パリ五輪の開幕が近づいている。4年に一度のスポーツの祭典とあって、さまざまな競技が注目されているが、サッカー女子日本代表にとっても、大きな意味を持つ大会だ。なでしこジャパンは、どのようにオリンピックに臨むべきか、サッカージャーナリスト後藤…

 パリ五輪の開幕が近づいている。4年に一度のスポーツの祭典とあって、さまざまな競技が注目されているが、サッカー女子日本代表にとっても、大きな意味を持つ大会だ。なでしこジャパンは、どのようにオリンピックに臨むべきか、サッカージャーナリスト後藤健生が考察する。

■ナイジェリア戦を想定した「最後の強化試合」

 いずれにしても、女子サッカーの場合はワールドカップのために作り上げてきたチームがワールドカップ本番で貴重な経験を積み、微調整してオリンピックを迎えることになる(ワールドカップ後にオリンピック用のチームの準備をするには時間が足りない)。

 難しいスケジュールではあるが、各国代表ともにチームの完成度、熟成度が高いのは間違いないだろう(かつての“絶対女王”アメリカは、昨年のワールドカップのラウンド16で敗退したことで、ヴラトコ・アンドノフスキ監督=北マケドニア=が退任してイングランド出身のエマ・ヘイズ監督が就任。新監督の下での再出発の大会となる)。

 日本の女子代表(なでしこジャパン)も完成度が高いことが、7月13日に金沢のゴーゴーカレースタジアムで行われた、国内最後の強化試合となるガーナ戦で証明された。

 FIFAランキング65位のガーナとの試合。日本としては、さまざまな意味でパリ・オリンピックへのシミュレーションとしたかったようだ。

 7月10日に千葉県内での合宿中で練習試合を行って、翌日に金沢まで移動して中2日でのガーナ戦というスケジュールは、明らかにオリンピック本大会を想定したもの。選手たちのリカバリ―やスタッフの試合への準備の手順などをシミュレートするためだ。

 そして、対戦相手国のガーナは、オリンピックのグループリーグ第3戦で対戦するナイジェリアを想定したものだった。アフリカ勢相手の試合を経験しておきたかったのだろう。

■藤野あおばの突破から生まれた「厳しい判定」

 しかし、さまざまな形で想定が裏切られていくのもサッカーという競技ならではのことだ。

 ナイジェリアという国は男子サッカーでも女子サッカーでも、その強靭な身体能力を生かしたプレーをするが、同じ西アフリカでも、ガーナはフィジカルを前面に出してくる国ではない。

 そして、ガーナ女子代表を率いるスイス人のノラ・エリザベス・ハウプトゥル監督もパスをつなぐサッカーを志向することを明言していた。そのため、実際にガーナ選手と対峙した日本選手たちの間にも、「想定と違う」という違和感があったようだ。

 日本が支配しゲームが進んだ23分にガーナのDFポーティア・ボアティエが一発退場となってしまった。

 長谷川唯からのパスを受けた藤野あおばが突破にかかろうとしたところをファウルで止められた場面。たしかに得点機会阻止ではあったが、ガーナにとってはかなり厳しい判定だった。

 これが、ワールドカップやオリンピック本番だったら「ラッキー!」と喜べるのだが、強化試合で相手に退場者が出たのでは、日本チームのためにも得にはならない。

 1人少なくなったガーナは、1トップにいたメーヴィス・オウスを退けて17歳のDFステラ・ニャメキエを入れて、4-4-1システムで守りに入った。

 相手の攻撃の圧力は下がり、ガーナ戦では4バック(熊谷紗希をアンカーに置いた4-1-4-1)で入っていた日本は、後方でDFが余ってしまう状態に。サイドバックをどこまで前に張らせるのか、どうやって守りを固めるガーナ陣に早くボールを送り込むのか……。試行錯誤が続く状況となってしまう。

 また、合宿での強度の高いトレーニングで疲労をため込んでいるため動きにキレもなく、パス精度も落ちて、1人少なくなったガーナを攻め崩すことができずに、とうとうスコアレスのままハーフタイムを迎えてしまった。

■両SBの清水と北川、さらに長谷川が「前線」へ

 これが、ワールドカップやオリンピック本番だったら非難されても仕方のないような前半だった。

 だが、これはあくまでも強化試合だ。当初の目論見とは違ってしまったが、想定外の流れになったときに、いかに落ち着いて対処できるかが試される後半となった。

 後半のスタート。日本はアンカーの熊谷が前半より下がり気味な位置取りで、4バックとも3バックとも受け取れるポジショニングで両サイドバック(右が清水梨紗、左が北川ひかる)を高い位置に張らせて、さらに長谷川も前線に飛び出していく回数を増やすことで攻撃の圧力を増した。

 そして、51分には1トップの田中美南が相手DF間のパスをカットすると、後半から出場していた浜野まいかとのワンツーで抜け出してゴールを陥れた(かなり長いVARの末にゴールが認められた。それだけオフサイドラインぎりぎりでの勝負だったのだ)。

 1点をリードした後は、熊谷が完全に最終ラインに下りて3-4-3の形に変更。藤野の右CKからつないで浜野が2点目を決めると、藤野が25メートルほどのFKを直接左上隅に決めて3点差とし、さらに試合の終盤にも藤野のFKに途中交代出場の植木理子が頭で合わせて4点をもぎ取っての勝利。

 相手が1人減っていたとしても、ガーナの攻撃を前半アディショナルタイムのロングシュート1本だけに抑えて完勝した。

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