かつて外国人打者といえばチームの中軸を担い、毎年のようにタイトル争いに絡んでいた。しかし近年は、タイトル争いどころか規定打席到達すら厳しい状況にあり、"純国産打線"のチームが増えている。その一方で、外国人投手は先発でも…

 かつて外国人打者といえばチームの中軸を担い、毎年のようにタイトル争いに絡んでいた。しかし近年は、タイトル争いどころか規定打席到達すら厳しい状況にあり、"純国産打線"のチームが増えている。その一方で、外国人投手は先発でもリリーフでも活躍しており、「投高打低」は顕著である。はたして、この理由はどこにあるのか。メジャー経験もある薮田安彦氏に、近年の"助っ人事情"についてうかがった。


ここまでリーグ2位タイの7勝をマークしているオリックスのエスピノーザ

 photo by Koike Yoshihiro

【レベルアップした日本人投手】

── 近年、外国人打者の苦戦が続いており、ここまで(7月20日現在)規定打席に到達している選手は、セ・リーグではヤクルトのドミンゴ・サンタナ選手、ホセ・オスナ選手、パ・リーグではロッテのネフタリ・ソト選手、グレゴリー・ポランコ選手、そして日本ハムのアリエル・マルティネス選手の5人しかいません。

薮田 外国人選手は、当然"助っ人"としての働きを期待されていると思いますが、日本の野球を初めて経験する選手にしてみれば、野球のスタイルや攻め方の違いにいかに早くアジャストできるかどうかがカギになります。成績を残せず、状態が上がらないのであれば、チームとしては日本人の状態のいい選手を揃えていく形になると思います。それが結果的に広島や西武らの「純国産打線」になっているのでしょう。

── MLBはストライクゾーンのなかで勝負、NPBは変化球でかわすという違いなのですか?

薮田 それもあるでしょうが、日本はインコースを積極的に使ってくるし、苦手なところを徹底的に突いてくる。日本人の投手はコントロールがすぐれているので、そのあたりの違いもあると思います。

── 3Aクラスの打者が、かつてのようにNPBで本塁打、打点の二冠王を独占することは少なくなりました。来日外国人打者のレベルが落ちているのでしょうか。

薮田 それはないと思います。メジャーのトップクラスの打者になれば話は別ですが、WBCを見てもわかるように、日本人投手のレベルは格段に上がっており、来日外国人打者が結果を残せない大きな要因だと思います。外国人打者が二冠を独占していた時代は、日本人投手の球速は145キロくらいでした。それが今は、ほとんどの投手が150キロを超えている。以前からすれば、平均球速が10キロ近く上がっていると思います。そのうえで制球力もあるので、いくらパワーがあるとはいえ外国人打者でも結果を残すのは難しいでしょう。

【平均球速が格段にアップ】

── 外国人打者が苦戦する一方で、投手は先発や抑えで活躍しています。今年も新外国人は、先発ではアンダーソン・エスピノーザ(オリックス)、リリーフではアンドレス・マチャド(オリックス)、アルバート・アブレイユ(西武)が結果を残しています。

薮田 日本人打者は、やはりスピード系のボールに弱さがあると思います。来日する外国人投手の球速を見ると、150キロは超えていますし、変化球の曲がりも大きい。さらに上背があって、角度もあります。そうした投手たちがある程度ストライクゾーンに投げ込んでくれば、打つのは容易ではありません。

── 薮田さんがメジャーで投げていた頃より、球速や変化球はレベルアップしていると。

薮田 リリーフになると、96〜97マイル(約153〜155キロ)を超えてくるのは当たり前ですから、私がメジャーで投げていた15年前より平均球速は格段に上がっています。

── 大谷翔平選手(ドジャース)も通ったというシアトルのトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」では、最新機器を使った動作解析から、数値化されたデータをもとにトレーニング方法を反映させています。ラプソードやトラックマンなども、日本よりはるかに活用しているわけですね。

