サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は長いか、短いか。 ■なぜ女性はノースリーブを着るのか 「好景気になるとミニスカートが流行る」  …

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は長いか、短いか。

■なぜ女性はノースリーブを着るのか

「好景気になるとミニスカートが流行る」

 そんな俗説を聞いたことがある。逆に「不景気になるスカートが短くなる」という説もあるらしいので、あまりあてにならないが、女性のスカートの長さが世情を反映しているというのは、どこか惹きつけられる論理である。

 サッカーのパンツも、「世に連れ」て、短くなったり長くなったりしているようで、何やら面白い。

 さて、なぜ鈴木優磨選手や大迫勇也選手がパンツをたくし上げるのか、私にはひとつの「私論」がある。スポーツ医学の専門家に笑われるかもしれないが、これは私の経験に基づくものなので、少し聞いてほしい。

 1980年代なかばに女子チームの監督をするようになって気づいてことがあった。夏になると、半そでのユニフォームの袖を肩までたくし上げて「ノースリーブ」のようにしてプレーする選手を何人も見かけたのだ。

 そういえば、一般の生活の場でも、女性がノースリーブを着るのはおかしいことではない。男性にはいない。少なくとも、1980年代当時にはいなかった。

 気温が高くなる夏に重要になるのが、体温の調節である。暑いときには人の体は汗をかく。汗が蒸発するときに熱を奪っていく「気化熱」によって体温を下げるのである。汗の蒸発面積を広げるために袖をまくって「ノースリーブ化」させるのではないかと、女性の選手たちを見ながら私は推測した。そして、男性の選手が半そでで十分なのに対し、女性が腕をより大きく露出させなければならないのは、「筋肉量」の違いではないか―。

■欧州で進む「女性用ユニフォーム」開発

 筋肉は動くときにたくさんのエネルギーを消費し、熱を発する。そのため筋肉量の多い人ほど体温が上がりやすいというのが、スポーツ医学の常識らしい。しかしだからこそ、筋肉は、同時に熱を体外に放出する機能も高いのではないかと、私は推測したのである。そのおかげで男性はひじ近くまである「半そで」でも十分に動き回れるのだが、女性はそれでは足りず、「ノースリーブ」状態を求めるのではないか―。

 1992年に欧州選手権の取材でスウェーデンに行ったとき、「女性用のサッカーユニフォーム」があるのを知って感心した。「三分袖」、すなわち袖が「二の腕」の半分ほどしかないシャツだったのである。イングランドには、「袖」とは形ばかり、いわゆる「フレンチスリーブ」の女性用ユニフォームがあった。これらの「実例」は、私の「私論」を裏づけるもののように思われた。

 日本では、「女性用のサッカーユニフォーム」の開発が遅れ、今も男性用ユニフォームの小さいサイズのものを使っている例が多い。なでしこジャパンでさえ、袖が短めの「女性用モデル」が提供されるようになったのは、ここ10年ほどのことに過ぎない。

 2007年に東南アジアの4か国共同開催で行われたアジアカップ(日本代表はイビチャ・オシム監督)で、日本代表の羽生直剛選手(当時ジェフ千葉所属)が肩をたくし上げてプレーしているのを見て、私はさらに意を強くした。小柄で細身だった羽生選手。筋肉量が少ないため、女性選手のような「体温放出システム」を必要としているのではないかと、勝手に想像したのである。

「早くなでしこジャパン用のユニフォームをつくって、羽生選手にはそれを着させるべきだ」

 酷暑のハノイで日本代表のトレーニングを見ながら、私は本気でそう考えた。

■欧州の女子サッカーでは「短パン」が主流

 さて、今回のテーマはパンツである。2011年の女子ワールドカップ決勝戦。ドイツのフランクフルトで「絶対的女王」アメリカに挑んだなでしこジャパンは、当時としては普通のヒザが少し出る長さのパンツ姿だった。しかし、相手のアメリカの選手たちは短いパンツを履いていた。ただでさえ長いアメリカ選手の足が、太ももが大きく露出されると、余計長く見えた。

 過去10年間、女子サッカーはとくに欧州において大きな飛躍を遂げ、今や各国にプロリーグがあるまでになった。その多くの国で、選手たちが「短いパンツ」を愛用しているのが目立つ。日本のWEリーグでは、まだヒザの少し上までのパンツを履いているチームが大半で、わずかに大宮アルディージャVENTUSが少し短めのパンツでプレーしているが、欧州の女子サッカーでは今や太ももを大きく露出する、とても短いパンツが主流になっているのである。

 前段を読んでニヤリと笑ったあなた、あなたに強く言っておきたいが、これは、断じて、男性のファンの目を楽しませるためといった不純な動機によるものではない。純粋にスポーツの観点、パフォーマンスを向上させるためのものなのである。

 そう、女性のサッカー選手は、体温を放出し、パフォーマンスを保つために短いパンツを必要としている。それは男性との筋肉量の違いによるものなのだ(と、ここでは断言してしまう)。

 では、鈴木優磨選手や大迫勇也選手はどうかって? 彼らの筋肉量は、少ないどころか、周囲のJリーグ選手たちより多いかもしれない。しかし彼らは、体験として、太ももを大きく露出させることが自分のパフォーマンスを利していることに気づいているのだ。

 とすれば、メーカーの都合やファッションセンスでチーム全員に長いパンツを履かせることなど、プロスポーツとして大間違いであることは明白だ。選手の好みに適した長さのパンツを用意することで、大事なスポンサー名が露出されないといった、いわば「事故」を防止するのが、プロのサッカークラブというものではないか。

 年を追うごとに暑さが厳しくなる日本の夏。今季は間に合わないだろうが、来季に向けたユニフォームの開発には、ぜひ長さの違うパンツの用意をしてほしいと思うのである。

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