第45回鈴鹿8時間耐久ロードレースは、Team HRC with Japan Post(高橋巧/ヨハン・ザルコ/名越哲平)が優勝。新記録となる220周を走行して2022年から3年連続の3連勝、ホンダは鈴鹿8耐通算30勝を達成した。2位はY…

 第45回鈴鹿8時間耐久ロードレースは、Team HRC with Japan Post(高橋巧/ヨハン・ザルコ/名越哲平)が優勝。新記録となる220周を走行して2022年から3年連続の3連勝、ホンダは鈴鹿8耐通算30勝を達成した。2位はYART-YAMAHA、3位がYoshimura SERT Motul、と世界耐久選手権フル参戦勢が占めた。

 ドゥカティのスーパーバイク世界選手権(SBK)チャンピオンマシンPanigale V4Rの参戦で注目を集めたDucati Team KAGAYAMA(水野涼/ジョシュ・ウォータース/ハフィス・シャーリン)は4位。

 スプリントレースで圧倒的な速さと強さを見せてきたマシンが、灼熱の8時間を連続走行する苛酷な環境にどれほどの耐久性を見せるのかに注目が集まったが、高度に安定した信頼性を発揮する結果で、来年以降はドゥカティファクトリーがさらに本気度を上げて参戦してくることも期待される。


注目を集めたTeam SUZUKIは見事に8位で完走

 photo by Takeuchi Hidenobu

 一方、さまざまなサステナブル素材を投入して耐久レースに挑む新しい試みで注目を集めたTeam SUZUKI CN CHALLENGE(エティエンヌ・マッソン/濱原颯道/生形秀之)は8位で完走を果たした。

 CN(カーボンニュートラル)をテーマにしたこのプロジェクトは、サステナブルな燃料やタイヤ、ブレーキ、外装などを使用して耐久レースで高い性能を発揮することを目標に結成され、今春に動き出した。

 この企画が発表された3月の東京モーターサイクルショーでは、2022年限りで撤退したスズキMotoGPチームを率いた佐原伸一が今回の陣頭指揮を執ることとも相俟(あいま)って大きな話題になった。社内で本格的なメンバー募集が始まったのはその発表後だった、と佐原は振り返る。

「チーム員が決まったのは4月末。私と一緒に長くレースをしてきた古参メンバーもいれば、まったくレース活動を経験したことがなかった者もいます。全員が顔合わせをしたのは、5月の連休開けに竜洋(静岡県)の社内テストコースを走ったときでした。

 そんな短期間でも、私が想像してきた以上に皆が動いてくれて、6月上旬の8耐公式テストに参加した時点ではトップチームに迫る2分07秒台を出せるバイクになっていたので、レースに向けた準備の半分はその段階ですでにできていたと思います」

【今いる場所は歴史の新たなスタート地点】

 鈴鹿8耐は、金曜の計時予選で上位10番以内に入ったチームが土曜のタイムアタックセッション〈トップテントライアル〉に進出する。Team SUZUKI CN CHALLENGEは16番手タイムだったため、このセッションの進出を逃した。

 決勝は16番グリッドからのスタートとなったことについて、土曜午後に佐原に訊ねると、「これは目標ではなく、あくまで個人的な予想ですが、いいレースペースを保てば我々のポテンシャルならトップ10は狙えるんじゃないかと思っています。チームもライダーも、それだけの力をすでに持っていますから」。


ライダー交替時にサステナブル燃料を補給

 photo by Takeuchi Hidenobu

 そんな期待を述べていたが、日曜午前11時30分にスタートした決勝レースでは、長く厳しい8時間を走り終えるとその予想よりもふたつ上のポジション、8位でチェッカーフラッグを受けた。思ってもいないトラブルや予想外のアクシデントが発生するのは8耐の常だが、サステナブルな素材を投入して挑んだ彼らは、上位陣と遜色ない戦闘力や安定した性能を発揮することを実戦で証明した。

 レース終了直後のピットボックスを訪れると、佐原は安堵した様子で表情をほころばせた。

「これくらいはいけるかなと思っていましたが、実際に走り始めてみると合わせ込まなければならないところがいくつもあって、ライダーたちは走りながらサステナブルなアイテムの特性に合わせてくれたので、彼らのすごさにあらためて感心しました。ライダーとチームが全力を出して、『我々は完走を果たしました』と胸を張ることができる結果を獲得してくれたことを、まずなにより讃えたいと思います」

 佐原は、自分たちが今いる場所はこれから長く続いてゆくであろう歴史の新たなスタート地点で、ゴールはまだはるか先にある、とも言う。

「何かしらやっていないと、道はつながらない。だから、まずはこうやって始めたことに意義があったのだと思います。プロジェクトを立ち上げた段階ですでに、1年限りではなく2年3年、さらにもっと長く続けていくことを視野に入れていました。

 たとえばサステナブル燃料だって今はまだ40%(バイオ由来)だから、そこはやはり100%を目指さなければいけない。その意味でも、このカーボンニュートラルチャレンジはまだ始まったばかり、という認識です。今日の決勝レースにはスズキの経営トップもレース現場へ見に来たので、8位という結果は、来年以降もこの取り組みを続けていかなればならないというアピールにもなったと思います」

【スズキにとって新たな活動の布石となるか】

 2022年に彼らがMotoGPから撤退した際には、これでスズキからレース文化の火が消えてしまうかにも見えた。だが、カーボンニュートラルチャレンジという新たなテーマで参戦した今回の8耐を好結果で終えたことは、新たな活動の布石を打つことにもつながったようだ。

 レースが終わった直後の、チームスタッフや関係者が慌ただしく出入りするピットボックスには、そんな雰囲気が色濃く漂っているように感じられた。いつの時代もおそらくそんなふうにして、人はいろんな場所で新たな種を撒いていくのだろう。


陣頭指揮を執った佐原伸一氏

 photo by Nishimura Akira