野球専門校・関メディベースボール学院中等部(以下関メディ)の勢いが止まらない。「ポニーリーグ」加盟2年目の今季も、育成と結果(=勝利)の両方にこだわり続けている。   同学院総監督・井戸伸年氏は、6月に行われたアジアパシフィックゾーン・…

野球専門校・関メディベースボール学院中等部(以下関メディ)の勢いが止まらない。「ポニーリーグ」加盟2年目の今季も、育成と結果(=勝利)の両方にこだわり続けている。

 

同学院総監督・井戸伸年氏は、6月に行われたアジアパシフィックゾーン・チャンピオンシップトーナメント(フィリピン、以下APCT)でポニー(U-14)日本代表ヘッドコーチを務めた。「国際大会での新たな学びを今後に活かしたい」と語ってくれた。

関メディ総監督・井戸伸年氏はグラウンド内外でのコミュニケーションの重要性を常に語る。

~「野球の基本のき」を常に学ぶことが重要

「日本代表として本当に良い経験ができました」と井戸氏は楽しそうに語り始めた。

 

「ヘッドコーチという肩書きはありましたが見ている方が多かった。いろいろなチームの選手がいるので、技術的な部分を個々に話すのも難しい部分がありましたから。代表チームの編成や大会への流れなどが勉強になりました」

 

ポニーリーグは1950年に創設され世界50か国に50万人を超える登録選手がいる。年齢別など8つのカテゴリーでの「ポニー・ワールドシリーズ(米国開催)」で毎年の頂点が決定する。今回のAPCTからは従来同様の単独チームに加え日本代表が参加した。

 

「全体ミーティングで伝えたのは『野球の知識を学ぶことが一番大事』ということのみ。これを3回くらい話したのでウザく感じたかもしれません(笑)」

 

「『基本のき』の部分を大事にして欲しい。今の時期(ユース年代)は本能だけで野球をできる選手も多い。でも、どこかで壁にぶつかった際、そういう向き合い方では乗り越えられない。基本、基礎といった部分を学び、考えることが重要です」

 

井戸氏は育英高(兵庫)、徳山大(山口)、社会人・住友金属、住友金属鹿島(現・日本製鉄鹿島)でプレー。2002年にはMLBホワイトソックス傘下のマイナー球団に在籍、同年ドラフト9位で近鉄入団、05年シーズン終了後にオリックスで現役引退した。各カテゴリーの名門でプレーしてきた百戦錬磨のベースには『基本のき』がある。

 

「常に学ばないといけない。選手だけでなく僕自身もそうです。勉強になりました」と何度も繰り返した。

6月のアジアパシフィックゾーン・チャンピオンシップトーナメントには日本代表チームも参加、国際試合の経験を積んだ。

~「コミュ障(コミュニケーションが苦手)なんです」では野球は上手くならない

「例えば相手投手が良かった時、チーム一丸で攻略しようと思ったら情報の共有が不可欠。コミュニケーション能力が低い選手は戦力になりにくい。野球をする上で、『コミュ障なんです』では済まされない」

 

選手、コーチ陣を含めたチーム内でのコミュニケーションを重視する。指導方針は関メディでも日本代表でも変わらない。

 

「僕自身も選手時代は独りよがり、自分がプロに行きたいだけだった。周囲が見えてなくコミュニケーション能力も低かったと思います。今考えると、自分自身で上達できる道から外れていたような気がします」

 

今はSNS等のツールを通じて多くのことを済ませられる時代だ。しかし、野球をプレーする際には直接対話は欠かせないものだ。

 

「関メディでも常に感じる部分なので、しっかり話しています。同様のことを日本代表でも感じました。経験の浅い子供だからという部分もありますが、そういう理由(=言い訳)ばかり考えていたら上達しないし勝てないです」

 

ポニー(U-14)日本代表はAPCTにおいて決勝進出を果たした。しかし、台湾が誇る剛腕投手の前に三振の山を喫し、「0-1」で敗れた。

 

「良い投手でしたが点を取らないと勝てません。そのためにはチームが1つになって攻略方法を見つけないといけない。ベンチからの指示も大事ですが、選手間でも感じたことを共有しないといけません」

 

