(20日、第106回全国高校野球選手権東東京大会5回戦 駿台学園2―8二松学舎大付) きっとお父さんが、そばで見守ってくれている――。駿台学園のエース川口琉玖(るうく)(3年)はこの夏、特別な思いを胸にマウンドに上がった。20日、優勝候補の…

(20日、第106回全国高校野球選手権東東京大会5回戦 駿台学園2―8二松学舎大付)

 きっとお父さんが、そばで見守ってくれている――。駿台学園のエース川口琉玖(るうく)(3年)はこの夏、特別な思いを胸にマウンドに上がった。20日、優勝候補の二松学舎大付に敗れたが、全力で向かっていった。

 今年5月、父の剛生(たけお)さんを肝臓がんで亡くした。57歳だった。

 父との思い出は野球とともにあった。キャッチボールに付き合い、仕事の合間を縫い試合を見に来てくれた。大好きな父の応援で、野球を頑張れた。

 今年3月、父が末期の肝臓がんであることを知らされた。父は抗がん剤の副作用が重く、入院せずに自宅での療養を選んだ。「大丈夫」との言葉と裏腹に、やせ細る父。それでも、春の大会は応援に駆けつけてくれた。

 練習試合があった5月12日の朝。父の容体が急変した。「もうだめかもしれない」。涙が止まらず付き添おうとしたが、父はこう送り出した。「大丈夫だよ。試合に行ってこい」

 その試合で久しぶりの完投勝利をあげた。帰宅後に報告すると、「ナイスピッチ」。起き上がって喜んでくれた。「夏の試合を見に来てほしい」。そうお願いすると「絶対に行く」と約束してくれた。その言葉が、父との最後のやり取りになった。数時間後、父は静かに息を引き取った。

 棺には、昨秋の大会で初めてもらった背番号「1」のゼッケンを入れた。悲しみのあまり、体重は1週間で6キロ落ちた。

 今春の大会では、昨冬に腰を骨折したこともあり、背番号10になっていた。父のためにも「夏の大会で背番号1を取り戻す」と誓い、練習に打ち込んだ。

 今夏、言葉通り背番号1を取り戻した。母の愛さん(48)にユニホームに縫いつけてもらうまで、ゼッケンは父の骨つぼにかけた。

 そのユニホームで臨んだ今大会、全試合で先発した。4回戦では日大一を完封し、チームを11年ぶりの16強に導いた。愛さんは、父の遺骨を持って毎試合スタンドに駆けつけた。

 学校史上初の8強入りがかかった二松学舎大付戦。「格上の強豪校だけど、駿台学園の新しい歴史を作るよ」。この日の朝、父の仏前に語りかけた。

 落ちる球もスライダーもカーブも、持っている全球種を使って抑えようとした。七回まで4失点。終盤の逆転に望みをかけた。

 だが、スタミナが切れた八回、連打で4点を追加され、突き放された。試合終了のサイレンを聞き、あふれ出る涙をぬぐった。

 試合中、父が見守ってくれている気がしたから、強くなれた。「良い報告がしたかった。でも、きっとお父さんも『よく頑張ったね』って言ってくれる気がする」。二人の夏が終わった。=大田(佐野楓)