パリ五輪の開幕が近づいている。サッカーは開会式よりも一足先に競技が始まる。オリンピックでの選手たちの活躍は楽しみだが、心配な点もある。はたして、現在の大会方式で、今後もスポーツの祭典は持続可能なのだろうか。サッカー、それ以外のスポーツ、そ…

 パリ五輪の開幕が近づいている。サッカーは開会式よりも一足先に競技が始まる。オリンピックでの選手たちの活躍は楽しみだが、心配な点もある。はたして、現在の大会方式で、今後もスポーツの祭典は持続可能なのだろうか。サッカー、それ以外のスポーツ、そして、出場するすべての選手たちと五輪の「明日」のために、サッカージャーナリスト後藤健生が緊急提言!

■矛盾だらけの「五輪サッカー競技」

 バックアップメンバー問題以外でも、オリンピックにおけるサッカー競技は矛盾だらけの大会である。サッカー競技をオリンピック大会という枠に無理やり押し込んだからである。

 現在のオリンピックは7月下旬から8月にかけて17日間(金曜日に開会式が行われて、日曜日に閉会式が行われる)。

 一方、男子サッカーには16か国、女子には12か国が参加し、グループリーグ3試合を行い、以後、準々決勝からノックアウト・ステージというスケジュールで、ベスト4に進出すれば各チーム合計6試合を戦うことになる。サッカーの場合、開会式前に初戦が行われるが、それでも17日間のオリンピック期間に詰め込むので、中2日という“異常な”カレンダーになってしまうのだ。

 しかも、7月下旬から8月上旬に開催されるので、ヨーロッパ各国のリーグ戦開幕時期と重なってしまう。サッカー界にとっては最悪のタイミングでの開催と言えるだろう。

 もし、オリンピックがワールドカップなどと同じように6月に開催されるのであれば、オリンピック参加を容認するクラブも多かっただろうが、新シーズン開幕直前の時期では選手をオリンピックに派遣しようとは思わないだろう。

 日本代表が銅メダルを獲得した1968年のメキシコ大会当時は、オリンピックの会期は16日間と現在よりも1日短く、また、サッカーの初戦も開会式翌日に行われたので、なんと中1日で試合が行われた(しかも、標高2000メートルの高地で、である!)。

 しかし、現在のサッカーは当時と比べてプレー強度が格段に上がっているので、中2日という日程でも難しくなっている。

 このように、オリンピックの枠組みの中でサッカー競技を行うのは不可能に近くなっているのである。

■23歳以下の「世界選手権」の意味も…

 そして、男子の場合はオリンピックはFIFAのインターナショナルマッチ・カレンダーに含まれないため、各国協会には選手を招集する権利がなく、所属クラブの許可が必要となる。

 そのため、日本代表もオーバーエイジ枠が活用できなかっただけでなく、23歳以下の選手でもクラブの許可が得られず、招集できなかった選手が何人もおり、結局、Jリーグ選抜に海外クラブ所属選手をわずかに加えたような構成とせざるを得なかったのだ。

 事情は、各国とも同じようなもの。つまり、オリンピックのサッカー競技は23歳以下の世界選手権という意味も持たないのだ。

 一方、女子はフル代表が参加する大会であり、インターナショナルマッチ・カレンダーに含まれるので各国ともワールドカップ並みの最強メンバーが参加する大会となる(ただし、中2日という強行スケジュールであることは男子と同じである)。

 女子の場合の最大の問題点はオリンピックがワールドカップの翌年に開催されることだ。

 つまり、女子サッカーでは2年連続で世界大会が行われるのだ。その間にオリンピック予選もあるので、各国ともワールドカップ終了後に新たなチームを立ち上げている余裕はない。日本代表(なでしこジャパン)も、昨年、オーストラリアとニュージーランドで開催されたワールドカップとほとんど同じメンバーでの参加することになる。代表チーム強化のサイクルとしては、望ましい形のカレンダーではない。

 まさに矛盾だらけのオリンピック・サッカー競技……。僕には、こうした大会形式が持続可能だとは思えない。では、オリンピックのサッカー競技は将来、どのように変わっていくべきなのだろうか?

■ラグビーは「連戦も可能」な7人制に

 現行の形式で開催されるオリンピックの枠内で行うことを前提とすれば、これからは11人制サッカーの実施は取りやめて、オリンピックではフットサルを実施するのが現実的な選択ではないか。

 フットサルであれば中1日の試合でも可能だし、屋内で行われるので夏場であっても選手の負担は少なくて済む。また、登録選手数が18人でも問題ないだろう。

 そして、フットサルという、まだ世界的には普及度が低い競技を広めるためにも良い機会になる。日本でも、フットサルの全国リーグであるFリーグの観客動員数は減少傾向にあり、さらにフットサル日本代表がワールドカップ出場権獲得に失敗したため、競技スポーツとしてのフットサルの将来には多くの困難が待ち受けている。オリンピック種目に入ることでフットサルの普及、人気拡大につながれば、サッカー界全体で得るところは大きいのではないか。

 たとえば、ラグビーは2016年のリオデジャネイロ大会からオリンピック種目として復活したが、15人制のラグビーをオリンピック期間に行うのは不可能だ。ラグビーのワールドカップは開催期間が2か月を超え、毎週1試合程度の試合間隔で争われている。

 そこで、オリンピックでは体力的な負担が少なく、連戦も可能な7人制ラグビー(競技時間は15人制が前後半40分なのに対して、7人制は7分ハーフ)が行われている。

 サッカーも、同じような考え方に立って、フットサルを実施すべきではないだろうか。

いま一番読まれている記事を読む