」の建設に携わるキーマンへの直撃インタビュー(不定期掲載)で、“シン・虎の穴”誕生への軌跡を追う。初回は久米設計大阪支社 設計本部 上席主査の佐藤行彦氏(38)が登場。球場に込めたタイガースらしさを紹介し、佐藤輝が21年に横浜スタジアムで放った場外弾のデータを基に、外野後方に張られる“輝ネット”についても激白した。

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 -新施設のコンセプトは。

 「2軍施設なので大きなコンセプトはチーム力の強化。こちらは阪神さんも含めた共通のコンセプトです。加えてタイガースブランドの発信が大きな根本となっています。われわれとしてはそれに加えて四つ。一つ目は充実した育成環境の確保。これはチーム力につながることですね。二つ目に市民の方々に対してタイガースを日常化し、タイガースブランドを発信しながらも公園としての機能も満たしていくこと。三つ目に集客力と発信力の促進。最後は、地域をリードする環境配慮です。全国初の(省エネと創エネの)ZEB認証を受けた球場施設となっており、『ゼロカーボンベースボールパーク』と銘打っています」

 -こだわった点や特徴は。

 「公園の中に球場を造るので、いかに共存させるかを熟考しました。何もないところに建てるのではなく、もともと公園があった場所に、公園の機能を持たせながら球場を建てるというところで、公園のメイン広場と球場を丘のようにしてつないでいます。そこが今回の球場の大きな特徴だと思います。公園でくつろぐ方や遊ばれる方はその広場を使ってもらい、それが球場と一体となった風景を創出しています」

 -どういった部分に阪神らしさを。

 「タイガースブランドの発信をデザインに取り込みたいと思いまして、金属のルーバー(板)が球場外壁に配置されますが、タイガースのタテジマになぞらえています。一部分を黄色と黒にすることでタイガース感が増しています。その他には、幾何学的にデザインに取り入れやすいこともあり、THのマークを意識したデザインを取り入れています。手すりの組み方をTHの文字の形にしていたり、さりげなく配慮して、細かい部分にタテジマやTHを印象づけるような仕上げになっています」

 -新球場の構造については。

 「甲子園球場をはじめ、日本の野球場は基本的に左右対称で造られていますが、メイン球場の『日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎』は、敷地の形状もあり、客席をタイガースのホームの一塁側にギュッと寄せました。立面として客席の高さも三塁側が低くて、一塁側が高くなっているので、三塁から一塁へ高さが上がっており、『右肩上がり』の造りで、選手の成長を表現するようなデザインになっています」

 -特大ホームランなどの打球が万が一にも線路に飛んではいけないが対策は。

 「もちろんシミュレーションを行いました。佐藤輝明選手が横浜スタジアムで場外ホームランを打ったことがありますが、場外ホームランが出たらマズいので。情報をいただきまして、そちらを基に検証して、同じような打球が飛んでも余りある高さとするために、外野ネットの高さは40メートルに決めました。われわれ久米設計では、ソフトバンクの筑後2軍球場の基本設計も担当させていただいており、以前にデスパイネ選手がネット上部に当たるものすごいホームランを打ったことがあったらしいのですが、その打球でも大丈夫だと確認しました」

 -室内練習場は甲子園の1・5倍に。

 「広くなることによって、使い方が増えることが大きな点だと思います。60メートル×60メートルのフィールド、ブルペン、トレーニングのためのフリースペース。あとは打撃練習のためにボール自動収集型の、バッティングセンターのようなエリアが3レーン設置されています。これは甲子園の室内練習場にもないものですし、非常に充実した施設になっています」

 -どのように愛される球場になってほしいか。

 「尼崎市民の方には地元に新たなボールパークができるので、気軽に足を運んでほしいと思っています。都市部からも近く、駅からとても近い施設になりますので、たくさんの方々にお越しいただければ。通勤や通学で阪神電車を利用する方にも常に目に入る施設になるので、日常生活の中にこの施設が風景として残っていくのは面白いですし、この『ゼロカーボンベースボールパーク』の特徴でもあります。沿線の皆さんに頭の中の風景として残ってもらえたら、とてもうれしいですね」