林陵平のフットボールゼミ7月24日にパリ五輪の男子サッカーがスタートする。大岩ジャパンはどんなプレーを見せてくれるだろうか。ここでは人気解説者の林陵平氏に、五輪代表で期待する注目の4選手とその特長を教えてもらった。聞き手は大岩ジャパン発足か…

林陵平のフットボールゼミ

7月24日にパリ五輪の男子サッカーがスタートする。大岩ジャパンはどんなプレーを見せてくれるだろうか。ここでは人気解説者の林陵平氏に、五輪代表で期待する注目の4選手とその特長を教えてもらった。聞き手は大岩ジャパン発足からここまで、チームを現地取材しているライターの池田タツ氏。



五輪開催国フランスとの親善試合でゴールを決めた藤田譲瑠チマ photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

【動画】パリ五輪サッカー日本代表 林陵平の注目4選手↓↓↓

【アンカーがどれだけ機能するか】

――まず18名のメンバーを見ての、感想はいかがでしょうか?

 U23アジアカップでずっと信頼し続けた選手を、しっかり呼んでいる形に見えます。そのなかで三戸舜介(スパルタ・ロッテルダム)選手や斉藤光毅(ロンメル)選手など、前線の選手を少し加えた形でしたね。

――ちょっと残念だったのは、オーバーエイジがいない点です。

 そこは難しいところだと思うんですよね。大岩剛監督が呼びたくても呼べないこともありますし、欧州のクラブに所属している選手が多いなかで、そこが難しかったのかなと思います。

――メンバー発表会見でも「呼べる最強のメンバー」的な言い方をしていました。

 ほかの国、フランスはアレクサンドル・ラカゼット(リヨン)や、ジャン=フィリップ・マテタ(クリスタル・パレス)など、オーバーエイジで結構いいメンバーを呼んでいますからね。

――自国開催となると、そういうこともできるのかなというところですね。それでは林さんに、何名か注目選手を紹介していただきたいのですが、ひとり目、誰でしょうか?

 やはり、4-3-3のシステムを採用して、継続的に使うのであれば、そこのアンカーの選手ですね。藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)選手です。チームとして彼がどれだけボールを触れるか、機能するかというのが、チームにとってパリ五輪を戦うにあたって、すごく大事になる部分なので、彼の活躍には期待したいですね。

――この林さんの『フットボールゼミ』を見ていて思うのは、戦術的ないろいろな問題って、ほとんどアンカーがキーマンになっていますよね。

 そうですね。攻守ですごく重要な役割を担っていますし、やはりビルドアップのとこでどれだけボールを引き受けて、前線にボールを配球できるか。アンカーを捕まえにくるチームはたくさんあるので、じゃあ捕まえられた時に、わざと少し下りてあげて、できたスペースをほかの味方に使わせてあげられるかとか。

 守備陣は4-3-3ですと、4-4-2で守る時もあれば、4-1-4-1で守る時もあるので、そこでの前線へのプレッシャーのかけ方をどれだけうまく誘導できるか。アンカーとして防波堤になれるかもすごく大事ですよ。

――藤田選手のすばらしいところはどこですか?

 個人的に思うのは、配球の部分ですね。ピッチの真ん中で受けることによって360度からプレッシャーがかかるんですけど、そこでもビビらずにボールを引き受けようとするメンタリティのところ。その引き受けたところから、縦方向にボールを出せるというのは、彼の魅力だと思います。

――藤田選手はピッチ上でいちばん声を出しています。それがものすごいハイトーンボイスで、ピッチ上でめちゃくちゃよく通るんですよ。彼の指示によってチームに勢いが生まれたりするので、彼の存在はこのチームで大きいと思います。

 だからU-23日本代表のロドリ(マンチェスター・シティ/スペイン)になってほしいですね。

【最終ラインのライン設定は大事】

――続きまして、注目選手のふたり目は誰でしょう?

 センターバック(CB)の高井幸大(川崎フロンターレ)選手ですね。このCBのところでオーバーエイジを呼ぶなど、いろいろな話があったと思います。そこがないとなると、高井選手がチームを引っ張るCBになると思うので注目です。

 守備でどれだけゼロで抑えられるか。間違いなくそこが勝ち上がっていくための重要な部分だと思います。ユーロ2024でもそうでしたが、失点をしないチームは強いというか必ず勝ち上がってきます。その中心選手として彼には期待したいですよね。

――能力的に、高井選手の見どころはどこになりますか?

