(21日、第106回全国高校野球選手権熊本大会準々決勝、九州学院3―2ルーテル学院) 「大丈夫。あとはまかせろ」。八回裏2死三塁、1ボールになったところでルーテル学院のベンチは好投していた先発の片桐悠太投手(2年)に代えて一塁を守っていた…

 (21日、第106回全国高校野球選手権熊本大会準々決勝、九州学院3―2ルーテル学院)

 「大丈夫。あとはまかせろ」。八回裏2死三塁、1ボールになったところでルーテル学院のベンチは好投していた先発の片桐悠太投手(2年)に代えて一塁を守っていた與(あたえ)賢史朗主将(3年)をマウンドに送り込んだ。

 1点差で負けている試合の最終盤。絶対に追加点を与えたくない場面だった。「あそこは與しかいない」。熱い闘志とリーダーシップから、監督は最も信頼する選手に試合を託した。

 「片桐の好投を無駄にはさせない」。與主将は気持ちを込めた速球を外角に投げ込み、相手打者を一球で打ち取った。「ヨッシャー」と雄叫びをあげながらベンチに戻った。

 主将の気合に鼓舞された味方打線は、続く最終回の攻撃で2死一、二塁と同点の好機をつくり、與主将に打席をまわした。2ストライクに追い込まれ、バットを短く持ち替えた。「食らいついてやる」。だが、その打ち気を読まれたのか外角に緩い変化球を投じられ、空振り三振。試合は幕を閉じた。

 「あそこでみんなの信頼に応えられず、主将として力不足でした」。試合後、與主将は唇をかんだ。

 この大会、與主将は2回戦では4打数3安打で盗塁も決め、3回戦では逆転サヨナラの適時二塁打を放った。この試合でも先取点を生む犠飛を打った。「熊本一の主将」。3年間かぶり続けて色あせた帽子のつばに書いた言葉を、体現した。(吉田啓)