(16日、第106回全国高校野球選手権大阪大会2回戦 清水谷9―0佐野工科=8回コールド) 一回裏、1球目。佐野工科副主将のリードオフマン・辻孝展(たかのぶ)選手(3年)は快音を響かせた。理想的なセンター返しでの出塁に、笑みがこぼれる。 …

 (16日、第106回全国高校野球選手権大阪大会2回戦 清水谷9―0佐野工科=8回コールド)

 一回裏、1球目。佐野工科副主将のリードオフマン・辻孝展(たかのぶ)選手(3年)は快音を響かせた。理想的なセンター返しでの出塁に、笑みがこぼれる。

 昨夏は初戦でコールド負け。新チームとなった秋も同様に初戦コールド負けだった。

 チームメートはどこか勝ちを諦めていた。

 ミーティングが開かれた。辻選手は元々気も弱く、話すのが苦手。でも安藤聡司監督の目を見て「勝ちたいです」と宣言した。本気だったから、腹からはっきりと声が出た。

 安藤監督からは「全員で目標に向かって練習すれば、勝てるようになる」と言われた。

 後輩に準備から野球の基礎まで丁寧に教えながら、まずは自分がやった。普段は声も小さいけど、グラウンドはもちろん、学校の先生へのあいさつでも大きな声を出すようにした。

 うまい選手のプレーを見てまねしたり、家での素振りの回数を増やしたりした。

 いつしか、安藤監督から「お前が裏の主将や」と太鼓判を押された。

 チームは2018年以来、夏の大会で校歌を歌っていない。今年こそ、と意気込んで迎えた初戦だった。

 試合はじわじわと離され、敗れた。終わった後、応援してくれたスタンドに一礼。その場で泣き崩れた。

 「お疲れさん、胸張れよ」。安藤監督に背中をポン、ポンと優しく押された。

 余計に泣いてしまう。「ありがとうございました」と、何とか声を絞り出した。(西晃奈)