パリ五輪に出場する日本五輪代表メンバーに「久保建英」の名前はない。一方で、久保の"周囲の選手たち"がスペイン五輪代表18人のメンバーにごっそりと選ばれている。 バルセロナ下部組織ラ・マシア時代の戦友であるエリック・ガル…

 パリ五輪に出場する日本五輪代表メンバーに「久保建英」の名前はない。一方で、久保の"周囲の選手たち"がスペイン五輪代表18人のメンバーにごっそりと選ばれている。

 バルセロナ下部組織ラ・マシア時代の戦友であるエリック・ガルシア(バルセロナ)、アルナウ・テナス(パリ・サンジェルマン)は、その筆頭格だろう。ジョン・パチェコ、ベニャト・トゥリエンテスは所属するレアル・ソシエダの同僚。ラ・マシア組という意味では、アベル・ルイス(ジローナ)、セルヒオ・ゴメス(マンチェスター・シティ→レアル・ソシエダ)、パウ・クバルシ、フェルミン・ロペス(ともにバルセロナ)、フアン・ミランダ(ボローニャ)とも"同門"と言える。

 ユーロ2024のスペインは、クロアチア、イタリア、ドイツ、フランス、イングランドなどを次々になぎ倒し、12年ぶり4度目、史上最多回数となる優勝を遂げている。勝利を重ねた以上に、能動的にボールを持ちながら、適切で迅速な判断で、コンビネーションで攻め崩す展開はスペクタクルだった。その点、大会で出色だったと言える。

 その成功は、高い技術、戦術を備えた選手を豊富に擁していたことに起因していた。たとえば中盤のロドリ、ペドリ、ファビアン・ルイスはハイレベルだったが、控えのマルティン・スビメンディ、ダニ・オルモ、ミケル・メリーノも遜色のないプレーを見せた。選手層の分厚さは半端なかった。

 では、欧州王座に手を懸けた最強スペイン代表の"弟分"は強いのか?



ユーロ2024に出場したフェルミン・ロペスもスペイン五輪代表メンバーに招集 photo by Getty Images

 結論から言うと、スペインはパリ五輪の優勝候補の本命と言えるだろう。ユーロ2024で主力だったラミン・ヤマルは17歳、ニコ・ウィリアムズは21歳で五輪に出場できる年代だが、彼らはすでに"卒業"している。しかし、ふたりがいなくても大会屈指の戦力だ。

 昨年7月、パリ五輪出場権も懸けたU-21欧州選手権が行なわれ、スペインは準々決勝でスイスに勝利を収め、4カ国に与えられる欧州枠のひとつを獲得した。準決勝ではウクライナに5-1と大勝。決勝でイングランドに敗れたが、目的は果たしている(五輪には英国として出場しなければならないため、イングランドは出場できない)。

【フル代表から加わるフェルミンとバエナ】

 チームのエースと言えるのは、セルヒオ・ゴメス、アベル・ルイスのふたりだろう。

 どちらもバルサ育ちだけにボールスキルが高く、コンビネーションに長ける。セルヒオ・ゴメスはプレミアリーグ王者のマンチェスター・シティでポジションをつかめていないが、五輪代表では攻撃的ポジションを任される。アベル・ルイスもポルトガルのブラガでポストワークの巧みさを見せつけ、ジローナでのプレーが決まっている。それぞれ若くして異国でプレーし、バルサで培った技が鍛えられた印象か。

 セルヒオ・ゴメスはプレミアリーグ王者のシティで期待された左サイドバックでポジションをまだつかめていないが、五輪代表では攻撃的なポジションを任される。アベル・ルイスもポルトガルのブラガでポストワークの巧みさを証明すると、攻撃的なスタイルで来季のチャンピオンズリーグ出場権を獲得したジローナへの移籍が決定したばかりだ。

 このふたりはオーバーエイジの扱いだが、U-21欧州選手権をともに戦っているだけに、日本で言うところのOAとは少々異なる。U-21欧州選手権は2年間にわたって行なわれ、そのスタート時点で21歳以下であれば出場ができるため、なかには五輪の開幕時には規定年齢の23歳をオーバーしているケースがあるのだ(今回の年齢制限は2001年1月以降の生まれ)。

 ほかにもバルサ系選手が多く選ばれており、プレースタイルも能動的である。バルサ同様に攻撃的スタイルを信奉するレアル・ソシエダからも、ベニャト・トゥリエンテス、ジョン・パチェコが選ばれている。プレーコンセプトは、フル代表と同じだ。

 プラスアルファの戦力としては、ユーロ2024スペイン代表のメンバーでもあるフェルミン、アレックス・バエナ(ビジャレアル)が挙げられる。ふたりとも、実にモダンなオールラウンドプレーヤーだ。

 2023-24シーズン、フェルミンはバルサで「シャビ・エルナンデス監督の申し子」と言われ、後半は定位置を奪い取っている。攻守にインテシティを加えられる点で、同じラ・マシア組のガビ(彼もパリ五輪世代だが、ケガで離脱中)に似ているか。ベースとなるテクニックがあり、しつこく守備をした後、タイミングよくゴール前にボールを入れる。予選でトップ下だったオイアン・サンセト(アスレティック・ビルバオ)がハムストリングのケガで戦列を離れているだけに、トップ下で起用されることになるか。

 バエナもフェルミンと同じユーティリティタイプで、攻守両面で貢献できる。サイドでも中央でも、そのテクニックを生かし、チームに推進力を与えられる。くるくるとターンし、死角からのキラーパスなど、多彩な技を持つ。U-21欧州選手権では、セルヒオ・ゴメスが左サイドの時は中盤で起用されたが、ポジションにとらわれないインテリジェンスとテクニックは、アンドレス・イニエスタにも通じる。

 チームを率いるサンティ・デニア監督は現役時代、ビルドアップに優れたセンターバックで、今のチームにも近い論理を当てはめている。その代名詞と言えるのが、急遽、招集したセンターバックのエリック・ガルシアだろう。

 エリック・ガルシアはカタールW杯にもスペイン代表として出場している。ビルドアップ力は欧州屈指と言える一方、守備者としての強さや速さが足りない。長所と短所がはっきり出る選手だが、チームとして主導権を握った戦いをするため、監督のイメージを具現化できる存在として白羽の矢が立った。すでに代表デビューも飾っている17歳のパウ・クバルシと組むセンターバックは楽しみだ。

 そして「切り札」と言えるのが、20歳のFWサムエル・オモロディオン(アラベス)だろう。

 オモロディオンは身長193センチと大柄ながら、自在に動けるのが強みで、昨シーズンもラ・リーガで、相手をパワーや高さで圧倒している。2度のバルサ戦では、金星につながるゴールを連発。大舞台で力を発揮する強さを持った大型ストライカーだけに、パリ五輪をきっかけに大化けするかもしれない。

 7月24日、スペインは五輪開幕式に先駆け、パルク・ド・フランスでウズベキスタンと戦いの火ぶたを切る。フランス、アルゼンチン、モロッコ、マリ、パラグアイなどとのメダル争いになるか。グループの勝ち上がり次第では、準々決勝で日本と対戦だ。