欧州サッカースタジアムガイド2024-2025第3回 ヌーヴォー・スタッド・ドゥ・ボルドー Nouveau Stade de Bordeaux ロンドンのウェンブリー・スタジアム、マンチェスターのオールド・トラッフォード、ミラノのジュゼッペ…

欧州サッカースタジアムガイド2024-2025
第3回 ヌーヴォー・スタッド・ドゥ・ボルドー Nouveau Stade de Bordeaux

 ロンドンのウェンブリー・スタジアム、マンチェスターのオールド・トラッフォード、ミラノのジュゼッペ・メアッツァ、バルセロナのカンプ・ノウ、パリのスタッド・ドゥ・フランス......欧州にはサッカーの名勝負が繰り広げられたスタジアムが数多く存在する。それぞれのスタジアムは単に異なった形状をしているだけでなく、その街の人々が集まり形成された文化が色濃く反映されている。そんなスタジアムの歴史を紐解き、サッカー観戦のネタに、そして海外旅行の際にはぜひ足を運んでもらいたい。連載第3回はヌーヴォー・スタッド・ドゥ・ボルドー(フランス)。


ランドの森とギリシャ神殿にインスパイアされた1000本以上の白い柱が特徴のヌーヴォー・スタッド・ドゥ・ボルドー

 photo by Aflo

【ギリシャ神殿がモチーフのスタジアム】

 現代風の「ギリシャ神殿」でオリンピックが開催される。

 現地時間7月26日から開幕するパリオリンピック。サッカー競技は開会式に先立って24日から予選が始まり、首都のパリに限らずフランスの様々な都市のスタジアムで試合が行われる。男子サッカー日本代表は、24日の初戦のパラグアイ代表戦と27日のマリ代表戦の予選2試合を南西部のボルドーにある「ヌーヴォー・スタッド・ドゥ・ボルドー(Nouveau stade de Bordeaux)」で行う。

 多くの細い柱に支えられた幾何学的でスタイリッシュな外観のヌーヴォー・スタッド・ドゥ・ボルドーは、普段はネーミングライツにより保険会社の名を冠した「マトミュット=アトランティック(Matmut Atlantique)」という名を用いている。FCボルドー(=正式名称FCジロンダン・ボルドー)のホームとなっているスタジアムで、2015年5月にオープンした。収容人数は42,115人で、フランス国内で6番目の大きさを誇る。

 FCボルドーは1881年創立と、フランスで2番目に古い歴史を持つサッカークラブで、紺と白をクラブカラーとし、県名の「ジロンダン」以外にエンブレムやユニフォームの白いV字から、修道士の衣装を意味する「スカプラリオ」という愛称も持つ。

 1990年代後半から2000年代にかけては、MFジネディーヌ・ジダンやDFビセンテ・リザラズ、MFクリストフ・デュガリーといったフランス代表を擁し、UEFA杯で準優勝したり、元代表キャプテンのローラン・ブランが指揮官となりリーグアンで優勝したりするなど強豪クラブの一つだった。だが、2021-22シーズンに降格し、2024-25シーズンからは3部でのプレーが決まり現在は低迷中だ。

 FCボルドーはもともと、現在はラグビーの強豪ユニオン・ボルドー・ベグルが本拠地とし歴史的建造物にも指定されている、1930年代に作られたスタッド・シャバン=デルマを使用していたが、この新スタジアム建設を機にホームを移転している。なお、ラグビーのボルドーには日本代表NO8テビタ・タタフが在籍している。

 2016年EURO(欧州選手権)がフランスで開催されることが決まり、その会場の候補のひとつとして挙がっていたシャバン=デルマが老朽化していたため、ガロンヌ川左岸に新しい多目的スタジアムを建設することを決定した。

 デザインと設計は、ドイツ・ミュンヘンのアリアンツ・アレナや北京オリンピックスタジアムなどを担当した世界的に高名なスイス人建築家ジャック・ヘルツォーク&ピエール・ド・ムーロンにより行なわれた。

 「柱の森」をイメージし、白い柱で支えられたスタジアムは、台座のように見える階段が柱の間に取り囲むように配置され、古代のギリシャ神殿のようにも見える外観が大きな特徴だ。グラウンドと観客席の間に、機械設備からVIPルームに至るまで、すべての施設を収納するくさび形の空間を設けた。

 このくさび形の構造は、外側は階段の断面によって形状が決まり、内側はスタンドの傾斜に合わせている。観客はスタジアム内を階段やスロープで移動するのではなく、グランドスタンドの途中まで外階段を上る設計となっているが、この地点からはスタジアムの全景が見渡せるようになっている。

  工事は2012年11月4日に始まった。2013年4月15日、当時のボルドー市長、FCボルドーのオーナー、当時の監督だったフランシス・ジロらが出席し、スタジアムの最初の石が敷かれた。そして、2015年4月に市に引き渡されるまで、2年3カ月という短期間で完成した。

 こけら落としとなった試合は、2015年5月23日、リーグアンの最終節のボルドーとモンペリエだった。新スタジアムで初めてゴールを決めたのは、元ウルグアイ代表のFWディエゴ・ロランで、試合はボルドーがモンペリエを2-1で下した。このお披露目にはジネディーヌ・ジダンを含む200人のボルドーでプレーしていたOB選手が招待され、試合の最後には、クラブの歴史を振り返るショーも行なわれた。

 2015年9月、スタジアムはネーミングライツを採用し、年間200万ユーロ(現在のレートで約3億4000万円)の10年間契約で「マトミュット=アトランティック」という名が使用されることになった。ただ、ボルドーのサポーターの多くが、このスタジアム名に不満を抱いたため、スタジアムの通称を決める投票が行なわれ、元ボルドーの選手でフランス代表としても活躍した「ルネ・ガリス」という名が選ばれた。

 2015年9月、ボルドーでは20年ぶりとなるサッカーのフランス代表戦が行なわれ、セルビア代表と対戦している。翌年のEUROでは、準々決勝を含む5試合の会場となった。

 またラグビーのボルドー・ベグルは普段は本拠地として使用していないが、ビッグマッチなどはこのスタジアムを使用している。さらに2023年ラグビーワールドカップでは予選プール戦の5試合が行なわれ、ウェールズ代表対フィジー代表戦ではウェールズのウィリアム王子も臨席した。

 なお新スタジアムのスポーツイベントの観客動員記録は、3部に落ちてしまったサッカーではなく、2023年3月25日に行われたラグビーのボルドー・ベグル対スタッド・ロシュレで、42,115人である。

 パリオリンピックでは、ヌーヴォー・スタッド・ドゥ・ボルドーでは、男子の準々決勝を含めて、男女合わせて7試合が行なわれる。ラグビーのボルドーは昨季、国内で準優勝するなど好調だが、オリンピックの盛り上がりをきっかけに、サッカーのボルドーもかつての勢いと熱気を美しいスタジアムに取り戻したい。