夏休み(第14戦ベルギーGP後から第15戦オランダGPまでの約3週間)を前に、角田裕毅の周囲が騒がしくなってきた。海外のメディアを中心に「角田をレッドブルに昇格させないのはなぜか?」という論調が強くなってきたのだ。 レッドブルのセルジオ・…

 夏休み(第14戦ベルギーGP後から第15戦オランダGPまでの約3週間)を前に、角田裕毅の周囲が騒がしくなってきた。海外のメディアを中心に「角田をレッドブルに昇格させないのはなぜか?」という論調が強くなってきたのだ。

 レッドブルのセルジオ・ペレスは不振が続き、前戦イギリスGPでもウェット路面に足をすくわれてQ1敗退。どんな契約にも「パフォーマンス条項」というものがあり、定められた基準を満たしていなければドライバー側が契約を解除することも、逆にチーム側が解除することも可能だという一般論を背に、夏休みの時点でレッドブルがペレスを見限るのではないかとの憶測が流れた。


レッドブルへの移籍が噂されている角田裕毅

 photo by BOOZY

 クリスチャン・ホーナー代表自身が「このままではコンストラクターズタイトルの確保が難しくなる」と懸念を示しているだけに、その噂が広まるのはなおさら。だが、6月に2年延長を発表したばかりの契約の解除は、あくまで憶測でしかない。

 その一方で、イギリスGPの翌週にシルバーストンでRB20をドライブしたリザーブドライバーのリアム・ローソンは、チームが期待したどおりのパフォーマンスを示すことができなかったと報じられた。

 もっとも、これも憶測でしかなく、ローソンが走行したのはプロモーション撮影用の走行枠で、専用の非競技用タイヤでしか履いていない。ドライバーのパフォーマンスを測る目的の走行ではないとチームも否定している。

 ただしそれであっても、RBのポイントの大半を獲得(31点中20点)し、イギリスGPでもマシン競争力が圧倒的に乏しいなかで奮戦して10位入賞を果たした角田に注目が集まり始めた。

 さらにイギリスGP翌週末のグッドウッドで開催されたモータースポーツイベントでは、これまで頑(かたく)なに乗ることが許されてこなかったレッドブルの2022年型RB18に角田が搭乗し、この噂に拍車をかけたのだ。

【角田がレッドブルのマシンに乗った背景】

 ハンガリーGPの木曜日、各国テレビ局や海外メディアに囲まれた角田は、何度も同じことを答えなければならなかった。

「過去3年に比べて、レッドブルで戦う準備ができているのは間違いないと思います。いずれにしても決めるのは僕ではないので、自分のパフォーマンスに集中して結果を出し続けるしかないと思っています。そうすれば自分を売り出す必要もなく、自然とそのチャンスは巡ってくるんじゃないかと思っています」

 ローソンは昨年5戦にスポット参戦した実績を吟味されたうえで、今季のRBのシートが角田とダニエル・リカルドに与えられている。つまりレッドブルのなかでは、このふたりよりも格下の扱いである。

 よって、リザーブドライバーとはいえ、仮にペレスの後任が必要になったとしても、その筆頭にローソンが挙げられるのはおかしいと疑問を持つのは、角田自身の率直な感想というよりも、自分自身がここまでやってきたことに対する自信だろう。

「もし彼らがリアムを(レッドブルのシートに)選んだとしたら、それは変ですね。少なくともそういうことにはならないと思います。リアムがいい仕事をしているのは確かだと思いますけど、僕はそれ以上のことをやってきていると思うので」

 グッドウッドの件も、イベント進行が1時間ほど遅れたことによって、本来ドライブする予定だったペレスがニース行きのフライトに間に合わなくなるため会場を出発し、残っていた角田が急遽ドライブすることになったというだけのことだ。

