福田正博 フットボール原論■マティアス・ヘグモ新監督を迎え、戦力も補強し、開幕前は大いに注目された浦和レッズが順位を上げられずに苦しんでいる。今夏、昨季の主力を中心に4選手が退団したのも話題となった。期待されたクラブに、シーズン前半何が起こ…

福田正博 フットボール原論

■マティアス・ヘグモ新監督を迎え、戦力も補強し、開幕前は大いに注目された浦和レッズが順位を上げられずに苦しんでいる。今夏、昨季の主力を中心に4選手が退団したのも話題となった。期待されたクラブに、シーズン前半何が起こったのか。OBの福田正博氏が分析した。

【出番が限られていた4選手が退団】

 浦和レッズが厳しい状況に立たされている。

 7月6日のホームでの湘南ベルマーレ戦は2-3で逆転負け。続く7月14日のアウェーでの京都サンガF.C.戦は0-0の引き分けだった。ここまでJ1で18位、19位と降格圏に喘ぐ湘南と京都を相手に、手にできたのが勝ち点1では苦しい。



浦和レッズは第23節終了時点で9位。残り15試合で巻き返しできるか photo by Getty Images

 この結果、9位の浦和は、第23節終了時点で首位を走るFC町田ゼルビアとの勝ち点差が16ポイント。残り15試合あるため、計算上はまだ優勝の目はあるものの、実質的には厳しいと言わざるを得ない。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場権に目を向けても、2位・ガンバ大阪との差は11ポイント。かろうじてチャンスは残されているが、浦和よりも上位にいる3位~8位のチームにも同等のチャンスがあるのも忘れてはいけない。

 苦しい状況が顕著だったのが、今夏に主力4選手が退団したことだろう。キャプテンのDF酒井宏樹、副キャプテンで浦和を離れる挨拶をすべて日本語で行なったDFアレクサンダー・ショルツ(アル・ワクラ/カタール)、昨季は33試合に出場したMFの岩尾憲(徳島ヴォルティス)、ローマから期限付き移籍していたMFオラ・ソルバッケン(ローマ)がチームを離れた。

 とりわけ酒井、ショルツ、岩尾は昨季までの浦和を支えた選手だ。新体制のもとではケガの影響などもあったようだが、出番が限られていた。年齢とキャリアを重ねた3選手にとっては、プレイヤーとして残された時間が多くないことを理解したうえで、身の振り方を決めたのだろう。

 今季の浦和は開幕前に大型補強を敢行していたこともあって、期待をしていた。昨季率いたマチェイ・スコルジャ前監督のままだったら優勝候補の筆頭にしたいくらいだった。だが、リーグ4位、ルヴァンカップ準優勝、ACL優勝に導いたスコルジャ前監督が退任。そこに一抹の不安を覚えたが、それが現実のものとなってしまった。

【自分のサッカーに固執するあまり......】

 今季から就任したマティアス・ヘグモ監督はサイド攻撃からチャンスをつくり、中央で仕留めるというシンプルなサッカーを志向する。昨季は得点力不足に泣いたFWにチアゴ・サンタナが加わったことで、ヘグモ監督のサッカーでも勝ち点を積み上げられると見ていたのだが、そう簡単ではなかった。

 その原因として、ヘグモ監督が理解する浦和の選手個々の特長と、実際の持ち味とにギャップがあったのではないかと思う。

 4-3-3のシステムはヘグモ監督にとっては得意な形で、それを浦和でも採用するためにMFサミュエル・グスタフソンを獲得した。しかし、グスタフソンが故障後も4-3-3にこだわり、アンカーには安居海渡、伊藤敦樹、岩尾らを起用したがうまくいかなかった。

 そこでダブルボランチに変更したのだが、その内容を見れば最適解はダブルボランチだったと思う。

 今季の4-3-3では、2列目で起用されることが多い伊藤だが、彼の持ち味が最大限に発揮できる場所は、自分の前にスペースがある3列目だ。3列目の伊藤は伸び伸びと自由にボールを配給し、攻め上がっていく。

 左サイドバックで起用されてきたMF渡邊凌磨にしても、彼の持ち味が出るのは1列前だろう。前線の大久保智明は左サイドで起用されてきたが、昨季と同じ右サイドに戻したことで彼らしさを発揮している。

 これはヘグモ監督への批判ではなく、Jリーグで初めて指揮する外国籍監督が陥りがちな落とし穴なのだ。外国籍監督は新天地で自分のサッカーを実践するために、核となる選手を決める。ヘグモ監督にとってはグスタフソンがそれにあたるが、そこに固執するあまり、ほかの選手の特長を活かせなくなることが往々にしてあるのだ。

 監督が求めるサッカーをするために、選手を当てはめるのか。監督が志向するサッカーとは違っても、選手個々の特長を最大限に発揮できるようにしていくのか。これまでJリーグで成功した外国籍監督の多くは、圧倒的に後者の柔軟性を持っていた。

 そして、ヘグモ監督自身もそうした柔軟さを見せつつある。グスタフソンを故障で欠くなかで4-3-3から4-2-3-1へと移行し、グスタフソンの復帰2戦目となった京都戦では、伊藤敦樹とのダブルボランチでスタメンに起用した。

 京都戦ではチーム全体がギクシャクした感じがあったが、それでも今後に期待できる瞬間が随所にあった。多くの選手たちが窮屈さを感じずに伸び伸びとプレーできるはずだ。

【まだ常勝クラブと言える結果は残せていない】

 浦和はACLで3度優勝したとはいえ、J1制覇は1度しかない。まだまだ常勝クラブと言える結果は残せていない。何年間も試行錯誤のシーズンが続いているが、そう簡単に答えが出るものではないだけに、自分たちがチャレンジャーという立ち位置を見失わずに、今後につながる施策に取り組んでもらいたい。

 就任1年目のヘグモ監督がJリーグに適応するために、まだ模索する時間は必要になるだろう。だが、選手のレベルや層の厚さなどを考え、来季も同じ体制で臨むのであれば、これからの15試合はそこへの布石を打つことにもなる。無論、若い選手は海外クラブに引き抜かれる可能性があるため、チームづくりが思惑どおりに進むとは限らないのがJリーグの難しさではあるのだが......。

 いずれにしろ、少しずつ変化を遂げているヘグモ監督と浦和のサッカーが、ここからどのように変貌し、進化していくのかを興味深く見守っていきたいと思う。