(23日、第106回全国高校野球選手権熊本大会準決勝、熊本国府8―1天草工) 塁上のキャプテンは笑っていた。 九回裏2死一、二塁でカウントは1ボール2ストライク。7点差を追う天草工は瀬戸際に追い込まれていた。それなのにだ。 キーン。次の瞬…

 (23日、第106回全国高校野球選手権熊本大会準決勝、熊本国府8―1天草工)

 塁上のキャプテンは笑っていた。

 九回裏2死一、二塁でカウントは1ボール2ストライク。7点差を追う天草工は瀬戸際に追い込まれていた。それなのにだ。

 キーン。次の瞬間、快音が響いて鋭いライナーが三遊間に飛んだが、ボールは遊撃手が差し出したグラブに収まった。三塁ベースをまわった山崎陽大主将(3年)は笑顔のまま、ベンチの仲間に「整列するぞ」と手で合図し、試合終了のあいさつに並んだ。

 スタンドからは大きな拍手と「ありがとう」の言葉が送られた。

 「天草から甲子園へ」。山崎主将らは合言葉を胸に天草工野球部に集まった。同じ牛深東中から進んだ河本優斗選手、山中雄稀投手ら同級生と、安田健吾監督(46)の下で汗を流してきた。

 1回戦は八回からの逆転勝ち。2回戦も第3シードの文徳から八回裏の攻撃で4点を奪う逆転勝利を収めた。準々決勝では第7シードの熊本商を破り、ノーシードで唯一、4強入りした。

 良いプレーでもミスでも感情を前面に出す。天を仰ぐようなアッパースイングをする。心から野球を楽しむ伸びやかさと、相手投手の動作を研究して盗塁を重ね、狙い球を徹底して打ち崩すという緻密(ちみつ)さと。天草工の持ち味を存分に発揮して勝ち上がってきた。

 この日の準決勝で山崎主将は安打も放ち、4打席全てで出塁した。河本選手は「チームに流れを呼ぼう」とバットを振り抜き、適時打を放った。山中投手は疲れが蓄積し、この試合では四回途中で降板したが、今大会5試合のうち3試合を完投した。

 「高校野球って楽しいな」。甲子園常連校の熊本工を指導したこともある安田監督がうれしそうに話す、そんなチームが今夏の熊本大会に旋風を起こした。

 試合後、選手たちは同じ言葉を口にした。「このチームで野球ができてよかった」(吉田啓)