髙安は「雑草魂」を胸に、関取として戦い続けている photo by Sankei Visual 2024年5月の大相撲夏場所では6日間途中休場するも、優勝した大の里、2大関を破り大いに場所を沸かせて場所を終えた髙安関。大関経験者の意地を見せ…


髙安は「雑草魂」を胸に、関取として戦い続けている

 photo by Sankei Visual

 2024年5月の大相撲夏場所では6日間途中休場するも、優勝した大の里、2大関を破り大いに場所を沸かせて場所を終えた髙安関。大関経験者の意地を見せ、出場した取組は体の不調を感じさせない強さで白星を重ねた。

 現在34歳。5月場所の振り返りから、ベテランとして昨今の若い力の台頭や力士のケガへの私見まで、幅広くうかがった。

大相撲・髙安インタビュー前編

【途中休場も見せ場の多かった5月場所】

――今回、場所前の稽古の様子や体の調子はいかがでしたか。

髙安 4月は巡業に参加して、ほかの部屋のお相撲さんと連日、いい稽古ができました。4月中に体を作ったので、場所前2週間はメンテナンス期間として、基礎運動やコンディショニング中心。15日間戦うためにちゃんと体を休めながら、土俵上では引き続き、いい内容の稽古ができていました。いつもやりすぎてしまうので、自分でストッパーをかけながらうまくできた、はずでした。

――先場所から、締め込みの色をえんじから紺に変えました。締め込みを変えた理由は?

髙安 後援者の方に贈っていただけることになったからです。前回変えたのが、たしか2021年の九州場所で、えんじにしました。今度はいままでつけたことのない色、紺色が渋いんじゃないかなと思って、自分で決めました。締め込みの色はなるべく華美にならないようにと、相撲協会から通達もありましたしね。

 使い古したものより硬いので、場所が始まる2週間前から、毎日つけて体を動かして慣らして、多少柔らかくはしました。それでも若干硬いんですが、それを踏まえながら締め方の加減をコントロールするんです。きつすぎると固まって動けなくなるので、少し緩めに締めます。

 ちなみに、7、8年前は、いまよりはるかにきつく締めていました。当時は、まわしを取ると強い横綱・大関がたくさんいましたから、どうしてもまわしを取られたくなかったんです。長く取っているので、少しでも白星につながるように、効率のいい方法を考えて取り組んでいます。

――5月は優勝した大の里関と、大関ふたりを撃破。強い姿を見せてくれました。

髙安 序盤戦から調子はメチャクチャよかったですよ。場所前の仕上がりもよかったし、やはり2日目(大の里戦)が一番よかった。しっかり腰が下りて浮かず、下がらずに前に攻め込めた。ああいう相撲が理想ですから、あれを15日間できればいいですね。心技体が充実していましたので、大の里に勝った時、"これだったらいけるな"という自信になりました。

 しかし、翌日の朝に急に腰の痛みがきた。なかなか難しいですね。うまく調整したつもりでも、休んでしまうのは、まだまだ弱いということ。大関に上がる前から腰痛があって、うまく付き合ってきましたが、消耗品ですからね。部品は変えられないので、周りを強化していくしかありません。筋肉を強くして(腰を)サポートして、あとは体重をコントロールする。こちらは鍛えて、こちらは負担をかけないようにしてと、しらみつぶしに最善は尽くしています。

――計6日間の休場。その間はどう過ごしていましたか。

髙安 最初の4日間くらいは寝たきりでした。トイレにも、伝い歩きしないといけない状態。炎症が治れば、あとはトレーニングや治療といったコンディショニングができるんですが、今回は炎症が収まるまで長かったですね。ただ、調べて痛みの原因はわかったので、同じ失敗をしないようにしたいです。4月中の稽古でも万全にはやってきたので、再出場してからも、体が動いて焦らずできました。千秋楽に向かうにつれて体が張ってきましたし、逆にいい休養になったと捉えています。なんとか千秋楽まで取りきれてよかったです。

【公傷制度と学生出身者の台頭について】

――最近は、力士のケガの多さが心配されています。私自身は、お相撲さんの体を守ってあげてほしいと思う一方で、公傷制度の復活には反対というか、かなり慎重な議論が必要だと感じています。関取のご意見はいかがですか。

髙安 ケガに関しては、みんな同じ条件ですからね。私も、現状のままでいいと思いますよ。ケガを治す時間は少ないですが、番付が下がっても治ればまた上がりますから。公傷制度があったのは、いまより昔のお相撲さんのほうが、巡業も多くて大変だったからだと思います。公傷制度があると、みんな結局は自分の体が大事なので、土俵上でいいパフォーマンスするために、そこをうまく使う人も多くなる。そういう意味でも、いまのままでいい。もちろん、だからといって休んでばかりいたら協会がつぶれちゃいますから、大変は大変なんですけど、我々お相撲さんもそれでメシを食っていますからね。

――一方で、若い力が台頭してきている昨今の角界です。率直にどう感じていますか。

髙安 脅威ですね、本当に。現時点でこれだけ強いのに、彼らはこれからも伸びていくわけですからね。それに対抗しないといけないとなると、まだまだいまの状態ではできないですから、そういう恐怖心はあります。現状維持ではダメなので、このままじゃやられると思って、自分も頑張らなきゃいけません。若いお相撲さんの力は刺激になります。波にのまれたら引退ですから、少しでも抗っていきたいですね。

――尊富士関や大の里関といった、学生から入ってすぐに活躍する力士たちに対する思いは。

髙安 自分は15歳から(相撲界に)入って、雑草魂でやってきましたから、エリートと呼ばれる学生出身のお相撲さんには負けたくありません。それもひとつの奮起の材料です。もちろん誰にも負けたくないけど、昨日おととい入ってきてパッと上がったようなお相撲さんには一層負けたくない。それはみんな思っているんじゃないですか。

 もちろん、強いお相撲さんが上に上がるし、強くなれば角界を引っ張っていく。自分にも若手の時代がありました。そうやって相撲界は続いてきた。皆、力をつけて、段階を踏んで成長して強くなっていく。

 それが遅いか早いかの差はあると思うんですが、現在の大の里や尊富士の活躍の裏には、自分たちが不甲斐ないというのもあります。自分も含めて上が強ければ、彼らの優勝は阻止できたはずです。そういう意味で、責任を感じています。特に上位陣は全員、絶対感じています。これで、自分も含めて来場所は上位陣がより頑張ると思うので、また来場所は盛り上がると思いますよ。ファンの皆さんにとっては、そのあたりが注目ですね。

つづく

【Profile】髙安(たかやす)/1990年2月28日生まれ、茨城県土浦市出身。身長188cm、体重181kg。田子ノ浦部屋所属。本名・髙安晃。15歳で角界入りし初土俵は2005年春(3月)場所、新入幕は2011年名古屋(7月)場所。2017年5月場所後に自身最高位の大関に昇進した。2020年1月場所後に大関から陥落するも、粘り強い相撲で幕内で相撲を取り続け、現在は東前頭三枚目。妻は演歌歌手の杜このみさん。