パリ五輪の開幕が近づいている。サッカーは開会式よりも一足先に競技が始まる。オリンピックでの選手たちの活躍は楽しみだが、心配な点もある。はたして、現在の大会方式で、今後もスポーツの祭典は持続可能なのだろうか。サッカー、それ以外のスポーツ、そ…

 パリ五輪の開幕が近づいている。サッカーは開会式よりも一足先に競技が始まる。オリンピックでの選手たちの活躍は楽しみだが、心配な点もある。はたして、現在の大会方式で、今後もスポーツの祭典は持続可能なのだろうか。サッカー、それ以外のスポーツ、そして、出場するすべての選手たちと五輪の「明日」のために、サッカージャーナリスト後藤健生が緊急提言!

■「選手22人」を起用することが可能に

 パリ・オリンピックのサッカー競技では、バックアップメンバーに関するレギュレーションが大会直前の7月11日になって変更され、大会でバックアップを含めた22人を起用することが可能となった。

 これを受けて、山田楓喜東京ヴェルディ)、佐々木雅士柏レイソル)、鈴木海音ジュビロ磐田)が急遽チームに合流することになり、佐野航大(NECナイメヘン)がチーム事情で合流できなかったため、代わって植中朝日横浜F・マリノス)もバックアップメンバー入りした。

 ただし、試合ごとのベンチ入りは18人のままで、その18人のメンバーを入れ替えることができるという解釈であり、2021年の東京大会と同じである。中2日の強行日程で(ベスト4入りすれば)6試合をこなさなければいけないという事実を考えれば、歓迎すべき決定であることは間違いない。

 しかし、あまりにも開幕直前になってからの急なレギュレーション変更だった。

 また、22人のうち、各試合ごとに18人しかベンチ入りできないので、監督は試合のたびに18人を選ぶという余計な作業をこなさなければいけなくなる。

 また、1試合で5人(延長戦に入れば6人)までの選手交代が許されるとしても、ベンチに7人しかいないのでは(1人はGKなので)監督にとっての選択肢は非常に狭くなってしまう。これは、ベンチ入り7人で行われているJリーグと同じだ。

 22人をベンチ入りさせたほうが、試合の面白さは上がるはずなのに、なぜ22人を一つのチームとして考えて全員をベンチ入りさせることができないのだろうか。このような不合理なレギュレーションになったのは、オリンピックを主催するIOC(国際オリンピック委員会)がサッカーの選手枠を18人とする建前に固執しているからである。

■IOCの財政を支える「NBCからの収入」

 IOCはオリンピックの人気拡大のため、テレビ映りの良い(あるいは若者向けの)新競技を次々と加えてきた(パリ大会ではブレイキンという種目が加わり、日本の某公共放送局もだいぶ力を入れているようだ)。

 IOCの財政を支えるのがオリンピック競技大会からの収入であり、とくに重要なのがテレビ放映権料、中でも、アメリカの3大ネットワークの一つNBCからの収入だ。NBCは2032年大会までの夏季冬季オリンピック競技大会の放映権を獲得しており、IOCに対して総額76億5000万ドルという巨費を支払っている(円安ドル高の現在のレートで計算すれば、1兆2000億円を超える)。

 そのため、NBCの発言権はきわめて大きい。

 1964年の東京大会は、開催地東京の気候を考慮して10月に開催されたが、2021年の東京大会は酷暑に見舞われる7月から8月の開催だった。

 これは、IOC憲章で「7~8月開催」が定められているからだが、それはアメリカのネットワークの要求によるものだ。アメリカのいわゆる4大プロスポーツは野球の大リーグ(MLB)を除いて、夏はシーズンオフとなる。また、MLBのヤマ場もプレーオフが始まる秋以降。つまり、夏場はアメリカのテレビ局にとってはスポーツ・コンテンツに乏しい時期に当たる。

 そこで、アメリカ側はオリンピックの夏開催を要求するのだ。

 なお、バスケットボールのNBAはオリンピックがシーズン開幕前に行われるのでNBA傘下の選手たちをオリンピックに参加させることができるし、アメリカはNBA選抜のドリームチームをアメリカ代表としてオリンピックに派遣する。

 一方、シーズン中のMLBは傘下の選手をオリンピックに派遣することはできず、もしパリ大会で野球が実施されていたとしても大谷翔平は参加できないのだ(2028年のロサンゼルス大会では野球も実施されるが、地元開催なのでMLBもオリンピック参加に前向きと言われている)。

 また、アメリカでの人気種目をアメリカ時間のプライムタイムに生中継で放映するために、水泳などの決勝種目が現地時間の午前中に行われるなど、「プレーヤー・ファースト」とは言えないような運営もなされている。

■拡大を続ける実施競技数と「選手数制約」

 オリンピックの人気拡大のために、実施競技数は拡大を続けている。

 1964年の東京オリンピックでは20競技163種目で金メダルを争ったが、パリ大会は32競技329種目。種目数は(女子種目が増えたこともあって)ほぼ倍増である。

 一方で、競技人口が少ない、たとえば近代五種のような競技を実施競技からはずす動きもあったが、オリンピックの伝統を重んじる立場から歴史的な競技をはずすこともできない。

 こうして、オリンピックは肥大化し、開催都市への財政的、環境的な負担は増す一方だ。

 そのため、IOCは「肥大化抑制」のポーズを取らざるを得ず、参加選手数を少しでも少なく見せたい。だから、団体競技のチーム別の選手数にも制約が設けられ、サッカーの1チームの選手数は実質的には22人であっても、数字的には18人とされるのだ。

いま一番読まれている記事を読む