阪神甲子園球場が開場して100年の節目を8月1日に迎える。第106回全国高校野球選手権大会(8月7日開幕)に向けた地方大会も、各地で熱戦が繰り広げられている。 昨年、セ・リーグで史上初めてMVPと新人王を同時受賞した阪神の村上頌樹(しょう…

 阪神甲子園球場が開場して100年の節目を8月1日に迎える。第106回全国高校野球選手権大会(8月7日開幕)に向けた地方大会も、各地で熱戦が繰り広げられている。

 昨年、セ・リーグで史上初めてMVPと新人王を同時受賞した阪神の村上頌樹(しょうき)投手(25)は、智弁学園(奈良)時代の1年夏、3年春夏と計3回、甲子園のマウンドに立った。快速球を武器に飛躍を遂げる右腕が、高校球児にエールを送る。

 ――村上選手が高校を卒業して7年が経ちました。

 もうそんなに経ったのかと、早いですよね。高校生活も、いま振り返るとあっという間でした。

 ――2016年、3年春の選抜大会で優勝。1人で全5試合を投げ、高松商(香川)との決勝ではサヨナラ安打を放ちました。

 印象深いです。試合をするたびにチームがレベルアップしていくのを実感しました。仲間を信じ、後ろにつないで、つないで、という意識でプレーしていた。誰かがミスしたら誰かがカバーする。そんなチームだったから、連投でも苦しくなかったです。

 ――兵庫県の淡路島出身。高校から奈良県五條市で3年間の寮生活が始まりました。

 初めて智弁学園に行った時、「うわあ、周りに何もない。ここで生活するのか……」と思いましたね。でも練習が休みの日は外出する気力、体力がなかった。野球と勉強の毎日でした。この仲間と甲子園に出るんだ、という目標が心の支えになっていました。

 ――1年夏からベンチ入りしました。

 めっちゃ緊張しました。奈良大会の初戦、代打で公式戦に初出場しました。その時、応援のブラスバンドを聞いて、「高校野球ってすげえ」と思いました。テンションが一気に上がって、ヒットを打てたんです。

 ――その夏に甲子園の土も踏みました。

 初戦の相手は明徳義塾(高知)。球場に入った瞬間の景色は忘れられません。漫画で見た絵と同じだったんです。めちゃめちゃでかくて。2学年先輩に岡本さん(和真=巨人)がいて、相手には岸さん(潤一郎=西武)がいる。注目カードでお客さんも満員でした。

 ――九回にマウンドにも立ちました。

 途中から左翼の守備に入って最後に登板しました。地に足が着いていないような、ふわふわした感じでしたが、その大会で同じ1年の東邦(愛知)の藤嶋(健人=中日)が活躍していたので気合が入った。三振も奪えて自信になりました。

 ――3年夏も甲子園(第98回大会)に出場しました。選抜を制した後、チームに変化はありましたか。

 春の優勝後は、どん底でした。注目され、練習試合で(自分からヒットを打つだけで相手チームは盛り上がる。6月は20試合近く練習試合をして、2、3勝しかできなかった。本当につらかったです。

 ――どのように乗り越えたのですか。

 毎日のように練習後に選手だけで集まり、ミーティングを開きました。「3年生が変わらないとチームは変わらない」と言い合った。それから自主的に練習する選手が増えていきました。

 ――最後の夏は特別な思いはありましたか。

 自分らはそんなに強くないと思っていたので、夏も絶対に優勝するぞ、みたいな意識はあまりありませんでした。気負いはなく、なんとか一つずつ勝っていこうという思いでした。

 ――村上選手といえば、スピン量の多い、浮き上がるような直球が武器です。

 ある日の練習で小坂将商監督から「お前の直球は低めに伸びる」と言われ、僕もその時に初めて気づきました。それから、キャッチボールの時からスピンをかけることを意識して投げてきたことで、磨かれていったのだと思います。

 ――3年夏は2回戦で鳴門(徳島)に敗れました。

 やりきった、という思いが一番でした。最後の打者の飛球を相手の二塁手が捕った瞬間、「ああ終わったんだ。これから何をしようかな」というすっきりとした気持ちでした。でも、帰りのバスの中で、「みんなと野球するのはこれで最後か」と思うと、泣けてきちゃいました。

 ――高校野球で後悔していることはありますか。

 2年秋の近畿大会準々決勝です。大阪桐蔭が相手で、強豪校の名前に圧倒されていました。それで、甘いコースにいったら打たれると思い、隅、隅を狙って投げたらボール、ボールで自滅。逃げてしまい、4―9で敗れました。この試合を機に、もっと強気に攻めようとなりました。

 ――村上選手の投球の原点ですね。高校球児へメッセージをお願いします。

 自分の「今」をぶつけてほしいです。困ったら、ど真ん中にまっすぐを投げられるようになってほしい。空振りを取れなくても、打ち損じや野手の正面に飛ぶこともある。でも、あのころの僕のようにボール球では何も始まりません。

 吹っ切れて投げられるくらいの練習をして、自信をつけてほしい。逃げちゃダメ。打てるもんなら、打ってみろ。真っ向勝負です。(聞き手・山口裕起)

 むらかみ・しょうき 1998年6月25日生まれ、兵庫県出身。奈良・智弁学園高から東洋大を経て2020年秋のドラフト5位で阪神に入団。昨季は10勝を挙げ、最優秀防御率(1.75)を獲得。セ・リーグMVPと新人王をダブル受賞した。身長175センチ、体重85キロ。