「諦めんなよ!!」  これは、小林悠がピッチに入った際に、発した言葉だ。レゾナックドーム大分で行われた天皇杯3回戦において、大分トリニータは2点を先行。川崎フロンターレはそれを覆すべく、頼れるストライカーをピッチに送り込んだ。その際、目が合…

「諦めんなよ!!」

 これは、小林悠がピッチに入った際に、発した言葉だ。レゾナックドーム大分で行われた天皇杯3回戦において、大分トリニータは2点を先行。川崎フロンターレはそれを覆すべく、頼れるストライカーをピッチに送り込んだ。その際、目が合った一人ひとりに、この檄を飛ばしたという。

「1点取れれば全然変わった展開になる」

 そう思えばこそ、勢いに乗る反撃ゴールを狙ったが、さらに失点。「チームとして絶対与えちゃいけなかったと思いますし、難しくしてしまった」と悔やんだ。

 この試合で大分は、5バックと言うべき守備態勢を敷いた。それを前に、前半の川崎はボールを持ちながらもシュートまで持って行くことができなかった。ベンチにいた小林の目にはどう見えたか、試合後に率直に聞くと「いや、でも前半はやっぱ難しかったと思いますよ。見てても、相手がそこまで前から来るわけじゃないので、自陣で5-3-2っていう、攻める方からすると一番フリースペースがなくなる守り方をしていた」と説明する。

 そんな状況で、小林は後半に活路があると見出していた。その理由は、「前半は守れてても、疲れが出てきてスライドできなくなってくることでだんだんスペースが出てきて、チャンスは作れると思っていた」から。しかし、61分と63分に連続失点。「失点をゼロでいかなきゃいけなかったと思いますし、2失点はいただけなかった」と悔やむ展開に持ち込まれた。

■「フロンターレを背負って戦っている認識」

 この日行われた天皇杯3回戦で、J1・5クラブが下克上で敗れた。川崎もその一つとして名前を連ねることとなったが、小林は、「本当に苦しい状況だなと思いますし、簡単に切り替えてっていうのはよくないですけど、この苦しさからしっかり乗り越えていかなきゃいけない」と、率直な思いを吐露する。切り替えることは重要なテーマであるが、そう簡単にしてはいけないものでもあるとも説くのだ。

 難しい想いを言葉にする小林に、この苦しい状況から脱するために何が必要なのか。試合直後で申し訳ないと思いながらも聞くと、「やっぱり勝ちへの意思だったり、選手ひとりひとりの悔しいという思いだと思います」と即答する。

「フロンターレを背負って戦っているってことを、もう1回選手全員がしっかり認識しなきゃいけない。ここにいちゃいけないチームっていうのはみんな絶対思ってるので、それをピッチで全員が表現しないと勝てない」

 川崎フロンターレのエンブレムに強い誇りを持ち、その責任を全うしてきた背番号11だからこその重みがあるメッセージだ。

 直近のJ1リーグ・ジュビロ磐田戦でも悔しい引き分けがあったばかりで、選手にとっては精神的に厳しい局面を迎えたと言える。その中でも、小林が話すようにこの悔しさを力に変えなければいけない。「悔しい思いをさせたくない」と話すサポーターのためにも、等々力での次戦に出せる力をすべて
ぶつける。

(取材・文/中地拓也)

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