(23日、第106回全国高校野球選手権東東京大会準々決勝 帝京10―0淑徳=六回コールド) なんで夏だけ、縁がないんだろう。 6月下旬。淑徳の石原凪(なぎ)(3年)は進路指導室で、先生にベンチ入りメンバーから外れることを告げられた。「わかっ…

(23日、第106回全国高校野球選手権東東京大会準々決勝 帝京10―0淑徳=六回コールド)

 なんで夏だけ、縁がないんだろう。

 6月下旬。淑徳の石原凪(なぎ)(3年)は進路指導室で、先生にベンチ入りメンバーから外れることを告げられた。「わかっていると思うけど、入らない」。3年生で外れたのは3人。やっぱりな。学校から駅までの帰り道、気づくと、涙がつーっと流れていた。家ではそんな姿を見せたくなくて、15分の道のりを、ゆっくり歩いた。

 「入らなかった」

 「メンバー変更はまだあるから、そこまでは頑張る」

 父にSNSでメッセージを送ると、返信がきた。

 「メンバー変更があるところまで、頑張れ」

 メッセージを見てまた、涙がとまらなくなった。

 高校では投手一筋だった。1年はけが。2年の春秋はベンチ入りしたが、夏は入れなかった。今春の大会も1次予選は背番号「12」をもらったけど、チーム方針で本大会は選ばれなかった。

 最後の望みを託したメンバー変更。願いはかなわなかった。でも、「このチームでちょっとでも長くやりたい」。気持ちを切り替えて、裏方に回った。

 コントロールがいいからと、打撃投手を頼まれた時、悪い気はしなかった。多い時でボール4箱分、500球くらい。内野ノックも打った。左手には、普段できないような、まめがいくつもできた。もともと前向きなタイプ。次に生かせると、誇らしく思うようになった。

 今大会はボールパーソンとして、グラウンドにいた。23日の準々決勝。みんな、びびっていなくて、いつも通りの野球をしていた。

 過去2年はスタンド応援。最後の夏は、3年間で一番ベンチに近い場所で、一緒に戦った。でも、仲間と一緒に声を出すことはできない。「ここまで連れてきてくれて、いい経験ができた」。本当はもっと、声を出したかった。=神宮(野田枝里子)