(16日、第106回全国高校野球選手権福島大会 福島工5―4安積黎明=延長10回タイブレーク) 二回1死三塁の好機に秋元椋太主将(3年)が打席へ。ベンチは振り返らず、グラウンドを眺めると、相手の内野手が前進するのが目に入った。 「スクイズ…

 (16日、第106回全国高校野球選手権福島大会 福島工5―4安積黎明=延長10回タイブレーク)

 二回1死三塁の好機に秋元椋太主将(3年)が打席へ。ベンチは振り返らず、グラウンドを眺めると、相手の内野手が前進するのが目に入った。

 「スクイズではなく、外野に強く振ろう」。2球目の外角の球を振り切ると、打球は右翼へ。先制の犠飛となった。

 安積黎明は「ノーサイン野球」を貫く。「うちに来る子は先生の言う通りが多い」と感じた鈴木雅彦監督が、親交のある大学野球の指導者からアドバイスをもらい、7年ほど前から採り入れた。

 鈴木監督は試合中、サインを出さず、ミスで落ち込んでいる選手に声を掛けることに徹する。練習でも選手と話し合い、内容を決める。

 そんな安積黎明の野球スタイルにひかれ、5年前と比べて部員数は増えた。この日、2番手で登板したエースの大井凌投手(3年)も「選手たちの自主性を重んじる野球に魅力を感じた」と進学を決めた一人だ。

 この日は、いずれも2点を追う九回と延長十回にセーフティーバントを決めたが、いずれも選手たちが自ら判断し、好機を広げた。

 タイブレークの末、試合には敗れたが、秋元主将は「持ち味は十分出せた」。鈴木監督も「失敗もあったが、粘ってくれた」と選手たちをたたえた。(滝口信之)