パリ五輪グループリーグ第1戦、パラグアイ戦。5-0の勝利は、グループリーグ突破を考えると優位に働くことになる。大喜びしていい事実だが、考察すべきは、前半25分以降も11対11で戦っていたならば、結果はどうなったかという点になる。相手のFW…

 パリ五輪グループリーグ第1戦、パラグアイ戦。5-0の勝利は、グループリーグ突破を考えると優位に働くことになる。大喜びしていい事実だが、考察すべきは、前半25分以降も11対11で戦っていたならば、結果はどうなったかという点になる。相手のFWワイルダー・ビエラが平河悠の足を踏みつけ、一発レッドになっていなければ、その時1-0だったスコアはその後、どう動いただろうか。

 それを考えると、完全に楽観的になることはできない。筆者の見立てでは、日本勝利の可能性60%、引き分け30%、敗戦10%といったところか。後半18分、三戸舜介のこの日2点目となる、拝むようなヘディング弾がネットに刺さるまで、日本は10人のパラグアイに対して、結構いい勝負をしてしまった。少なくとも一方的な展開に持ち込むことはできていなかった。



パラグアイ戦で先制点と追加点を決めた三戸舜介 photo by JMPA

 パラグアイは下馬評の高いチームだった。彼ら自身も、オーバーエイジのいない日本に対し、優位な立場にあると踏んでいたに違いない。それだけに日本に先制ゴールを奪われ、焦っていた。ビエラが平河を足の裏で踏みつける愚行に、パラグアイのいらだちは端的に表われていた。

 パラグアイは何に面くらったのか。ダメージを受けた一番の要素は、日本選手の特殊性だ。巧緻性、敏捷性をベースにした高い技術。大型な選手がドタドタとした動きを見せるパラグアイと比較すると、小柄な日本人選手の俊敏な小気味いい動きは際立った。

 さらに加えるならば、展開力だ。ピッチを広く使ったシステマチックなオープン攻撃である。中もあれば外もある。それにサイドバック(SB)が絡むサッカーだ。褒めすぎを承知で賛辞を送るならば、ユーロ2024のスペイン的。内と外のメリハリが利いていて、なにより見た目にきれいだった。美しいサッカーを展開しながら、先制点を奪うという理想的なサッカーを大岩ジャパンは披露した。美しさにかけては欧州屈指と定評のあるスタジアム、スタッド・ドゥ・ボルドーにそのサッカーはよく映えた。

【斉藤光毅の見事なワンプレー】

 スタメンには以下の11人が並んだ。

 GK小久保玲央ブライアン、左SB大畑歩夢、右SB関根大輝、CB木村誠二、高井幸大、守備的MF藤田譲瑠チマ、インサイドハーフ山本理人、三戸舜介、左ウイング斉藤光毅、右ウイング平河悠、CF細谷真大。

 なかでも効いていたのは三戸だった。この左のインサイドハーフは松木玖生(移籍もあって招集外)がこれまで務めてきたポジションである。ウインガータイプの三戸を松木に代わって起用したわけだが、この作戦が的中した。

 後半29分、三戸は斉藤、山本とともに、お役御免の交代で、ベンチに下がった。代わって投入されたのは荒木遼太郎、川﨑颯太、藤尾翔太で、インサイドハーフには荒木と川﨑が入った。ともにパッサータイプである。荒木は今季、アタッカー色を強めているとは言え、その点では三戸に劣る。

 スペイン代表に置き代えれば、荒木、川﨑はペドリであり、三戸はダニ・オルモとなる。当初はスタメンを張ったのはペドリ。ダニ・オルモはそのペドリがケガしたためにスタメンを張ることになった代役だったが、ダニ・オルモの出場時間が多くなるほど、スペインのサッカーは活発になった。ウイングもできるダニ・オルモの俊敏かつ神出鬼没なドリブルワーク、ステップワークが、相手を苦しめることになった。

 三戸を選択した大岩剛監督にダニ・オルモのイメージがどれほどあったかは定かではないが、164センチの小柄なアタッカーの俊敏な動きが、172センチの右ウイング平河、170センチの左ウイング斉藤ともども、パラグアイを苛つかせていたことは確かだった。

 だが、繰り返すが試合は後半18分まで1-0で推移した。パラグアイは退場者を出しながらも踏ん張り、時に日本を慌てさせた。

 均衡を破るゴールを決めたのは三戸だったが、完璧なお膳立てをしたのは斉藤だった。左の最深部からバレーボールのセッターが送るトスのような折り返しも見事だったが、何と言ってもこの日のハイライトは、その直前で見せた右足(後ろ足)から左足にグイと切り返しながら前進するフェイントになる。お見事のひと言だった。

 10人の相手から、なかなか追加点を奪えない悪いムードを立ちきる、まさに試合を決めたワンプレー。ゴールを決めた三戸もすばらしいが、この試合でいちばん光るプレーは、斉藤の左足からくり出されたフワリとした優しい折り返しになる。

 斉藤はこれ以外にも同じステップを2度繰り出している。十八番にしている感じである。三笘薫の域に迫る高度なワザだ。A代表に入れたくなるアクションである。

 他方、苦しい展開に追い込まれそうになった原因は何か。パラグアイの個人能力の強さを外的要因とするならば、1トップ細谷のプレー機会の少なさが内的要因になる。カウンター時はともかく、遅攻になった時、パスワークに絡む機会が少ない。筆者は幾度となく指摘してきたが、改善されたとは言いがたい。

 細谷の能力は認めるが、チームとして機能しているとは言えない。この日、右ウイングとして交代出場し、2ゴールをマークした藤尾を1トップで使うという選択もあるだろう。

 中央にボールが収まらないと攻撃に迫力が生まれない。ウイング攻撃ばかりでは真の展開美は生まれない。次戦、マリ戦に期待したい。