中谷潤人インタビュー 後編(前編:バンタム級4団体統一へ、対戦したい日本人王者の名は?>>) 6月に『リングマガジン』の電子版6月号で掲載されたWBC世界バンタム級王者・中谷潤人(M.T/26歳)の独占ロングインタビュー日本語版。後編では、…

中谷潤人インタビュー 後編

(前編:バンタム級4団体統一へ、対戦したい日本人王者の名は?>>)

 6月に『リングマガジン』の電子版6月号で掲載されたWBC世界バンタム級王者・中谷潤人(M.T/26歳)の独占ロングインタビュー日本語版。後編では、ファンの期待が高まる井上尚弥戦についてより具体的に語った。



昨年2月、2022年度 ボクシング年間表彰式に出席した中谷潤人(左)と井上尚弥

 photo by 日刊スポーツ/アフロ

【15歳でのアメリカ留学は「正しい選択だった」】

――バックボーンについて質問をさせてください。中谷選手は小学3年から極真空手をやっていましたが、ボクシングにも生かされていますか?

中谷潤人(以下、JN):空手では全然勝てなかったので、どうですかね(笑)。「蹴りがないならいけるかな」という気持ちでボクシングをやり始めましたが、ボクシングは難しくて、それゆえにのめり込んでいきました。身体の使い方、パンチの打ち方などは空手と似ているところもあるので、やっていてよかったかなとは思います。

――高校に進学せず、アメリカに単身留学してボクシングに打ち込むという選択をしました。あらためて振り返って、適切な選択だったと思いますか?

JN:正しい選択だったと思います。周りの人にはできない経験をさせてもらったので、成長につながったと感じています。同じ学年の人たちは当たり前のように高校に行きましたが、僕は目標を持ち、そのためにはどうするかということを考えて行動した。人と違っても、その選択ができてよかったと思います。

――ご両親からは反対されたんでしょうか?

JN:最初は反対されましたね。でも、僕の行動を見てもらうことで納得してもらえました。少し時間はかかりましたけど、わりとすんなり説得できましたと思います。

――10代の頃からアメリカでトレーニングしてきたことによるアドバンテージは? そして、再びアメリカのリングに立ちたいという気持ちはありますか?

JN:スパーリングパートナーがたくさんいるので、実戦練習を豊富にできることがアドバンテージです。いろんなタイプの選手と練習することで対応力が磨かれます。(アメリカで試合したい気持ちは)もちろんあります。日本とアメリカ、交互くらいに試合をできたらいいなと思います。

――同じ道を辿ろうとしている若いボクサーにどうアドバイスしますか?

JN:状況によりますし、その人のメンタリティにもよりますよね。自分自身を信じなければやっていけないことを、僕は身を持って感じています。もし同じようなことをする人がいたら、どんな状況でも自分を信じて、頑張っていくことが大事だと思います。

――ちなみに、これまでスパーリングを含めて戦った中で、一番強かった選手は?

JN : タイプによります。パンチが強かったのはトニー(アンソニー・オラスクアガ/アメリカ)かもしれません。寺地拳四朗選手(三迫)はジャブが上手でした。その2人は印象には残っていますが、ひとりを選ぶのは難しいですね。

――よく映像を見るボクサーは?

JN : 日本人では山中慎介さんと長谷川穂積さん。外国人選手ではリカルド・ロペス(メキシコ※)が好きです。ロペスは(トレーナーの)ルディにも「映像を見ろ」と言われ、以降、よく見るようになりました。

(※)1990年代にミニマム級で絶対的強さを誇った2階級王者。大橋秀行からタイトルを奪い、21回の防衛に成功した。通算成績51勝1分無敗。

――減量や練習の合間でのストレス発散方法、趣味などは?

JN : YouTubeで誰かがご飯を食べている動画を見ることです(笑)。減量中はそれを見て満たされています。大食いの動画とかですね(笑)。趣味は釣りですけど、最近はあまり行けてないですね。おかげさまで試合後は、各所に挨拶に行ったりと、忙しくさせてもらえるようになりましたから。

【井上尚弥と戦うとしたら、どう戦う?】

――先ほど(前編)も話が出ましたが、最近は井上尚弥選手との対戦を望む声が出てきています。

JN:周りもより期待してくれるようになりましたし、それだけの試合ができるようになってきたのが嬉しいです。階級がだんだん近くなっているというのもあって、自分でも意識するようになっています。

――いつ頃に戦いたい、という希望は?

JN:まだやることがあるのでなんとも言えないですけど、できれば早いほうがいいですよね。ただ、そのためにも自分がもっと評価を上げなければいけません。

――ビッグファイト実現のため、尚弥選手にステータスを近づけたいということでしょうか?

JN:その通りです。周囲の人がもっと期待してくれる状態でやりたいので、そのためにはバンタム級の統一や、複数階級の制覇などが必要ですよね。「もう少し時間がかかるかな」とは思いますけど、なるべく早く実現できるようにいい試合をしていきたいです。

――あらためて、尚弥選手の強さはどこに感じますか?

JN :試合中に対応できる、ということでしょうか。いくらパンチが強くてスピードがあっても、相手の戦いに対応できなかったらパンチは当たらない。どんな相手にもそれができるのが優れているなと思います。

――これほど世界で評価される選手が、近い世代にいることについてはどう思いますか?

JN:嬉しいです。特に尚弥選手はKOを量産するので、「僕もKOを積み上げていかないとな」と刺激がもらえます。

――少し気の早い話ですが、実際に対戦が実現したらどのように戦うつもりですか?

JN:尚弥選手はひとつのことに特化しているわけではないので、向き合った時にいろいろなことをしなければいけないと思います。より多くの引き出し、戦い方を持っていないと戦えないでしょうね。

――勝つ自信はありますか?

JN:実際に戦えることになったら、100%の自信を持って臨めるようにしたいですね。今は階級も違うし、実績を積み重ねなければいけないですが、その過程で自信を培っていきたいです。

――ボクサーとしての最終目標は?

JN : 目標が尽きることはないと思います。今、最終目標だと思っていることも、それを達成したらまたより大きなものが見えてきますよね。現在のひとつの大きな目標は、パウンド・フォー・パウンドで1位になること。たぶんそれを達成したら、また別の目標ができると思います。

――現在26歳ですが、何歳くらいまで現役を続けたいですか?

JN:わからないですが......、できるだけ長くできるように頑張ります(笑)。

【プロフィール】
中谷潤人(なかたに・じゅんと)

1998年1月2日、三重県生まれ。27戦27勝(20KO)。小学6年からボクシングを始め、中学1年から桑名市のKOZOジムに入門。中学を卒業後、アメリカに単身留学し、16歳の時にM.Tジムへ移籍。2015年4月にプロデビューし、2019年2月日本王者に。2020年11月にWBO世界フライ級王座を獲得。2023年5月にWBO世界スーパーフライ級王座、2024年2月にWBC世界バンタム級王座を獲得し、井上尚弥、田中恒成に続いて史上3人目の「無敗での3階級制覇」を達成した。