(15日、第106回全国高校野球選手権東東京大会3回戦 岩倉5―9二松学舎大付 延長タイブレーク十回) 5―5で迎えた延長十回表、無死満塁。三塁を守っていた岩倉の高橋梁主将(3年)は、右翼席へ吸い込まれていく相手打者の打球を見ながら、心が…

 (15日、第106回全国高校野球選手権東東京大会3回戦 岩倉5―9二松学舎大付 延長タイブレーク十回)

 5―5で迎えた延長十回表、無死満塁。三塁を守っていた岩倉の高橋梁主将(3年)は、右翼席へ吸い込まれていく相手打者の打球を見ながら、心が折れそうになっていた。延長での満塁打。また、一球で終わるのか――。頭の中には、この1年間、忘れることができなかった昨夏の試合のことが浮かんでいた。

 昨夏の準決勝、共栄学園戦。高橋はその試合も三塁を守っていた。九回裏二死二、三塁。4―3と一点リードしていた岩倉は、もう一つアウトを取れば勝利という場面だった。相手打者の打球は、マウンドと本塁、三塁の真ん中に上がった。一瞬間が空き、捕球しようと落下地点に入った高橋が、グラブを構えながら空を見上げた瞬間のことだった。

 太陽とボールが重なり、まぶしさで目がくらんだ。つかんだはずのボールは、グラブの端に当たってこぼれ落ちた。ボールの処理に慌てている間に、三塁走者に続き二塁走者も本塁に生還。逆転サヨナラ負けした。

 記録上はヒットで、失策はつかなかったものの、高橋は自分を責めた。「自分のエラーが、先輩たちの夏を終わらせてしまった」。頭が真っ白になり、試合終了後、ベンチ裏で泣き崩れた。3年生は「お前は悪くない」と励ましてくれたが、立ち上がることができなかった。

 試合後、寮の自室に戻ると、部屋のホワイトボードに、すでに退寮した3年生からのメッセージが残されていた。

 「次はお前が主将として頑張れよ」

 「お前が新チームを引っ張っていけよ」

 失敗した自分だからこそ、3年生の思いを受け止めてやるしかない。奮い立たされた。主将として、誰よりも自分に厳しく練習を重ね、うまくいかないときは、落球の瞬間の写真を見返してきた。「一球」の怖さ、大切さをチームメートにも説いた。

 あれから1年。夏の大会の初戦の相手は優勝候補の一角、二松学舎大付。一時、五点差をつけられたが、粘った。2点を追う八回裏には、高橋が初球でセーフティースクイズを決め、反撃の口火を切り、試合を振り出しに戻した。「色気は出さずに、チームで勝つことを意識した。練習の成果が発揮できた」

 延長十回、4点取られ、突き放されても高橋の気持ちは強いままだった。「ここで落ちてしまったらだめだ」。三塁から、すぐにチームに声をかけた。「相手に流れが行っても、まだ1回チャンスがある。そこで返せる」。だが、願いは届かなかった。

 この夏も、一球の重さを突きつけられた。でも、高橋の目には試合後、昨夏のような涙はなかった。豊田浩之監督は「高橋が終始、『しぶとく行こう』とチームに声をかけてくれた。たくましかった」と褒めたたえた。

 高橋は「自分たちが思い描いていた試合だった。岩倉の粘りは出せた」。成長を遂げた主将の夏が終わった。=神宮(佐野楓)