元日本代表キャプテン・篠山竜青が分析パリ五輪に挑む男子バスケ日本代表の実力(前編) 昨年のFIBAワールドカップでパリオリンピックの出場権を獲得し、国民を沸かせた男子バスケットボール日本代表が大会本番を迎えるまで、あとわずかとなった。 パリ…

元日本代表キャプテン・篠山竜青が分析
パリ五輪に挑む男子バスケ日本代表の実力(前編)

 昨年のFIBAワールドカップでパリオリンピックの出場権を獲得し、国民を沸かせた男子バスケットボール日本代表が大会本番を迎えるまで、あとわずかとなった。

 パリオリンピックに臨む日本代表メンバーはワールドカップ出場の精鋭たちを軸に、NBAで活躍する八村塁(PF/ロサンゼルス・レイカーズ)も加わり、「史上最強」の呼び声が高い。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 日本は2019年のワールドカップと2021年の東京オリンピックで全敗を喫し、世界の壁の高さを感じながらも着実に成長を遂げてきた。その成果がトム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)の指揮のもと、2023年のワールドカップの躍進につながった。

 果たしてパリオリンピックでは、世界の強豪国とどこまで渡り合えるのか。2019年ワールドカップではキャプテンとして八村や渡邊雄太(SF/千葉ジェッツ)らとともに戦った篠山竜青(PG/川崎ブレイブサンダース)に、男子日本代表チームを分析してもらった。

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八村塁はパリの大舞台でどんなプレーを見せてくれるか

 photo by AFLO

── まもなくパリオリンピックが開幕します。男子日本代表は自力でオリンピックの切符を獲得し、実に48年ぶりの出場となります。まず、昨年のワールドカップの激闘を篠山選手はどう見ていましたか?

「本当に『日本中が沸いた』と思います。僕らが(2019年)上海のワールドカップ出場を決めた時も、すごく久しぶりに世界のドアを開けたことで『日本の夜明け』と言ってもらいました。だから昨年のワールドカップでは、バスケットファンだけでなく国民のみなさんに日本バスケットの夜明けが届いた、という感覚があります。映画『THE FIRST SLAM DUNK』の影響も相まって、日本に真のバスケットボールブームが来たと思います」

── 2019年の「夜明け」から今の「ブーム」の盛り上がりに至るまで、篠山選手は日本代表が成長していく過程に関わってきましたから、その喜びもまた格別ではないですか。

「バスケット界の価値やブランド力が高まれば高まるほど、今までそれらを積み重ねてきた人たちも報われます。素直にうれしかったですね」

【八村と渡邊だけに頼らない気持ちが大事】

── 今回の男子日本代表は「史上最強」と呼ばれています。

「それこそ、5年前くらいからずっと『史上最強』と言われていますよね(笑)。でも、『史上最強』を更新してくれるメンバーが揃ったんじゃないかと思います。

 もちろん、渡邊選手のケガ(左ふくらはぎの肉離れ)はクエスチョンマークなので、どこまで戻せるかによってチームに与える影響は変わってきます。バスケットは5人しかコートに入れないので、選手ひとりの持つ影響力はすごく大きい。それが渡邊選手となると、やっぱりめちゃくちゃインパクトは大きいですよね。

 有明(アリーナ/7月5日・7日の強化試合・韓国戦)のシリーズにも、もちろん渡邊選手は出たかったでしょう。八村選手もそう。NBAの『28日ルール(大会前の代表活動は28日間とする労使協定)』があるので、彼らが合流して時間のないなかでチームを作らなきゃいけない。

 それは世界各国も一緒ですけど、やっぱり強化試合で調整していくのが理想的。史上最強は間違いないですけど、核となるふたりが五輪直前のシリーズに参加できないのはすごく痛いんじゃないかと思います。トム(・ホーバスHC)さんも難しい選択を迫られているんじゃないかと。

 でも、八村選手も渡邊選手も頭のいい選手なので、対応するスピードは速いでしょう。今のメンバーもワールドカップを経てすごく自信を持っているので、彼らふたりに頼らずに『自分がやる』という気持ちをみんなが持てば、世界を驚かせる結果は出せると期待しています」

── 2019年のワールドカップ前は、八村選手も渡邊選手も早い段階から代表活動に参加していました。その後、2021年の東京オリンピックや2023年のワールドカップで経験を重ねて、いかに本番にピークを持ってくるかが大事ということを学んできたのではないでしょうか。

「はい、それはあると思います。日本代表にNBA選手がいる状況も特殊ではなくなってきたので、28日ルールで世界のスタンダードに合わせなければいけない状況は、すごくいいことじゃないかと思います。日本バスケットボール協会も含めてブラッシュアップされてきているので、そういうことも当たり前の感覚でやれているんじゃないでしょうか」

【八村のいいところを生かしてやれる】

── 八村選手が加わることで、日本代表はどう変わりそうでしょうか。

「わくわくしますよね。今のチームは(東京オリンピックまで指揮を執ったフリオ・)ラマスさんの時と明らかに違うシステムを使っていて、(ホーバスHCのチームは)いい意味で誰が出ても同じように動けるし、また動かなきゃいけないシステムになっていると思います。

