第106回全国高校野球選手権群馬大会は22日は準々決勝2試合があった。春の選抜大会王者・健大高崎は大会タイ記録となるチーム1試合4本塁打で高崎経済大付にコールド勝ち。昨夏の群馬大会を制した前橋商は前橋東を下し、それぞれ準決勝進出を決めた。…

 第106回全国高校野球選手権群馬大会は22日は準々決勝2試合があった。春の選抜大会王者・健大高崎は大会タイ記録となるチーム1試合4本塁打で高崎経済大付にコールド勝ち。昨夏の群馬大会を制した前橋商は前橋東を下し、それぞれ準決勝進出を決めた。23日も準々決勝2試合が予定されている。

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(22日、第106回全国高校野球選手権群馬大会準々決勝 健大高崎19-3高崎経済大付=7回コールド)

 四回裏、高崎経済大付の主将で4番の深谷神牙(じんが)(3年)が打席に立った。前を打つ高橋剣芯(けんしん)(同)が2死からチーム初安打の二塁打を放ち、得点の好機を迎えていた。

 走者を出して中軸の深谷らにつなぐのが得点パターン。6点差だったが、冷静だった。「後ろのチームメートを信頼して、つなげられれば」

 ボール球をしっかり見極め、四球で出塁。続く山口涼(同)も四球で出て満塁とすると、6番の御供(みとも)雅也(同)の適時打が敵失も誘い、一挙3得点につなげた。2点目のホームを踏んだ深谷は笑顔でチームメートとタッチを交わした。

 健大高崎には春の県大会で敗れている。チャンスを確実にものにされ、自分たちは無得点だった。深谷らは夏に向けて「できることをしっかりやる」ことを徹底。守備ではアウトにできる打球を確実に捕り、打撃ではストライクを強く振ることを意識した。

 そして臨んだ今大会。再び立ちはだかった健大高崎に対して、「チャレンジャーとしてチームみんなが盛り上がりながらプレーすることができた」。春は1点も取れなかったが、一矢報いた。

 高崎経済大付は過去3年は16強止まりだった。「ベスト8を達成できて、ひとつ壁を越えられた。後輩には甲子園を目指してほしい」と深谷。「楽しい夏だった」と言い残し、爽やかに球場を後にした。(中沢絢乃)

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(22日、第106回全国高校野球選手権群馬大会準々決勝 前橋東3-6前橋商)

 「もう、野球をやめたい」。前橋東の捕手市村雅空(3年)にはそう思い詰めた時があった。春季大会後、正捕手はもちろん2番手捕手の座も下級生に奪われ、心が折れた。涙ながらに家族に打ち明けた。「やめたい」

 調子が悪い時も腰を痛めて練習ができなかった時も、いつも笑顔だった市村の苦しみを理解していなかったことに、父靖雄さん(48)と母素子さん(48)は自分を責めたという。「辞めてもいいんだよ」。そう励ますのが精いっぱいだった。

 でも、市村は折れた心をつなぎ直した。何事もなかったように、翌朝も出かけていった。

 1年の春に市村は誓った。「誰よりも早くグラウンドに行く」。3年間守り抜き、無人のグラウンドで素振りを続けてきた。そんな市村の努力と苦しみをチームメートは分かっていた。「頑張れ」と声をかけてくれた。

 前橋東は、夏の背番号を選手の投票で決めている。この夏の「2」が市村に決まったとき、みんながこう言った。「信じているぞ」。市村は、はっとしたという。自分に足りなかったもの、それは仲間を信じることだ、と。市村のプレーが変わった。投手を信じ、野手を信じ、自信を持ってリードする。市村に引っ張られるように、チームが団結していった。

 試合には敗れた。だが、9回にはプロも注目する右腕・清水大暉をとらえ、2点を返してなお2死満塁と、長打が出れば同点まで食い下がった。楽な戦いはさせなかった。

 選手たちは同じ言葉を口にした。「仲間を信じていた」。市村は「チームが一つになれた。仲間を信じて良かった」。

 後片付けを終え、球場の正面玄関を出ようとした瞬間だった。涙顔でうなだれる選手たちが驚いたように顔を上げた。待ち構えていた応援団が大歓声で彼らを出迎えた。

 選手だけでなく、スタンドも団結していた前橋東。8強という成績を残し、戦いを終えた。(抜井規泰)