高校野球の現場を取材するようになって、2年半。僕が取り組む「野球未来づくり」を進める上で、大事にしてきたことがあります。男子だけでなく、女子選手も応援していくことです。野球の発展には、女性の力が欠かせないと考えているからです。 夏の日本一…

 高校野球の現場を取材するようになって、2年半。僕が取り組む「野球未来づくり」を進める上で、大事にしてきたことがあります。男子だけでなく、女子選手も応援していくことです。野球の発展には、女性の力が欠かせないと考えているからです。

 夏の日本一を決める全国高校女子硬式野球選手権大会は3年前から決勝が阪神甲子園球場で開かれています。

 この1年で、二つの女子チームを取材してきました。

 一つ目は、北海道栗山町にある公立校の栗山です。この学校が気になり出したのは、昨年6月。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表を優勝に導いた栗山英樹監督がきっかけでした。

 町内に自前の球場を持つ栗山監督は、僕の北海道日本ハムファイターズ時代の恩師。その「優勝パレード」のニュースで、監督が荷台に乗った軽トラックを人力で引っ張っていたのが、栗山の女子選手たちでした。

 それから半年後の12月、雪が降り積もった町の郊外にある室内練習場を訪れました。屋外からでも明るい声がよく聞こえます。

 2022年春、栗山に女子野球の同好会が誕生しました。きっかけは、栗山監督でした。人口減により廃校の危機に悩む町民に、栗山監督が「女子野球部を作ってみたら。いま人気なんだよ」とアドバイスをくれたそうです。

 創設メンバーの1人、森乃々花主将(3年)は「餅つきイベントに参加したり、積極的に地域の方と関わったりするようにしてきました」と振り返ります。

 お祭りで巫女(みこ)役を務めたり、サウナ施設でまき割り体験をしたり。町民との交流を深め、エールを受けてきたそうです。部に昇格した23年には全国大会に初出場。男子の硬式野球部もありますが、いまでは女子野球部の方が部員数が多いそうです。「町おこし」にも主体的に関われる栗山では、野球だけでなく様々な学びを得られるのではないかと感じました。

 もうひとつの学校は、佐伯(広島)です。どうしても会いたい選手がいました。

 村山優羽選手(3年)です。彼女が中学生のとき、一緒にトレーニングをしたことがありました。

 千葉出身の彼女が「広島の高校に進学する」と聞いて驚きました。キャッチボールをして、エールを送ったことをよく覚えています。

 久々の再会。変わらない笑顔で野球に取り組む姿を見て、一安心しました。なにより、僕がプレゼントしたグラブを今も使ってくれていることが、すごくうれしかったな。

 佐伯も廃校の危機から脱却するために、女子野球部が発足した学校です。15年、進学希望者を増やそうと、部員2人からスタートしました。20年に地元の廿日市市が女子野球タウンに認定され、自治体との連携も強めてきました。いまは、部員38人。グラウンドのあちこちから元気な声が響いていました。

■野球技術のレベルアップのために

 この2年半、女子選手の明るさや団結力、「楽しそう」と思わせる力の強さに感心してきました。野球の新しい価値を感じることも多々ありました。

 一方で、少しモヤモヤした感情もありました。女子野球のイメージは「楽しい」だけでよいのか。素敵な価値観をさらに広めていくには、何が必要なのか。現場を訪れるたびに考えてきました。

 女子日本代表で主将を務めていた栗山の金由起子監督も同じ課題を口にしていました。

 「(女子の高校野球は)楽しむことがすごく注目されているけど、楽しむだけじゃ勝てない。楽しみながらどう勝てるチームを作れるか、模索しています」

 僕は純粋に、野球技術のレベルアップが必要だと思います。見ている人がワクワクすれば、続く子どもたちがさらに増えるのではないか。「楽しそう」に「かっこいい」が加われば、競技者もファンも増えていくのではないか。

 今夏の頂点をめざすチーム数は昨夏より3チーム増の61チーム。この広がりを加速させるために、競技レベルの向上につながる刺激がほしいところ。一案ですが、高校世代の国際試合を開いて注目を集められれば、さらに上のステージをめざす子たちが増えて裾野が広がっていくのではないでしょうか。

 まずは、この夏から。僕は女子選手の「かっこいいプレー」に注目したいと思います。