三戸舜介(スパルタ・ロッテルダム)の2ゴールに始まり、山本理仁(シントトロイデン)のミドルシュート、途中出場の藤尾翔太(町田)のリスタートとカウンターからの2発と、24日のパリ五輪初戦・パラグアイ戦(ボルドー)を5-0という華々しい勝利で…

 三戸舜介(スパルタ・ロッテルダム)の2ゴールに始まり、山本理仁シントトロイデン)のミドルシュート、途中出場の藤尾翔太(町田)のリスタートとカウンターからの2発と、24日のパリ五輪初戦・パラグアイ戦(ボルドー)を5-0という華々しい勝利で締めくくったU-23日本代表。これは見る者を大いに驚かせたはずだ。

 4~5月のアジア最終予選不参加だった斉藤光毅(ロンメル)・三戸の2人が加わった効果は絶大だったが、彼らを確実に統率したキャプテン・藤田譲瑠チマ(シントトロイデン)の落ち着きあるプレーも目を見張るものがあった。

 背番号8は単にゲームを落ち着かせるだけでなく、中盤から鋭い配球で数々の決定機を演出。さらに守備でも体を寄せてデュエル勝負に行き、危ないスペースを確実に埋める戦術眼も抜きんでていた。

 特筆すべきシーンと言えるのが、後半42分の藤尾の5点目に至るお膳立てだ。途中出場の川崎颯太(京都)が奪い、藤田にボールを預けると、彼はハーフウェーライン少し前方にいた細谷真大(柏)、右寄りのスペースを走り出していた藤尾を見逃さず、すぐさま細谷にタテパスを供給。細谷から藤尾に渡って、GKとの1対1を確実に沈めるに至った。

 おそらく藤田は川崎がボールを奪った瞬間から全ての流れを見通していたはず。そういった先を読む力はパリ五輪世代でも屈指。所属のシントトロイデンでは昨季、トルステン・フィンク監督(現ゲンク)から「ミニカンテ」と評され、主に守備的なMFとして起用されていたが、攻撃面でも非凡な才能があることを実証した。それは本人にとってもチームにとっても前向きな材料と言っていい。

■日本のストロングを前面に

 藤田がチームをけん引していれば、パラグアイ戦のような多彩な攻撃、ゴールパターンを今後も見せられるのではないだろうか。さしあたって倒さなければならないのが27日(日本時間28日早朝)のマリ戦(ボルドー)だ。ご存じの通り、日本は3月にマリと京都でテストマッチに挑み、1-3で敗戦。相手の屈強なフィジカルと球際や寄せの激しさを前にボールを思うように持てず、リズムを作れないまま敗れている。

 藤田はこの時は後半31分から出ただけだったが、次は今大会の命運を左右する大一番だけに、彼や山本、斉藤、三戸ら主要選手たちは連続先発するだろう。3月の試合で唯一の得点を挙げた平河悠(ブリストル)が右足負傷でどうなるか微妙なところは気になるが、サイドで推進力を発揮できる藤尾や佐藤恵允(ブレーメン)もいる。さらにはバックアップメンバーの山田楓喜(東京V)のような異なるタイプの選手も使おうと思えば使える状況だ。

 そこは大岩剛監督の判断次第だが、連動性や流動性、攻守両面のハードワーク、守から攻への素早い切り替えといった日本のストロングを前面に押し出して勝負していくしかない。

■マリ戦のカギは“落ち着かせること”

 大事なのはフィジカルやパワーに秀でる相手の土俵に持ち込まれないこと。そのためにもボールを落ち着かせるべきところでは確実に落ち着かせ、ミスのない戦いを進めていくことが肝要だ。そのためにも、やはり藤田の統率力は不可欠。ある意味、マリ戦は彼のマネージメントにかかっていると言っても過言ではないだろう。

 28年前の96年アトランタ五輪でも、初戦でブラジルを1-0で破る「マイアミの奇跡」を起こしながら、2戦目のナイジェリア戦を0-2で落としたのが響いて、グループ敗退の憂き目に遭ったことがあった。初戦の大勝で浮かれていたら、足元をすくわれないとも限らない。そういう過去の歴史もしっかりと頭に叩き込みながら、若き大岩ジャパンにはサプライズを起こし続けてほしいものである。

(取材・文/元川悦子)

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