試行錯誤の前半戦。岡田監督も頭を悩ませる時期が続いた。(C)産経新聞社「去年より、今年の方が、俺は勝ちたいと思っている」 2024年のセントラル・リーグのペナント争いは大混戦の様相を呈している。 7月に入って上位4チームが2~3ゲー…

試行錯誤の前半戦。岡田監督も頭を悩ませる時期が続いた。(C)産経新聞社

「去年より、今年の方が、俺は勝ちたいと思っている」

 2024年のセントラル・リーグのペナント争いは大混戦の様相を呈している。

 7月に入って上位4チームが2~3ゲーム差の中でひしめきあう展開が続き、オールスターブレークを迎える現段階になっても「本命」はいまだ見えて来ない。そんな中で昨季に18年ぶりのリーグ優勝を果たした阪神は2023年シーズンの独走ぶりを思うと苦戦が続いているようにも見える。だが、開幕から極度の得点力不足に悩む打線の状態を考えれば、リーグ屈指の安定感を誇る投手陣の踏ん張りもあって、ほとんどの期間で貯金を維持して戦っているのは、御の字と言ってもいいのではないか。

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 岡田彰布監督は春のキャンプイン前日に行われたミーティングで「タイガースは(セ・)リーグで連覇した経験がない。今年の目標は、それ一点。143試合が終わって、最終的に一番上にいたい。去年より、今年の方が、俺は勝ちたいと思っている」と選手、スタッフへ向けて宣言。そうしてオフに新外国人やFAによる大きな補強をほとんどせず臨んだ今シーズン。新戦力の台頭による若手主体のチームの底上げもテーマに掲げ、タクトを振るった。

 近本光司、中野拓夢の1・2番から始まる打線は“優勝メンバー”のレギュラー陣をほとんど動かすことなく始動した。ただ、前半戦で大きな誤算だったのは核に据えた生え抜き大砲トリオの苦闘だった。

 昨シーズンから不動の4番に据える大山悠輔は極度の不振に苦しみ、6月2日のロッテ戦で打率が1割台に落ちたタイミングで再調整のために2軍降格。開幕5番でプロ4年目をスタートさせた佐藤輝明も守備の不安定さもあって、5月中旬に登録を抹消。2人が苦しむ中、4月終了時点で16打点とポイントゲッターとして孤軍奮闘した森下翔太も5月以降は失速し、打撃フォームを見直すために、7月6日に出場選手登録を抹消されてしまった。

 一時的とはいえ、クリーンアップの“解体”を余儀なくされ、6月1日のロッテ戦からは12試合連続で4番にリードオフマン型の近本を起用する苦肉の策。チーム打率はリーグ最下位に沈み、頼みの長打でもチーム本塁打数はリーグ6位。なかなか繋がらず、得点を重ねられない打線に百戦錬磨の指揮官も頭を悩ませた。

 このことからも後半戦で「混セ」を抜け出すためのキーポイントが打線の復調にあることは間違いないだろう。投手陣は、昨季同様に層の厚い先発陣と鉄壁の救援陣を擁しており僅差のゲームを拾ってきた。そんなチーム状況で投打がかみ合う分岐点は、ズバリ「3点」。今シーズン、90試合を消化した時点で3得点以上した試合は27勝10敗と大きく勝ち越し、一方で2得点以下では16勝32敗5分と勝率は急降下している。

 岡田監督もシーズン途中に「3、4点取れたらそら楽よ、毎試合、はっきり言うて。そのくらい(3、4点)の計算できたらなあ。1点、2点なるからしんどなってくるんや」とこぼしている。中軸に限らず、昨季は幾度となく出塁し好機を作ってきた近本、中野の1、2番コンビがここまで低調。17日のジャイアンツ戦では2人揃ってスタメンを外れるなど、昨季からは考えられないことが起こっている。

“秘密兵器”となり得る28歳左腕の復活

 試行錯誤が続く中で、得点力をどのように向上させていくのか。前半戦を終えて1ケタ本塁打にとどまる佐藤輝、再昇格後は復調気配を見せる大山、そして19日に再昇格を果たした森下の開幕クリーンアップが“再結成”されることこそ、チーム復調の近道のように思える。

 ここまで安定感を維持してきた投手陣も夏場は疲労の蓄積が考えられる。そんな時に打線がどれだけカバーできるのか。指揮官が口にする連覇へのキーワード「新戦力」という部分では、昨秋に長打力を買われて支配下登録された2年目の野口恭佑や、豊田寛が、打線の救世主となれるかにも期待がかかっている。

 もっとも、盤石に見える投手陣も誤算がないわけではない。開幕ローテーションの一員だった青柳晃洋、伊藤将司が不振で現在は再調整中だ。ファン投票でオールスターに選出された才木浩人が8勝と獅子奮迅の活躍でけん引しているものの、8年目の右腕はシーズン通してローテーションを回った経験はなく、後半戦は未知数だ。

 また、2軍ではブレーク候補だった高卒2年目左腕・門別啓人は3回6失点で降板した5月3日のジャイアンツ戦以降は1軍マウンドからは遠ざかる。やや手薄になっている先発陣にあって青柳、伊藤将、門別の再昇格はもちろん、“秘密兵器”となり得るのが、高橋遥人の復活だ。

 昨年、「左尺骨短縮術」および「左肩関節鏡視下クリーニング術」を受けた28歳は、今年4月17日の2軍戦で893日ぶりに実戦復帰。登板間隔を空けながらここまで順調なステップを踏み、7月20日に支配下登録へ返り咲いた。21年には100投球未満での完封を指す「マダックス」を含む2試合連続の完封勝利をマークするなど、エース級の潜在能力は誰もが知るところ。大きな故障明けで、無理は禁物ながら、勝負所の8、9月以降にスポット起用される可能性は十分にあり得る。

 前半戦を3カード連続の負け越しで終える4位ターンと、踏ん張りどころの阪神。実績組の逆襲か救世主の登場か――。後半戦の巻き返しへ、投打に起爆剤の出現が待たれる。

[取材・文:遠藤礼]

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