 しかも、今回はホンダのF1参戦70周年を祝う走行枠であり、1965年の初優勝マシンRA272(角田)と第4期の初タイトルマシンRB16B(マックス・フェルスタッペン)の共演のはずがマシントラブルでRB18になり、ペレスはそもそもこの時間にドライブする予定ではなかった。

【フロアもサイドポッドも旧型のRB】

 噂がひとり歩きをしている。だが、角田自身は特に何も変わらず、いつもどおりのスタンスで今週末に臨んでいると言う。

「僕にとって何か害のある悪い噂ではないのでいいことですけど、別に......。いずれにしても、僕は(レッドブルと)そんな話はしていませんし、噂は噂でしかないので、僕としてはやることは何も変わらないですね。

(夏休みにペレスのパフォーマンス条項について決断を下すという)噂が本当ならそうかもしれませんけど、僕は詳しいことは何も知らないですし、ヘタしたらメディアのみなさんよりも詳しくないくらい(苦笑)。長期的な契約がフィックスされていない今の状況では、僕にとってはすべてのレースが重要だということに変わりはないですね」

 噂は噂でしかなく、この2戦でペレスが好走を見せれば、この話は一気に霧散する。それは角田にどうこうできることではないのだから、角田は自分のレースに集中し、少しでもいい結果を出すだけだ。

 また、RBと角田にとってこのハンガリーGPは、極めて重要なレースだという。

 今週末のハンガリーと来週のベルギーで行なわれる2連戦が終わると、F1は3週間の夏休みに入る。中団グループ最上位のままでシーズン折り返し地点を迎えたい、というのがチームの狙いだと角田は言う。

「この2戦は僕らにとって、ものすごく重要な2戦です。僕たちは中団グループのトップに立った状態で後半戦のスタートを切りたいので。だから今週は100%パフォーマンスを出しきる必要があると思っています」

 RBは第10戦スペインGPでアップグレード投入に失敗し、検証の末、ほぼそれ以前のマシンパッケージに戻しての走行を強いられている。フロアもサイドポッドも旧型だ。

 そのため、長いストレートがあって空力効率が求められるベルギーのスパ・フランコルシャンは、今のRBにとってはシルバーストンやレッドブルリンク同様に、苦手なサーキットに位置づけられる。逆にハンガロリンクは、RBが苦手とするストレートや高速コーナー、長く回り込むコーナーが少ないため、今のVCARB 01でもまずまず戦えるはずだ。

【ライバルのハースとは現在4点差】

 角田は言う。

「ほぼ前の状態に戻した形ですけど、いいパーツだけを残したので、全体的なパフォーマンスは開幕7戦よりも上がっていると信じたいですね。クルマの特性的にも低速域に合っているはずですし、長くて回り込むようなコーナーよりも90度くらいのコーナーが多いので、過去3戦よりは合っていると思います」

 ただし、この間にハースやアルピーヌもマシン改良を進めてパフォーマンスを向上させてきている。よって、シーズン序盤戦のような中団トップでの快走は容易ではないだろうと角田は覚悟している。

「ほかのチームも速くなってきているので、イモラの時のような(相対的に優位な)パフォーマンスがあるとは全然思っていないです。ポイントを獲るのは、かなりタフな戦いになると思います」

 しかし、中団トップとしてシーズンを折り返すためには、少しでも自分たちに有利なサーキットでハースの前を走る必要がある。ハースとは4点差。少しでもそのポイント差を広げておかなければ、ハースが強そうなベルギーGPで逆転されるおそれさえある。

 だからこそ、このハンガリーGPは絶対に負けられない戦いになるのだ。

 レッドブル昇格の噂は、たしかに角田や周囲にとっては悪くない。しかし、今の角田が見ているのは、そこではない。目の前のレースをRBとともに戦い、RBを前に押し上げること。それが自分の評価を高めることにつながるということを、トップチームにふさわしいドライバーに成熟した今の角田はよく知っている。

 夏休み前のこの2連戦が、とにかく勝負だ。