◆大相撲 ▽名古屋場所2日目(15日・ドルフィンズアリーナ) 元幕内で西序ノ口13枚目の炎鵬(29)=伊勢ケ浜=が、再起不能とも言われた脊髄損傷の大けがから戻ってきた。十両だった昨年夏場所9日目(5月22日)以来、420日ぶりに土俵へ復帰。…

◆大相撲 ▽名古屋場所2日目(15日・ドルフィンズアリーナ)

 元幕内で西序ノ口13枚目の炎鵬(29)=伊勢ケ浜=が、再起不能とも言われた脊髄損傷の大けがから戻ってきた。十両だった昨年夏場所9日目(5月22日)以来、420日ぶりに土俵へ復帰。西序ノ口14枚目・清水海(23)=境川=に上手出し投げで敗れ白星はお預けとなったが、復活へ第一歩をしるした。

 午前9時半過ぎ。角界屈指の人気小兵力士・炎鵬の土俵復帰を見ようと、早い時間帯では異例の数百人のファンが詰めかけた。「炎鵬!」と大きな歓声が飛ぶ中、日大出身の清水海との一番は黒星。だが、420日ぶりに本場所へ戻ってきた炎鵬に、館内から惜しみない拍手が送られた。「最高だった。相撲は最低だけど」と苦笑しながらも、久々の感触をかみしめた。

 再起不能寸前の状況を乗り越え、土俵に戻ってきた。十両だった昨年夏場所、異変に襲われた。持病の首痛が悪化し、初日から9連敗を喫した後に部屋へ戻ると突然倒れ、首から下がけいれんを起こして、翌日から休場。脊髄損傷のため2週間の入院中は寝たきり。当初は握力が10キロ程度まで落ち、箸も持てなかった。医師から手術を勧められ、日常生活に戻るために相撲は断念するよう告げられた。

 だが「相撲は生きがい」と諦めきれなかった。複数の病院を訪ねる中で回復の兆候が表れ、手術は回避。首の負傷で一時引退危機にあったラグビー元日本代表の堀江翔太氏をW杯4大会連続出場へ導いた佐藤義人トレーナー(46)との出会いもあり、首に負担のかからない体の使い方などを学んだ。

 今年4月には伊勢ケ浜部屋へ転籍。両膝のけがなどで大関から序二段まで転落しながら横綱となった照ノ富士と同部屋になった。稽古で下位の力士に苦戦する炎鵬に「このままでは無理」「その番付なりの相撲しか取れないもの」など厳しい叱咤(しった)があったという。だが、炎鵬は「落ちた経験があるからこそ言葉に重みがある。もう一度気持ちを入れ直してやろうと思えた」と逆に発奮材料にした。

 手の感覚を取り戻すため1本のひもを結ぶ練習から始まった壮絶なリハビリなどの日々を思い返し「言葉がない。皆さんに感謝しかない」と涙で声を詰まらせた。一時は胸から当たるスタイルも考えたが、復帰戦は「やってきたことを皆さんに見せられたらと思って、何が何でもまっすぐいこうと」と果敢に頭でぶつかった。「命懸けと言ったら大げさだが、明日が最後になるかもしれない。後悔がないように」。奇跡の復活劇へ第一歩を踏み出した。(三須 慶太)

 ◆炎鵬 友哉(えんほう・ゆうや)本名・中村友哉。1994年10月18日、金沢市生まれ。29歳。伊勢ケ浜部屋。5歳で相撲を始め、金沢学院大2、3年と世界相撲選手権軽量級(85キロ未満)を連覇。2017年春場所、当時の宮城野部屋から初土俵。18年春場所、前相撲からは史上1位タイの速さとなる所要6場所で新十両(年6場所制以降)。19年夏、新入幕。ここまでの最高位は東前頭4枚目。167センチ、100・6キロ。得意は左四つ、下手投げ。家族は両親と兄。