中谷潤人インタビュー 前編 WBC世界バンタム級王座を保持する3階級制覇王者、中谷潤人(M.T/26歳)の初防衛戦が迫っている。7月20日、両国国技館で行なわれるビッグイベントのメインで、同級1位のビンセント・アストロラビオ(フィリピン)と…

中谷潤人インタビュー 前編

 WBC世界バンタム級王座を保持する3階級制覇王者、中谷潤人(M.T/26歳)の初防衛戦が迫っている。7月20日、両国国技館で行なわれるビッグイベントのメインで、同級1位のビンセント・アストロラビオ(フィリピン)と対戦する。


7月20日に初防衛戦に臨む中谷潤人

 photo by 山口フィニート裕朗/アフロ

 最近は海外でも評価が急上昇しており『リングマガジン』が選定するパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングでもトップ10入り。"ネクスト・モンスター"は、その異名通り、井上尚弥に次ぐ日本のエースのひとりとして注目を集めていきそうだ。

 6月、中谷の独占ロングインタビューが『リングマガジン』の電子版6月号に掲載された。神奈川県相模原市にあるMTジムで5月6日に収録されたものだが、話題は海外での評価、今後の目標、日本人王者が揃ったバンタム級統一への思い、そして井上尚弥とのドリームマッチにまで広がりを見せた。

 今回、『リングマガジン』の了解を得た上でインタビューの日本語版をお届けしたい。謙虚ながら、自信を垣間見せるようになった中谷の言葉からは、さらに明るい未来が見えてくる。

【2月の勝利でPFPトップ10入り】

――『リングマガジン』のPFPランキングでトップ10入りを果たしたことについてどう感じますか?

中谷潤人(以下、JN):評価をしていただけて素直に嬉しいです。1位を目指していますが、「トップ10のランキングに入る」という目に見える形で評価されたことで、まずは階段をひとつ登れたかなと感じています。

――6回TKO勝ちを飾った2月のアレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)戦の内容は海外でも高く評価されました。自身でも満足度は高かったのでしょうか?

JN:いい試合ができた手ごたえはありました。チャンピオンに挑戦したのはあの試合が初めてだったので(※)、不安要素がまたひとつ消えたかな、という感じ。いい内容でしたし、自信にもなりました。

(※)フライ級、スーパーフライ級で王座を獲得した試合は「王座決定戦」だった。

――階級を上げるにつれて相手の身体は大きくなっているのに、パンチの効き具合は増しているように感じます。

JN:階級を上げることによって、自分にプラスに働くことのほうが大きいと思います。スピードが上がりましたし、パンチのキレも感じますから、いい方向に作用しているんでしょうね。

――普段の振る舞いも以前より堂々としているように見えます。

JN:勝った直後は自信も生まれるんですが、次の試合までに薄れていくもの。毎試合、初心に戻ってではないですけど、慢心はしていないです。

【「4団体統一にこだわらなくてもいいのかな」】

――自身のボクシングの長所、逆に課題にしている部分は?

JN :長所は、接近戦でも距離を取っても戦えるところです。それによって、どんなタイプの相手にも対応できる。ただ、階級を上げると相手の"当たり"の強さなどは増してくるので、工夫が必要になるとは思います。

 一方で課題は、接近戦での戦い方はもっと"肉づけ"しないといけません。「より丁寧に戦わなければいけない」と思っていて、レベルアップが必要ですね。

――これまでのインタビューなどからも、KOに対するこだわりが感じられます。

JN:「KOしたい」という気持ちは常に持っています。そう思っていると、達成するためのアクションが自然に増えていく。よりアグレッシブになると思っているので、意識して口に出すようにしています。

――根底にあるのは、ファンを喜ばせたいという気持ちですか?

JN:そうですね。ファンにエネルギーを与えたいです。KOを求めて試合を見にきてくれるお客さんもたくさんいると思うので、その期待に応えたいです。

――今後の目標は、やはりバンタム級の統一でしょうか?

JN:4団体統一にこだわらなくてもいいのかな、という気持ちもありますね。スムーズに試合が組める見通しがあれば頑張れるのかなとは思います。ただ、そうじゃなくても評価の高い王者と統一戦をして、その後にまた階級を上げるという選択肢もありますよね。状況に応じて、という感じです。

――元IBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)との対戦を望んでいましたが、5月4日に西田凌佑選手に敗れて王座を陥落しました。

JN:驚きました。「負けたか」と。ジムの選手の試合時間と重なっていたのでライブでは見られなかったんですけど、ロドリゲスはやりづらそうでしたね。

――ロドリゲスに勝った西田選手の印象は?

JN:やるべきことを徹底していましたね。最初のラウンドは特にロドリゲスが中に入りづらそうにしていて、西田選手が序盤から主導権を握っていました。まだハイライトしか見ていないんですけど(取材時点)、12ラウンドなどはけっこう近い距離でも戦っていたので、「彼もどちらでも対応できる選手なんだな」と思いました。

【同階級の日本人王者で戦いたいのは?】

――バンタム級では4団体の王座を日本人選手が独占(※)していますが、それについてはいかがですか? また、対戦したい王者はいますか?

(※)WBA:井上拓真、WBC:中谷潤人、WBO:武居由樹、IBF:西田凌佑

JN:統一戦がやりやすくなりそうですね。あとは、日本のファンも喜んでくれるのでありがたいです。(対戦したいのは)WBA王者の井上拓真選手。評価が高い選手なので。ただ、同じ階級の王者だったら誰でもいいです(笑)。

――拓真選手に勝てば、兄・尚弥選手との対戦にまでつながるストーリーが作りやすい、というのもあるんでしょうか?

JN:そうですね。それもあります。

――そのためにはスーパーバンタム級(53.524~55.338kg)への昇級が必要ですが、現在の普段の体重は?

JN : 61、62kgです。もちろんたくさん食べたりして、増やそうと思えば増やせますが(笑)。

――振り返ってみれば、その体格(173cm)でよくフライ級の体重を作っていたなと感じます。バンタム級でも減量苦はあるんでしょうか?

JN :(体重調整は)試合の1カ月半くらい前から始めて、そこから少しずつ落としていきます。最後は少し厳しいですが、以前の減量と比べるとやはり楽になりました。今では計量当日まで食事が採れるのがかなり大きい。階級を上げたあとに減量のダメージが少なくなったことが、いいパフォーマンスにつながっていると思います。

――トレーナーのルディ・ヘルナンデスさんはスーパーバンタム級を飛ばしてフェザー級に上げることを望んでいるとも聞きますが?

JN:それは本人からも聞きました。自分はそこでも戦える体格なこともわかっています。ただ、僕はどちらかというと段階をひとつずつ登っていきたいタイプなので、これからしっかり話をして決めていきたいです。

(後編:井上尚弥とのビッグファイトへの思い「なるべく早く実現したい」>>)

【プロフィール】
中谷潤人(なかたに・じゅんと)

1998年1月2日、三重県生まれ。27戦27勝(20KO)。小学6年からボクシングを始め、中学1年から桑名市のKOZOジムに入門。中学を卒業後、アメリカに単身留学し、16歳の時にM.Tジムへ移籍。2015年4月にプロデビューし、2019年2月日本王者に。2020年11月にWBO世界フライ級王座を獲得。2023年5月にWBO世界スーパーフライ級王座、2024年2月にWBC世界バンタム級王座を獲得し、井上尚弥、田中恒成に続いて史上3人目の「無敗での3階級制覇」を達成した。