(23日、第106回全国高校野球選手権神奈川大会準決勝 武相1―2横浜) 1―1で迎えた九回裏。二死満塁のピンチに武相のメンバーがマウンドに集まった。「この体験、今しかない。楽しもう」。そう話し合って、守備位置に散った。横浜の奥村凌大(2年…

(23日、第106回全国高校野球選手権神奈川大会準決勝 武相1―2横浜)

 1―1で迎えた九回裏。二死満塁のピンチに武相のメンバーがマウンドに集まった。「この体験、今しかない。楽しもう」。そう話し合って、守備位置に散った。横浜の奥村凌大(2年)の打球を、武相の一塁手、平野敏久(3年)は目で追った。「終わっちゃうんだ」。サヨナラの適時打に球場では大歓声がわいた。

 横浜には1年生のとき、2022年の秋の県大会で敗れた。「(過去に)負けている。絶対やってやる」と心に決めた。

 この日、「先制点を取ろう」とチームメートで呼びかけ合った。二回、四球で出塁した平野が先制の本塁を踏んだ。しかし、九回にサヨナラ負け。横浜の校歌が流れると、「言葉が出なかった。涙、出ちゃいました。ここで勝てなかったのがくやしい」。

 平野は生まれつき左耳に聴覚障害がある。「大歓声があると、周りの声が聞こえにくいので、フライを捕るときはジェスチャーで」。手を大きく振ってチームメートと意思疎通に努めている。「プレーに影響するときもあれば、影響しないときもある。相手には関係ないですね」

 「雑草の逆襲」をスローガンに掲げ、春の県大会では42年ぶりの優勝を果たした武相。最後までたくましさを見せたが、53年ぶりの決勝進出まで、あと一歩が遠かった。(稲葉有紗 佐藤英法)