先月、広島の新スタジアムで日本代表戦が行われた。当然、取材に赴いた蹴球放浪家・後藤健生だが、もちろんフィールドワークはスタジアムにとどまらない。瀬戸内海へと漕ぎ出し、日本サッカーに影響を与えた2つの島と歴史に思いを馳せた。 ■目的はシリア…

 先月、広島の新スタジアムで日本代表戦が行われた。当然、取材に赴いた蹴球放浪家・後藤健生だが、もちろんフィールドワークはスタジアムにとどまらない。瀬戸内海へと漕ぎ出し、日本サッカーに影響を与えた2つの島と歴史に思いを馳せた。

■目的はシリア戦と「新スタジアム」見学

 6月にワールドカップ予選のシリア戦を観戦に広島まで行ってきました。

 森保一監督率いる日本代表はすでに2次予選突破を決めており、最終戦ではシステム変更のテストなどを行いながらしっかりと5対0で勝利。日本のコンディションさえ良ければ、アジア相手に簡単には負けないということが証明された試合でした。

 広島に行ったのは、もちろんそのシリア戦を見るためでしたが、もう一つ、今年の2月に完成した「エディオンピースウイング広島」を見学することも目的でした。

 それまでサンフレッチェ広島が本拠地として使っていた「エディオンスタジアム広島」(広島ビッグアーチ)は、1990年の完成当時は東京・国立競技場と神戸ユニバ記念競技場に次ぐ規模の陸上競技場で、1992年に日本がアジアカップで初優勝した記念すべきスタジアムでしたが、築30年を経て老朽化しており、広島の人々にとってはまさに待望の新スタジアム完成でした。

 市内中心地からも徒歩圏内でアクセスは抜群。西日本各地には、試合が見やすい近代的な球技専用スタジアムが次々と完成しています。

■行きはフェリー、帰りは電車で「呉」旅行

 さて、僕は試合前日の夜に広島に到着して、知人と広島の食べ物を肴に酒どころ広島の銘酒を堪能。試合当日はゆっくりと目を覚ましました。さて、試合まで何をしていようか……。

 広島という街は何度も来ているところです。どこか、近隣で見るべきところはないか……。考えた僕は、まだ行ったことがなかった呉(くれ)市に行ってみることにしました。

 広島からJR呉線に乗って約40分。呉は、人口20万人ほどの大きな町です。

 何といっても、呉といえば海軍の町。あの戦艦大和も呉市で建造されました。第2次世界大戦末期の日常を描いたアニメーション映画『この世界の片隅に』(2016年、片渕須直監督)の舞台も、この海軍都市でした。

 しかし、往復ともJRというのは芸がない……。そこで、行きは船で行って、帰りはJRに乗って帰って来ることにしました。ホテルの目の前の電車(広島電鉄)の停留所から宇品港行きに乗って終点で降ります。目の前に、フェリー乗り場がありました。やって来たのは、呉港経由で愛媛県松山市まで行くフェリーでした。

■安芸小富士がある「似島」と広島サッカー

 もっと年季の入った船が来るかと思っていましたが、新しい近代的な船でびっくり。観光客が数組。今のご時世、当然のことですが、外国人の親子連れも乗っています。客室の前には大きな窓があり、豪華な椅子に座って景色を楽しむこともできますし、屋上のデッキで海風に吹かれながら時間をつぶすこともできます。

 フェリーは、定刻11時20分に宇品港を出発しました。

 まず目に入ってくるのは安芸小富士(あきのこふじ)。三角錐型の山容が富士山に似ているのでこう呼ばれています。標高は278メートルと富士山の10分の1もないのですが……。

 この安芸小富士があるのは、似島(にのしま)という小さな島です。宇品港を出るとすぐに、フェリーはこの似島のすぐ東側を南に向かいます。

「似島」という地名を見て、サッカーのことを考えた方は相当なサッカー史通です。広島のサッカーの歴史を語るうえで、似島は避けて通ることのできない場所なのです。

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