「P10? P9? どっちにしても、この入賞はうれしいよ。みんなありがとう」 雨まじりの難しい第12戦イギリスGP決勝を10位で終えて、角田裕毅は5月の第8戦モナコGP以来となる入賞に安堵の声を上げた。「厳しいレースだったけど、本当によくや…
「P10? P9? どっちにしても、この入賞はうれしいよ。みんなありがとう」
雨まじりの難しい第12戦イギリスGP決勝を10位で終えて、角田裕毅は5月の第8戦モナコGP以来となる入賞に安堵の声を上げた。
「厳しいレースだったけど、本当によくやった。誇りに思うよ」
無線で冷静にそう返すレースエンジニアのマッティア・スピニに、「うれしくないの?」と聞き返す角田。「これが僕の最大限の喜び表現なんだよ」と、いつもどおりの落ち着いた声色で話すスピニに、「ハハハ、つまんないヤツ!」と言って笑い合う。
苦しかった3連戦が終わって、ようやくそんなことが言える雰囲気が戻ってきた。
モナコGP以来の入賞を果たした角田裕毅
photo by BOOZY
「もちろん、素直にうれしいです。フリー走行のペースを見れば、今日は入賞できるとは思っていなかったので、なおさらです。
(シャルル・)ルクレール(フェラーリ)が後ろにいった幸運もありましたし、最終スティントの前半はウイリアムズ(アレクサンダー・アルボン)とバトルをして、彼らはとても速かったんですけど、ポイントが獲れてよかったです」
予選ではハースとウイリアムズがQ3に進出し、RBの2台はQ2で敗退した。
単純にそれが、今のマシンの最大限の力だった。
200km/hを超える高速コーナーが連続するシルバーストンでは、VCARB 01の弱点が如実に表われてしまった。
「4輪がグリップ不足で滑るという感じです。特に高速コーナーが弱点になっていることは、上位勢や中団上位勢のオンボードカメラの映像を見ても明らか。つまり、ダウンフォースと空力効率が劣っているということです」
予選を13位で終えたあとにそう語っていた角田は、決勝でウイリアムズのアルボンと間近で戦ってみて、驚いたという。
「ウイリアムズと一緒に走ってみて、ターン15でどれだけダウンフォースレベルが違うかということに驚きました。彼は僕の後ろを走っているのに、高速コーナーで(マシンがスライドして)タイヤをオーバーヒートさせるような様子がなかった。高速コーナーであれだけ大きな性能差があったことには驚きましたし、今後に向けて大きく改善する必要があると痛感しました」
【アップグレードの不発が大きな痛手】
長いストレートで競争力を得るために、空気抵抗を減らすべくリアウイングを薄くする。すると、高速コーナーではダウンフォースが足りずにマシンが滑る。そこで生じるタイム差はわずかでも、滑ることによるタイヤへのダメージは蓄積し、ロングランのペースは悪くなる。
それにもかかわらず、RBはストレートでも彼らと同等のスピードがあるわけではない。
結局のところ、高速コーナーとストレートを両立させなければいけないサーキットにおいて、VCARB 01はかなり厳しいということだ。
RBは「もう中団トップを争うマシンではない」と言う
photo by BOOZY
高速コーナーだけ、もしくはストレートだけなら構わない。得意の低速コーナーでタイムを稼ぐこともできる。
しかし、「最大ダウンフォース量」や「最高速」ではなく、それを両立させる「空力効率」が重要になる場面では、戦えない。そういう意味では、シルバーストンはスパ・フランコルシャンと並んで、最もそういう特性を持つサーキットのひとつだ。
それに加えて、第10戦スペインGPに投入したアップグレードが不発に終わったことも大きく響いてしまった。次のオーストリアGPで検証作業を行ない、イギリスGPでは効果のあるパーツを厳選して使ったものの、この3戦で計画どおりの進歩が果たせなかったことは確かだ。
0.1秒でポジションが変わり、0.3秒違えば最上位から最下位まで落ちてしまうような大接戦の今の中団グループにおいて、この停滞は手痛かった。
もう中団トップを争うクルマではないと、角田自身もはっきりと断言した。
「自分たちの失敗を受け止めて、素早くきちんと状況に対応できたのは、ポジティブな要素だと言えます。もし(問題のある)アップグレードパッケージをそのまま使い続けていたら、もっとひどい結果になっていたはずですから。
ただ、いくらセットアップを改善しても、高速コースでのペース不足はクルマの根本を変えないと厳しい。なので、根本的に変えていく必要があると思っています」
【角田が語る「今日のレースのカギは...」】
そんなマシンで13番グリッドから10位入賞まで持ち込むことができたのは、スタートで11位に上がったことと、雨のおかげだった。
スタートから30分で本格的に降り出すという予報を受けて、そこまでは小雨が降り始めてもドライタイヤのまま我慢。一度は弱まり、そこから本降りになったところでピットに飛び込み、インターミディエイトタイヤに交換した。
角田はアストンマーティン勢の後方10位をキープし、後方のウイリアムズ勢から逃げた。予報どおり、しばらくして雨が止んでドライになれば、ウイリアムズのペースには敵わない。だからこそ、そこで築いたギャップが意味を持つことはわかっていた。
「今日のレースのカギは、序盤のウェットコンディションで前の集団についていけたことです。雨まじりのなかで、ドライタイヤでいいペースで走れたのが大きかった。それによって、レース後半のドライコンディションになってから、入賞圏に留まるために十分なギャップをアルボンに対して築くことができたので。今年はここまでウェットコンディションをあまり歓迎することはなかったんですけど、今日は本当に雨のおかげで助かりました」
38周目、ドライタイヤに履き替えるタイミングも、角田の判断で「この周に入る! 入らなきゃダメだ!」とライバルたちに後れを取ることなく決めて、ポジションをキープ。
アルボンを抑えきることは到底できず、雨を見越して少なめに燃料を搭載したため、最後は燃費が厳しくなってリフト&コースト(※)を強いられる場面もあったものの、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)には追い着かれることなく、ジョージ・ラッセル(メルセデスAMG)のリタイアにも助けられて、終わって見れば10位。
※リフト&コースト=ドライバーがアクセルをオフにして惰性でクルマを走らせること。
久々の入賞に、角田も安堵の表情を見せた。
【6位RBと7位ハースの得点差はわずか4点】
結果もさることながら、この厳しいマシン状況と難しいコンディションのなかで、パーフェクトなレースをやりきって苦境を打破できたことが大きな自信になった。
「今後に向けて、すごく自信につながりました。その自信をもとに、次のハンガリーでは低速域での自分たちの強みを生かして、またトップ10争いに舞い戻りたいと思っています」
コンストラクターズランキング6位を争うハースには再び6位入賞を許し、わずか4点差まで迫られてしまった。角田自身もニコ・ヒュルケンベルグにドライバーズランキングで逆転されて、2点差をつけられてしまった。
ハースは空力効率という武器を最大限に生かして、この2戦で好結果を挙げた。いまや大接戦の中団グループで常にトップに立ち、入賞を重ねることは現実的に難しい。自分たちが得意とするサーキットで、確実にチャンスをモノにする必要がある。
次のハンガロリンクは、まさにRBが逆襲を見せるべき場所だ。