(25日、第106回全国高校野球選手権熊本大会決勝、熊本工6―2熊本国府) 変化球が抜けている。一回裏、熊本工の吉岡伸捕手(3年)は先発の山本凌雅投手(2年)の投球を受けて、すぐに「異変」に気付いた。 今大会、初戦の2回戦から23日の準決…

 (25日、第106回全国高校野球選手権熊本大会決勝、熊本工6―2熊本国府)

 変化球が抜けている。一回裏、熊本工の吉岡伸捕手(3年)は先発の山本凌雅投手(2年)の投球を受けて、すぐに「異変」に気付いた。

 今大会、初戦の2回戦から23日の準決勝まで、全4試合に先発し、直近2試合を完投した山本投手には疲れが蓄積していた。生命線のスライダーにはキレがなく、2死から相手打線に連打された。

 2死一、二塁で5番打者を迎えて考えた。「打ち気にはやっている。内側に入ったらやられる。外を引っ掛けさせよう」。外に逃げるカットボールを打たせて二塁ゴロに打ち取った。

 4点リードで迎えた四回裏、山本投手は再びつかまった。3安打や四球などで1点を失い、なおも2死満塁。次に来るのは1番打者だった。

 「思い切りが良く、内角の速球に強い打者だ」。頭に入れたデータをもとに外角のスライダーのサインを出した。思い切り振り抜かれ、左翼に鋭いライナーが飛んだ。

 瞬間、「やられた」と思ったが、落下点には左翼手が待ち構えていた。「この打者は左に強い打球が飛ぶ」と吉岡捕手の助言に左翼手が従い、守備位置を工夫していたのが奏功した。

 スライダーの代わりに落ちる変化球を決め球に使い、中盤からは速球主体、終盤は変化球中心に。組み立てを変えて、相手打線の反撃をわずかに封じ込めた。

 打撃でも気を吐いた。六回2死二、三塁での打席。凡退した前打者の山本投手から「頼みます」と託された。気力での投球をミットで感じていたから「絶対に打とう」。2ストライクに追い込まれた5球目、外角高めの変化球に食らいついた。左中間を破る2点適時打になった。

 多彩な変化球を抜群の制球力で投げ分ける山本投手とともに、強打者たちをどう抑えようか。ワクワクした気持ちで甲子園に向かう。(吉田啓)