2-2の同点に追いつかれた直後の70分に、川崎フロンターレの鬼木達監督は一挙に3人の選手を敵地・三協フロンテア柏スタジアムのピッチに送り出した。  DF三浦颯太とMF大島僚太、MF山本悠樹とMF瀬古樹、そしてFW山田新とMF瀬川祐輔の交代…

 2-2の同点に追いつかれた直後の70分に、川崎フロンターレ鬼木達監督は一挙に3人の選手を敵地・三協フロンテア柏スタジアムのピッチに送り出した。

 DF三浦颯太とMF大島僚太、MF山本悠樹とMF瀬古樹、そしてFW山田新とMF瀬川祐輔の交代。さらに瀬川は1トップに入り、ひと足早く投入されていたFW小林悠はそのまま右サイドでプレーさせた意図を、指揮官はこう語った。

「前線からの守備のスイッチが入りづらくなっていたのと、相手の背後に行くパワーが減ってきていたので瀬川をあの位置で使いました。(小林)悠が右サイドにいれば攻撃でも守備でも相手のストロングを消しながら、自分でゴール前に入っていくところや時間を作るところで、彼の頭のよさで勝負できる、と」

 柏レイソルと白熱の攻防が繰り広げられた20日のJ1第24節。ほぼ初めてといっていい布陣に、キャプテンのMF脇坂泰斗は「交代選手を含めてチーム全体で、というメッセージだった」と3点目を取りにいくためだとあらためて受け止めた。

■「相手が慌てて取りにくる分、かわせるかな、という感覚」

 迎えた79分。勝ち越しゴールが生まれる。DF大南拓磨が敵陣へ攻め込み、ペナルティーエリア内の右角に侵入した瀬古へ縦パスを通す。トラップした瀬古は、逆サイドをフリーで駆けあがってきたFWマルシーニョへのパスを選択する。

 マルシーニョがダイレクトで右足を合わせる姿を視界に入れながら、脇坂は「勝手に体が反応していました」と、ゴール前へ詰めていった自身の動きを振り返る。

「ただ、セガちゃん(瀬川)も反応していたので、そこでガチャガチャとならないように。セガちゃんが先に反応した分、その後をバックアップしようと」

 マルシーニョのシュートをキャッチしたかにみえた、柏のGK松本健太からボールがこぼれる。すかさず瀬川が詰めるも、強烈なシュートは松本の下腹部を急襲。松本がうずくまるなかで、こぼれ球を拾った脇坂は心憎いほど冷静沈着だった。

「あそこで勢いをつけて蹴ってしまうと多分、相手に当たって入っていなかったと思う。相手が慌てて取りにくる分、かわせるかな、という感覚があったので。かわしてからすぐに打つ、という感じで落ち着いてやれたのがよかったですね」

 ひと呼吸おいてから、コントロールを重視しながら左足を優しく振り抜く。カバーに入ってきた柏のMF戸嶋祥郎とDF犬飼智也、そしてシュートを放った後の瀬川の間をすり抜けていったシュートが、ゆっくりと柏ゴールに吸い込まれた。

■脇坂泰斗の試合後の思い

 最終的には10分を超えたアディショナルタイムを含めた残り時間を、一丸になって防いだ末に、7試合ぶりの勝利を告げる中村太主審の笛が鳴り響いた。

 その間にはペナルティーエリア内に侵入したFW小屋松知哉が切り返した際に、対応したMF橘田健人の右手にボールが当たる場面も訪れている。VARの介入をへてOFRの末に判定が変更され、柏にPKが与えられた。脇坂が言う。

「PKになったものはもうしょうがないので、あとはソンリョンさんを信じていこうと。ただ、ソンリョンさんがPKを止めても、その後にこぼれ球をゴールされたらどうしようもないので、それだけをみんなに声がけしていました」

 試合が終わった直後のひとコマ。PKを止めた守護神チョン・ソンリョンに真っ先に駆け寄っていった橘田は、安堵した表情で「ありがとう」と感謝している。

 敵地のゴール裏を埋めたファン・サポーターを含めて、川崎に関わるすべての人々の思いを結集させてもぎ取った勝利に、脇坂はこんな言葉を残している。

「うーん、ここからだな、という思いが一番強かったですね」

 下位のアルビレックス新潟湘南ベルマーレ、そして京都サンガF.C.もすべて勝った。順位も14位のまま、下位チームとの勝ち点差も変わらない。それでもようやく悪い流れを断ち切った川崎は中断期間でさらにチームを再整備し、ホームにヴィッセル神戸を迎える8月7日の中断明け初戦で今シーズン初の連勝を目指す。

(取材・文/藤江直人)

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