 ボールを動かしてサイドチェンジをしながら、流動的な形からピック・アンド・ロールをスタートするところや、トランジションのスピードもそう。ラマスさん体制の時より、NBAや世界のバスケットのスタンダードに近づいています。だから八村選手からすれば、フィットは難しくないんじゃないかなと思っています。

 逆に(ほかの選手たちが)八村選手を変に意識して見てしまい、彼が早い段階でアイソレーションを始めると(バランスが)崩壊してしまうかもしれません。だけど、河村勇輝選手(PG/横浜ビー・コルセアーズ)を筆頭にハンドラーが八村選手との2対2をしっかり使いながらプレーできれば、スペーシング的にもコートをすごく広げられると思う。そうなれば、可能性は無限に広がるチームになるのではないでしょうか」

── ホーバスHCのチームスタイルは、NBAの多くのチームが採り入れているものに近いと言われています。となれば、八村選手がフィットするのもさほど難しくなさそうですね。

「そう思います。ラマスさんの時はもっとオールドスタイルというか、八村選手を中心にローポストでの1on1、ポストのエルボーアイソレーション(エルボー=フリースローラインとフリースローレーンの交わるペイントエリアの角あたり)をメインにやっていました。ペースもけっこうスローにしていたので、八村選手がボールを持つと、ほかがピタッと止まってしまうシステムにならざるを得ませんでした。

 その点、トムさんのチームはNBAのシステムに近く、走ってコートを縦に使いながら、スペースを広く活用して攻めます。だから、コーナーカッティング(ボールを持たない選手がコーナーから中に切れ込むこと)でもローポストに誰かがいるというより、広いスペースから飛び込んだりができるので、(八村選手の)いいところを生かしてやれるんじゃないかと思います」

【トム・ホーバス体制で確実に変わったこと】

── 東京オリンピックまでは八村選手を使ったセットプレーが多く、しかし彼にボールを入れなければとパス側がこだわりすぎたため、ボールが停滞したこともあったようですね。

「2019年もそうでした。だから、よくも悪くもニック(・ファジーカス/2019年ワールドカップで帰化選手としてプレー)の『死んでいた』時間帯があり、八村選手と渡邊選手は出ているけどボールタッチがうまくいかなくて、ズレのない状態でボールを受けることも多かった。

 2019年のワールドカップでは後悔がいろいろあって、もっと積極的に走って、相手の準備ができていない状況から1個目のボールスクリーンを使うことができればよかった。でも、ペースをスローダウンさせて相手のポゼッション(攻撃回数)の数を減らしたいということで、ゆっくり運んでから『よーい、ドン』で始めるしかなかった。そこはガードとしてすごく苦労しましたし、落ち着いてボールをキープするだけの力がなかったのが反省点です。

 さっさとプレーを始めて、相手の準備が整いきる前にズレを作っていくことが必要だったと思うんです。トムさんになって、そこは確実に変わってきているんじゃないかと思います」

── 八村選手の成長については、どのように感じていますか?

「あれだけの名門クラブ(レイカーズ)でスターターやシックスマンとして出場し、プレーオフも戦っているので、精神的な図太さ、動じないメンタリティは明らかに変わったと思います。2019年の時はまだ大学生で、NBAでドラフトされたばかり。いろんなことがめまぐるしく変わっていってストレスもあったと思うし、それは見ていて感じるものがありました。でも、そこから修羅場を何度もくぐってきたことが、今の精神的な成長につながっていると思います。

 今や3Pシュートの確率やリム周りの決定力も、NBAで上位に入るようになりました。レブロン(・ジェームズ)やフィル・ハンディ(昨季までレイカーズのアシスタントコーチ)と一緒にワークアウトをしたことで、彼のアスレチックな動きがより洗練されて、無駄のない動きが増えたのだと思います」

【渡邊のリーダーシップは歴史に残る】

── 2019年のワールドカップで篠山選手と共同キャプテンを務めた渡邊選手の成長はいかがですか?

「彼は若い頃から本当に責任感が強くて、リーダーシップを持っている選手でした。年齢を重ねて、いろんなチャレンジを経て、さまざまな成功体験を得るなかで、今は自信を持って臨めていると思います。彼のリーダーシップは日本のバスケット史に残るようなインパクトがあるので、精神的な部分の成熟を感じますよね」

── 渡邊選手も2019年ワールドカップの時は、まだ3Pシュートの成功率もそこまで......。

「たしかに。それが今や、リーグ屈指の3&D(3Pシュートの決定力と高い守備力を兼ね備えた選手)です。3Pシュートランキングでも(2022-23シーズン中に)リーグ1位になっちゃうような人ですから。努力の賜物でしょうけど、本当に称賛されるべき成長を遂げてくれたと思います」

(後編につづく)

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【profile】
篠山竜青(しのやま・りゅうせい)
1988年7月20日生まれ、神奈川県出身。小学3年生から横浜でミニバスを始め、福井・北陸高校→日本大学を経て2011年に東芝ブレイブサンダース(現・川崎)に加入。日本代表には2016年から選出され、2019年ワールドカップではキャプテンを務めた。ポジション=ポイントガード。身長178cm、体重75kg。