(22日、第106回全国高校野球選手権大阪大会4回戦、近大付2―1上宮太子) 最後の打者になるかもしれないのに、笑っていた。 九回表2死走者なし。1点差を追う上宮太子の4番打者、岡本賢明主将(3年)が打席に入る。 1年前の夏。3回戦の大体…
(22日、第106回全国高校野球選手権大阪大会4回戦、近大付2―1上宮太子)
最後の打者になるかもしれないのに、笑っていた。
九回表2死走者なし。1点差を追う上宮太子の4番打者、岡本賢明主将(3年)が打席に入る。
1年前の夏。3回戦の大体大浪商戦で、最後の打者になった。3球三振。「先輩の代を自分が終わらせてしまった」と泣きじゃくった。
新チームになり、主将になった。だが、昨秋と今春の府大会でもチャンスで打てなかった。「1球で仕留められる打者になる」を目標に定めた。
つらい時、支えてくれたのは両親だ。野球がうまくいかなくて機嫌が悪い日も、いつも通りに接してくれた。
大事な日の前夜には、いつも母親がオムライスを作ってくれた。かためだけど卵によく火が通っている。「お店のよりうまい」と割と本気で思っている。
この4回戦の前夜も、当日の昼弁当も、オムライスを作ってくれた。いつものように「頑張ってこい」と送り出された。
九回の打席。「この場面がまたくるか」と正直思った。笑顔だったのは、そうすればリラックスできるかな、と思ったからだった。ガチガチだった1年前とは違う自分になりたかった。
3球目の直球を振ったが詰まってしまい、遊ゴロ。試合が終わった。最後の試合は、ボテボテの内野安打が1本だった。
涙はない。でも悔しい気持ちはちょっと我慢した。最後はキャプテンらしく、りりしく終わりたかったからだ。
家に帰ったら、仕事で来られなかった両親に伝えたい。「2年半の高校野球人生を支えてくれてありがとう。これからも長い人生、恩返ししていくからね」(滝坪潤一)