(17日、第106回全国高校野球選手権熊本大会3回戦、熊本商2―0岱志) 2点を追う七回裏、岱志にまたとない好機が巡ってきた。先頭打者の水落幸太主将(3年)が三遊間へのゴロをヘッドスライディングで内野安打に。その後、1死二、三塁となり、ベ…

 (17日、第106回全国高校野球選手権熊本大会3回戦、熊本商2―0岱志)

 2点を追う七回裏、岱志にまたとない好機が巡ってきた。先頭打者の水落幸太主将(3年)が三遊間へのゴロをヘッドスライディングで内野安打に。その後、1死二、三塁となり、ベンチはスクイズのサインを出した。

 「1点差まで詰めれば、後半に強いうちのペースになる」。三塁走者の水落主将は「何が何でも生還する」とスタートを切ったが、バントは投手の前に転がり、相手バッテリーに落ち着いて処理された。頭から本塁に滑り込むもタッチアウトに。本塁上に突っ伏して、しばらく立ち上がれなかった。

 だが、次の回の守備につくと泥だらけのユニホームで仲間たちに笑顔で声を掛けた。

 この大会は水落主将にとって「最初で最後の夏」だった。福岡県内の野球部が強い高校に在学していたが、小学生の時からの恩師、後藤将和さん(56)が岱志の監督に就く予定になり「一緒に野球がしたい」と思った。

 「後藤監督と甲子園に行きたい」と1年の冬、岱志に転入。規定で1年間は公式戦に出られず、昨夏は記録員でベンチに入った。

 ただ1人の上級生選手として主将を任された。後輩たちの出身地の名産品を調べて話題にするなど積極的にコミュニケーションを取り、チームの雰囲気作りに努めた。時に厳しい言葉もかけたが、自己にも厳しく素顔は優しい主将をみんな慕った。「水落さんを甲子園に連れて行く」が後輩たちの合言葉になった。

 その願いはかなわなかったが「今度は、こいつらが甲子園に行けるよう、僕が手助けします」。最後まで頼もしい主将だった。(吉田啓)