「例えば、狙い球を絞る時にも選手間でどのように伝達するのか。『高めに手を出すな』なのか、『低めを狙っていこう』なのか。状況に応じた伝え方1つで受け取り方も変わる。そこは普段からの積み重ね、経験が大事だと思います」

フィリピンでの大会を終え日本の良さと共に、タフであることの重要性を痛感した。

~「パフォーマンス向上のために何が必要か?」にコミットする

フィリピン滞在で環境へのアジャストとタフに生活することの重要性を感じた。それがなければ最高のパフォーマンスを発揮し続けることはできない。

 

「『日本は良い国だな』と思いました。どこへ遠征に行っても食べられる物があって苦労することはない。日本で感じる当たり前は実は当たり前ではないということです」

 

「例えば、食べ物や水が合わなくてもベストパフォーマンスを発揮する必要がある。体調維持しなければならないので、『この食べ物はダメ』ではなく食べられる物を探し出すことが大事」

 

「目的を『食の好き嫌い』ではなく『自分のパフォーマンス』にする必要がある。最初から『この食べ物はダメ』と食べないようでは話にならない。野球のための体調管理という部分にコミットするのが重要」

 

今大会、関メディからは日本代表に3選手が選出されていた。「自分自身もそうだけど、彼らには経験を持ち帰ってチーム内で共有して欲しい」と付け加えた。

日本ポニーベースボール協会事務総長・那須勇元氏(写真左)と井戸伸年氏(同右)。

~ポニーリーグの「選手ファースト」の取り組みは最高

「ポニーリーグにいるから今回のAPCTに参加できて国際経験を積めました」と井戸氏はリーグの優位性についても語る。

 

関メディは昨年4月からポニーリーグへ転籍。7月の第49回全日本選手権大会(東京)では佐賀ビクトリーとの2チーム優勝を飾ると、12月の第11回育成会ドリームカップ(沖縄)も制した。今年に入っても勢いは止まらず、3月の第8回全日本選抜中学硬式野球大会(沖縄)でも優勝を果たしている。

 

「結果もですが選手の着実なレベルアップが嬉しい。ポニーリーグに転籍したのは選手の出場機会が多いからです。ベンチ外選手を減らせるので個々のレベルが当然上がる。上手くなるには実戦経験を積むのが何より大事ですから」

 

「ポニーリーグのやり方は本当に良いと思います。『選手の出場機会を増やして試合で学ぼう』と言う姿勢が徹底している。経験値が高まり野球レベルもかなり上がります」

 

日本ポニーベースボール協会ができたのは1975年と比較的新しい団体だ。しかし、世界的には大きな組織であり、「選手ファースト」の取り組みは話題になっている。

 

「関メディは各大会予選に5チーム出場させていただいています。ベンチ入り人数25人なので100人以上が実戦経験を積める。練習で磨いた技術は実戦で試さないと自分自身の現在地がわからない。本当に素晴らしいことだと思います」

 

「試合中にベンチに下がった選手が再度、試合に復帰できる『リエントリー制度』も素晴らしい。経験を増やすだけでなく、選手のコンディション維持のためにもなります」

 

「このような素晴らしいリーグに温かく受け入れてくれて、本当に有り難かったです」とポニーリーグ関係者への感謝を忘れたことはない。

関メディベースボール学院は「育成と結果」の両方でさらなる高みを目指す。

「APCTで負けたのはもちろん悔しいですが、素晴らしい経験を関メディでも活かしたいです」と大会後はすぐに気持ちを入れ替えた。7月19日からは連覇がかかる第50回全日本選手権大会も始まる。

 

「勝ちにはこだわります。でもそれ以上に、『目的にいかにして到達するのか?』が重要。普段からそこを意識していれば、個々のレベルは必ず上がるはず。高みを常に目指したいと思います」

 

「関メディ中等部は通過点で、選手たちが甲子園出場できる可能性を高めてあげたい。その先には大学やプロなど上のカテゴリーでプレーできる可能性もある。それこそが関メディが考える高みです」

 

育成と結果(=勝利)の両立はスポーツ界では永遠のテーマだが、関メディは着実に形にしている。そして、国際舞台を経験することで、また1つ大きな財産を得たはずだ。ここから先も関メディの勢いは止まりそうもない。

 

(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・関メディベースボール学院)