福田正博 フットボール原論■パリ五輪に臨むU-23サッカー日本代表のメンバーが決まった。さまざまな制限が明るみになるなかでの難しい選考だったが、福田正博氏にメンバーの特長と本大会への期待を聞いた。【さまざまな制限があるなかでのベストメンバー…

福田正博 フットボール原論

■パリ五輪に臨むU-23サッカー日本代表のメンバーが決まった。さまざまな制限が明るみになるなかでの難しい選考だったが、福田正博氏にメンバーの特長と本大会への期待を聞いた。

【さまざまな制限があるなかでのベストメンバー】

 パリ五輪に臨むU-23日本代表の18人が決まった。さまざまな制限があるなかで、ベストメンバーが選ばれたというのが率直な感想だ。



パリ五輪に臨むサッカー日本代表18人は、アジア最終予選優勝のメンバーを中心に選ばれた photo by Getty Images

 この年代は、今回のメンバー以外にもすばらしい選手たちがいる。アジア五輪予選までチームの主力だった松木玖生(FC東京)をはじめ、すでにA代表の中心になっている久保建英(レアル・ソシエダ)、1月のアジアカップで正GKを務めた鈴木彩艶、6月のW杯アジア予選で日本代表として戦った鈴木唯人(ブレンビー)らがいる。

 日本国内では注目度で頂点に君臨するオリンピックだが、世界のサッカー界では異なる。パリ五輪本大会へのメンバー招集に関して、所属クラブ側にはW杯時のA代表のように選手を送り出す義務がない。

 パリ五輪が行なわれる期間は、キャリアアップの移籍をする選手にとっては新シーズンに向けてチーム内での立ち位置を決める大切な時間になるし、クラブ側にとってもそんな時に選手に抜けられては困る。

 つまりオリンピックだからといって、全員を呼べるわけではなく、その点を理解する必要があるだろう。

 今回はオーバーエイジ(OA)枠を使わないが、これは2008年北京五輪以来のことだ。「チーム一丸となって」を前面に出してチームマネジメントをする大岩剛監督らしい決断だと思う。OA枠で起用を考えていた選手の移籍などで招集が難しくなったからだと伝えられているが、妥協してほかの選手を組み入れ、U-23年代選手との間に溝が生まれるよりは、チーム一丸となった戦いができるのではないかと期待している。

【メンバーの顔ぶれは順当】

 メンバーの顔ぶれは順当なものだ。GKはアジア五輪予選で存在感を示した小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)が第1GKになると思うが、野澤大志ブランドンもFC東京のスタメンで経験を重ねている。両GKとも190cm超えと高さに不安はなく、不測の事態が起きても心配はない。

 センターバックは西尾隆矢(セレッソ大阪)、木村誠二(サガン鳥栖)、高井幸大(川崎フロンターレ)の3選手でまわすことになるだろう。DFラインの柱だった西尾は、アジア五輪最終予選では初戦のレッドカードによってポジションを高井に奪われる形になったが、パリ五輪では本来の実力を発揮してくれるのではないかと期待している。ただし、高井も成長を続けているだけに、3選手をどういう組み合わせで起用しても高いパフォーマンスを発揮してくれるだろう。

 サイドバックは右が関根大輝(柏レイソル)、左が大畑歩夢(浦和レッズ)、ガンバ大阪では右サイドバック(SB)をつとめる半田陸が、両サイドのバックアップを務めると見ている。ポイントは右SBの関根だろう。攻守にアグレッシブに躍動するのが持ち味だが、アジア五輪最終予選後のJリーグでは注目度が高まったことで、持ち味を見失って精彩を欠くプレーもあった。ただ、ここに来て本来の動きを取り戻している。

 関根が右サイドでダイナミズムを生み出すことで、日本の攻撃に勢いと選択肢をつくりだすだけに、五輪の舞台でも思いっきり走り回ってくれることを期待している。

 中盤は藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)、川﨑颯太(京都サンガF.C.)、山本理仁(シント=トロイデン)、荒木遼太郎(FC東京)、三戸舜介(スパルタ)が名を連ねた。誰が出ても遜色ない力がある。グループステージ突破に向けてはハードワークが不可欠なだけに、この5選手を全試合でフル稼働させていくのだろう。

【カギを握る、細谷真大、平河悠の活躍】

 前線は楽しみなメンツが揃っている。1トップは細谷真大(柏)と藤尾翔太(FC町田ゼルビア)が選ばれた。藤尾は体を張ったプレーで味方を活かせるのに加えて右サイドもでき、展開によっては2トップという戦術的な幅をもたらしてくれる。

 ただ、このチームの浮沈のカギは細谷が握っていると言っていいだろう。アジア五輪最終予選では序盤戦はゴールを決めきれずに空回りしている印象だったが、細谷がゴールを決め出してから一気に優勝まで駆け上がった。ただ、パリ五輪ではそんな悠長な時間はない。グループステージ1試合目から、細谷のゴールでチームに勝利をもたらしてもらいたい。

 両サイドのアタッカーには、斉藤光毅(ロンメル)、平河悠(町田)、佐藤恵充(ブレーメン)が選出され、MF登録の三戸はスピードを生かしたドリブル突破が持ち味なためサイドアタッカーでの起用もある。斉藤はアジア五輪最終予選未招集だったが、その後のアメリカ遠征に招集され、圧巻のプレーで存在感を示して代表入りを決めた。足元の技術は横浜FC時代から秀でたものがあっただけに、パリ五輪でも違いを発揮してチャンスをつくりだしてもらいたい。

 ただ、現状でもっとも期待値が高い選手は、やはり平河悠だろう。Jリーグでの今シーズンのプレーを見たら、誰もがそう思うはずだ。ボールが平河に渡れば何かが起こるのではという期待感が生まれるのだ。そういう選手はなかなかいないだけに、あのパフォーマンスをパリ五輪の舞台でも発揮して、世界を驚かせてもらいたいと思う。

 U-23日本代表は、7月17日(現地日時、以下同)にフランスとテストマッチを行なったあと、いよいよパリ五輪のグループステージの戦いに突入する。7月24日にパラグアイ、7月27日にマリ、7月30日にイスラエルとの試合に臨む。

 9月から始まるW杯アジア最終予選や2026年W杯本大会に向けて、日本代表の力を底上げできるかは、このパリ五輪世代の成長にかかっていると言ってもいい。それだけにパリ五輪でのグループステージ3試合とその先の戦いを熱く見守りたい。

 前回の東京五輪では4位となってサッカーへの注目度が高まったが、パリ五輪でもU-23日本代表の躍進によって、日本中のサッカー熱が高まることを期待している。