生活道路が封鎖されて出来上がるマウンテンコースは、レースのために作ったクローズド・サーキットのような安全性が見込まれていない。選手は250以上あるといわれるカーブを記憶し、200km/h以上の高速で駆け抜ける。「走っている時は夢中。だけど、…

生活道路が封鎖されて出来上がるマウンテンコースは、レースのために作ったクローズド・サーキットのような安全性が見込まれていない。選手は250以上あるといわれるカーブを記憶し、200km/h以上の高速で駆け抜ける。

「走っている時は夢中。だけど、次のコーナー、次のコーナーと次々と考えていられる時は、それでもコントロールができている。例えばエンジンの調子が悪くなって、そのことが頭の中に割り込んでくる時が、集中力が途切れる時。コーナーに入る一瞬のタイミングを惑わせる。コンマ何秒の判断のミスで1メートル、2メートル狙ったコースと違ったところにずれてしまう」

より速く走りたいという“情熱”と、より確実にという“冷静さ”が山中の胸の内で交錯する。「マン島はどんなことがあるかわかないレースだけに、1回1回出し切っていかないと悔しい思いをするが、一歩、一歩、確実に積み重ねていくことが、最短の速くなる方法だと考えている。前年よりレベルアップして確実に一歩前に進んでいく。そこで焦ってしまうと、事故につながってしまう。次のレースに出られなくなるという心配もあるが、このコースを速く走るというのは経験が必要だと思う。絶対的な経験値が僕には足りない」。

しかし、すべてのレースを終えた時、山中の胸中には大きな後悔が芽生えた。「出場したスーパースポーツクラスは決勝レースが2回ある。第1ヒートの経験を活かした第二ヒートが戦略だったが、天候不順で第2ヒートが中止。1回目のチャレンジがすべてになった。その時、本当に2回目が走れないことにものすごく後悔して気が付いた。1回1回全力を出し切って走っていれば、こんな思いをしなかったのではないか」。

限界に挑戦することで記録は生まれるが、超えるわけにはいかない。限られた局面で最高のパフォーマンスを発揮しようとすることは、同時にリスクを伴う。「そこの境目を作るのが難しいけど、今の自分ならできると思う。僕はそういうことをレースで学んでいる。この経験がほかの人のヒントになってくれたら。それがマン島に行った僕が伝えられることだと思っている」。

2018年のマン島TTは来年1月エントリー受付開始。山中は再び多くの個人スポンサーを募り、唯一の日本人ライダーとして挑戦を続ける。

多くの個人スポンサーの名前が刻まれたマシンと共に、山中正之は走る。

多くの個人スポンサーの名前が刻まれたマシンと共に、山中正之は走る。

2017年マン島TT 山中正之、たった1人の日本人ライダー

2017年マン島TT 山中正之、たった1人の日本人ライダー