日本人選手の海外移籍は、もはや夏の風物詩だ。今夏も才能あふれる多くの若手が海を渡ることとなった。 先陣を切ったのはセレッソ大阪の毎熊晟矢(26歳)。日本代表にも名を連ねる攻撃的なサイドバックは、オランダのAZアルクマールを新天地に選んだ。…

 日本人選手の海外移籍は、もはや夏の風物詩だ。今夏も才能あふれる多くの若手が海を渡ることとなった。

 先陣を切ったのはセレッソ大阪の毎熊晟矢(26歳)。日本代表にも名を連ねる攻撃的なサイドバックは、オランダのAZアルクマールを新天地に選んだ。すでに若手とは言えない年齢ではあるものの、同じ右サイドバックでサウサンプトン(イングランド)へ移籍した菅原由勢(24歳)の後釜として白羽の矢が立った恰好だ。


松木玖生は2年半プレーしたFC東京を離れて海外へ

 photo by AFLO

 サンフレッチェ広島の川村拓夢(24歳)はレッドブル・ザルツブルク(オーストリア)へと旅立った。左利きの大型ボランチはパワフルな守備と強烈な左足を備え、日本代表にも定着。さらなるステップアップを期し、アカデミーから育った心のクラブを離れる決断を下した。

 鹿島アントラーズの佐野海舟(23歳)はドイツのマインツへと移籍した。近年はベルギーやオランダ、ポルトガルといったクラブに移籍する選手が増えていたものの、いきなり欧州4大リーグのクラブに移籍できたのは、彼の能力と期待値の高さの表われだろう。

 もっとも、この原稿を書いている(7月17日)まさにその時、衝撃のニュースが飛び込んできた。詳細を確認できているわけではないので言及は避けるが、事実であるとすれば彼の今後のキャリアに甚大なダメージを与えかねない事態に発展する可能性もある。

 毎熊、川村、佐野は、いずれも日本代表に名を連ねる選手たちだ。彼らの移籍によってアジアカップ以降に日本代表に選出された国内組のフィールドプレーヤーは、長く欧州で活躍してきた長友佑都(FC東京)とパリ五輪世代の細谷真大(柏レイソル)のみとなった。欧州移籍市場における日本代表のブランド価値は揺るぎないものとなりつつあるようだ。

 パリ五輪世代も、今夏に海外挑戦のチャンスを手にした。平河悠(23歳/前FC町田ゼルビア)と松木玖生(21歳/前FC東京)である。前者はイングランド・チャンピオンシップのブリストル・シティFCへ、後者は原稿執筆時点で正式リリースはないものの、菅原と同じサウサンプトンが移籍先として有力視されている(新シーズンはトルコのギョズテペに期限付き移籍することが濃厚)。

【主軸が抜ければ新たなタレントが台頭する】

 さらに若い世代からも、欧州移籍を勝ち取った選手が現われた。J2のロアッソ熊本の道脇豊(18歳)だ。

 186cmの長身ストライカーは、すでにチームを離脱し、海外移籍を前提とした手続きと準備を進めている。行き先はベルギー2部ベフェレンが濃厚と言われているが、今年1月に当時18歳でジュビロ磐田からアンデルレヒト(ベルギー)に移籍した後藤啓介と同様に、ポテンシャルを買われての移籍だろう。

 ちなみに、Jクラブ所属選手ではないものの、6月19日に日章学園高の高岡伶颯(れんと/17歳)がサウサンプトンへ加入することが内定した。来年3月に正式契約を結ぶというが、いわば青田買いとも言える若手の獲得は、今後さらに拍車がかかるかもしれない。

 Jクラブにとっては、シーズン途中に主力級を引き抜かれるダメージは小さくない。昨年はエースの小川航基(現NEC/オランダ)が移籍した横浜FCが降格の憂き目にあい、金子拓郎(前ディナモ・ザブレブ/クロアチア→現コルトレイク/ベルギー)が抜けた北海道コンサドーレ札幌は、以降は得点力不足に悩まされた。

 一方で、町野修斗(現ホルシュタイン・キール/ドイツ)が移籍した湘南ベルマーレは大橋祐紀(現サンフレッチェ広島)のブレイクを導き、伊藤涼太郎(現シント・トロイデン/ベルギー)が流出したアルビレックス新潟は三戸舜介(現スパルタ・ロッテルダム/オランダ)の成長を促した。

 主軸が抜ければ、新たなタレントが台頭する。海外移籍が特別なものではなくなった以上、クラブに求められるのは、流出を見越したリスクマネジメントと、スムーズな新陳代謝だ。

 たとえば川村に加え、野津田岳人(30歳)もタイのクラブ(BGパトゥム・ユナイテッド)に移籍した広島は、ボランチの人材が不足するなかで元Jリーガーを父に持つ18歳の中島洋太朗が出場機会を増やし、ブレイクの予感を漂わせている。毎熊の抜けたC大阪の右サイドバックには、前任者と同じ桃山学院大出身のルーキー奥田勇斗が台頭している。

【欧州主要リーグの移籍市場は8月30日まで】

 ひるがえって、佐野が移籍した鹿島は、2022年まで在籍していた三竿健斗(28歳)を再獲得。ポルトガル(サンタ・クララ)とベルギー(ルーベン)で研鑽を積んだ経験豊富なボランチが、佐野の抜けた穴を埋める役割を担うことになるはずだ。

 出ていく人がいれば、帰ってくる人もいる。三竿と同じく欧州クラブ(セルヴェットFC/スイス)から横浜F・マリノスに帰還した西村拓真(27歳)は、さっそく7月14日に行なわれた23節の鹿島戦のピッチに途中から立って4-1の勝利に貢献。カーザ・ピアAC(ポルトガル)から名古屋グランパスに復帰した相馬勇紀(27歳)も同節の柏レイソル戦にスタメン出場し、いきなりゴールを記録。4連敗中のチームを救う活躍を見せた。

 ほかにも、ガンバ大阪は昨季までシント・トロイデン(ベルギー)でプレーしていた林大地(27歳)を補強。酒井宏樹(34歳/移籍先未定)とアレクサンダー・ショルツ(31歳/アル・ワクラ/カタール)のディフェンス陣が抜けた浦和レッズは、本間至恩(23歳/クラブ・ブリュージュ/ベルギー)と二田理央(21歳/SKNザンクト・ペルテン/オーストリア)の若きアタッカーふたりを迎え入れている。彼ら新戦力のパフォーマンスも、すでに後半戦に突入したJリーグの注目ポイントとなるだろう。

 Jリーグの夏のウインドー(第2登録期間)は8月21日まで開いており、欧州主要リーグの移籍市場は8月30日が締め切りとなる。今後も動きはあるはずで、パリ五輪で活躍した選手に白羽の矢が立つ可能性もあるかもしれない。

 新たな海外組が生まれるのか。国内復帰を決断する選手が現われるのか。もうしばらく、ドキドキを味わえそうだ。