薮田 メカニックに関して、体をどう使えばもっと腕が振れるのかとか、強いボールが投げられるのかとか、そのあたりの情報は日本よりはるかに先進的で科学的です。

── メジャーでやれるかどうかの投手は、日本ならそれなりの年俸がもらえるということで来日することはあるでしょうか。先述したエスピノーザは4500万円、マチャドは1億3600万円、アブレイユは1億5000万円、DeNAのアンドレ・ジャクソンは1億4600万円、アンソニー・ケイは1億1600万円、ローワン・ウィックは1億1000万円(金額はいずれも推定)です。

薮田 育成にはそれなりの時間を要しますし、山本由伸投手(ドジャース)や山﨑福也投手(日本ハム)が抜けたオリックス、今永昇太投手(カブス)の抜けたDeNAは、フルに働いてくれる外国人投手を即戦力として獲得したということでしょう。ただ、メジャーで実績があるからといって、日本でも活躍できるとは限りません。私も「日本の野球はどうなのか?」「日本に行けばどのくらいの給料がもらえるのか?」と、よく聞かれました。なかには、まだ日本を下に見ている選手はいると思います。そのなかで、日本の野球に対応しようという"姿勢"を持っている選手かどうか、そこを見極められるスカウトの力が必要になってきます。

【日本で活躍する選手の特徴は】

── 日本で活躍できる外国人打者は、繊細なコントロール攻めに対応できる、逆に外国人投手はスピードとある程度のコントロールがあるということなのでしょうか。

薮田 そうですね。ヤクルトのドミンゴ・サンタナ選手やホセ・オスナ選手のように、逆方向に打てる打者は成績を残せると思います。ピッチャーならはエスピノーザ投手のように150キロを超すスピードがありながらも、コントロールがよく、変化球も有効に使える投手。日本で活躍するうえで、その部分は絶対必要になります。ほかにも、ストライクゾーンの違いや生活環境にも慣れていかなくてはいけません。

── 薮田さんが在籍したロッテは、C.Cメルセデス投手やポランコ選手、ソト選手が揃って活躍しています。

薮田 やってみないとわからない選手に高い年俸を払うのなら、日本である程度実績のある外国人選手を獲得したほうが計算できて得策だと思います。メジャー通算178本塁打を放ちながら、二軍調整を拒否して帰国してしまった巨人のルーグネッド・オドーア選手のような例もあります。彼も「こんなはずじゃなかった」と思ったはずです。そこで気を入れ直してやるのか、それともあきらめるのか、そこは先述したようにスカウトの眼力が問われます。オードア選手のあとに来たエリエ・ヘルナンデス選手は、メジャーでの実績は乏しいですが、必死に野球をやっている姿勢が16試合連続安打など、好結果につながっています。

── 最後にもう一度、お聞きします。来日する外国人選手の「投高打低」の理由はどこにあると思いますか。

薮田 繰り返しになりますが、日本人投手のレベルが上がり、来日した外国人打者は対応に苦戦しています。一方、来日する外国人投手はスピードとある程度のコントロールを持っていれば、活躍できるということになります。たとえば、ソフトバンクのリバン・モイネロ選手は奪三振率が高く、抑えを務めているロベルト・オスナ選手は与四球率が低い。また中日の抑えとして活躍しているライデル・マルティネス選手は奪三振率が高く、与四球率が低い。だからこそ、昨年までの6年間で123セーブ、35ホールドの成績を残せているのだと思います。

薮田安彦(やぶた・やすひこ)/1973年6月19日、大阪府出身。上宮高から新日鉄広畑を経て、95年ドラフト2位(逆指名)でロッテに入団。セットアッパーとして05年、10年の日本一に貢献。07年には最優秀中継ぎ賞のタイトルを獲得。08年から09年までMLBのロイヤルズでプレーし、43試合に登板した。10年からロッテに復帰し、13年シーズンを最後に現役引退。引退後は解説者として活躍している。