 192㎝の高さと、サイズがありながらもスピードもあるので、ビルドアップでボールの配球ができる部分ですね。バランスが整っている選手だと思うので、あとはそこにメンタリティがどう乗っかってくるか。初戦のチームの戦い方で自信が出れば、すごく乗っていけるのかなと思います。

――このチームでは最年少(19歳)になりますが、カタールのU23アジアカップで大きな成長が見られました。ああいう成長がパリ五輪でまた見られると、海外からお呼びがかかるかなというくらいのポテンシャルがあると思います。

 そうですよね、あの若さでこの大舞台で活躍できれば、サイズもありますし、いろんなチームから呼ばれるのは当たり前のことです。

 最終ラインは、そのライン設定が難しいと思うんですよね。前に潰しにいく時と少し引いてブロックを作る時。基本的にハイプレスに行った時には最終ラインを高く押し上げないといけないですが、その最終ラインの背後を使われると嫌なのでラインを上げたくなくなる。それでも最終ラインが頑張って上げれば、全体の陣形をコンパクトにして戦えます。その最終ラインの設定の部分でもやはり彼に頑張ってほしいなと思います。

【ポリバレントな選手の大切さ】

――では、3人目の注目選手を教えてください。

 荒木遼太郎(FC東京)選手ですね。U23アジアカップではすごく貢献度が高かったですよね。4-3-3のインサイドハーフとしても振る舞えますし、今FC東京では4-2-3-1の1トップに入り「ゼロトップ」のような形でプレーしています。戦術的なIQがすごく高いので、状況に応じた最適解を常に選べる選手ですね。技術レベルも高いですし、ハードワークできますし、切り替えも早いと。そうした点も含めて、すごく期待している選手です。

――「技術寄り」の選手がこれまでの大岩ジャパンにはそんなにいなかったなかで、最後に入ってきて非常に大きい戦力になったという感想です。荒木選手のこの足元のうまさは、やはり林さんから見ても特殊なものがありますか?

 足元の技術はものすごくあるんですけど、ボールを受ける前の「認知・判断・実行」の「認知」の部分がすごく優れています。常に首を振っていますし、ボールを受ける前から何をしなければいけないのかがイメージできています。ボールを持った時のアイデアも、ほかの選手ではできないようなプレーをするので、見ていて楽しい、ワクワクするような選手ですね。

――本人に話を聞いた時に、味方のどういうプレーが得意かは常に見ていて、「このタイミングで出してあげたほうがこの選手はいいな」とか「この選手はこの場合右足に出してあげたほうがいいな」とか、そういう細かいところも全部考えているそうです。

 だからいちばん前でもプレーできるし、インサイドハーフでもプレーできる、トップ下もできると、いろんなポジションでプレーできるわけですね。短い大会期間のなかで、選手も18人と少ないなかで、例えばケガ人が出た時にいろんなところに入ってプレーできる。これはチームとして、戦術的な幅がすごく広がる選手だと思います。

【仕掛けられる選手は貴重】

――それでは注目選手の4人目にいきましょう。

 個人的にすごく注目しているのが、平河悠(ブリストル・シティ)選手ですね。

 僕は東京大学の監督をしていた1年目に平河選手と対戦しているんですよ。平河選手のいた山梨学院大学と対戦して、もうボコボコにされたんです。ハットトリックを決められて、ひとりだけちょっと次元が違っていた。だからその時名前を確認して覚えていました。

――林さんから見て、平河選手はどういうタイプですか?

 まずはウイングとして仕掛けることができる選手です。自信を持っていて、恐れず行ける。1対1の場面って、仕掛けるのは簡単なように見えて簡単じゃない。やはり自信がないといけないんですが、そこのメンタリティの部分で自信が見えますし、仕掛け方、仕掛けるタイミングもすごくいいと思います。相手陣の深い位置を取れる選手というのはすごく貴重です。

――攻守4局面(攻め、守り、攻→守、守→攻の切り替え)のすべてで高い能力を発揮できるのがよさだと思いました。

 サボらないですよね。サボらないで走力があるので、4-4-2で守備をした時の相手の牽制の仕方がすごくうまいです。ふたりのCBが広がった時に牽制をかける、相手が3バックの時の左右のCBの脇にプレッシャーをかけるとか、そのプレッシャーのかけ方がすごくうまいので、守備でもすごく貢献できる選手です。

――平川選手本人が言ってるのは、雑草魂じゃないですけど、自分は非エリートだと。中学の時とかはチームが11人揃わないようなところでやっていたみたいな話をされていて、そんな選手がここまで活躍するという姿を見せたいんだと言っていました。そうしたハートの強さも感じさせますよね。

 大学で東京都1部リーグですからね。そこからブリストル・シティまで行っているので。この短いなかでの彼の成長であったり、プレーだけではなくてメンタルの部分もすごくすばらしい選手なので、期待したいですよね。

――はい。ここまで注目選手をうかがってきましたが、あらためて大岩ジャパンにエールをお願いします。

 注目選手では4名を挙げましたけど、それ以外の選手も本当にすばらしい能力が備わっています。そして、個人のパフォーマンスは大事なんですけど、グループとして組織としてどう戦うかも、強いチームと戦う上ではやはり大事になってきます。大岩監督が戦術的にまとめたチームが、オリンピックでどれだけ活躍できるかという部分はすごく楽しみにしています。

 勝ち負けがありますから、そんなに簡単じゃないと思います。メダルを獲りにいくのは当たり前なんですけど、そうしたなかでもやっぱり1試合1試合、しっかり戦って上を目指していってほしいですね。