痛恨の同点弾は、まさかの事故だった。試合終了のホイッスルを目前とした、後半のアディショナルタイム。川崎フロンターレのゴール前で、それは起きた。  試合後、そして、ミックスゾーンを通る場面と、GKチョン・ソンリョンの落胆ぶりは十分に伝わって…

 痛恨の同点弾は、まさかの事故だった。試合終了のホイッスルを目前とした、後半のアディショナルタイム。川崎フロンターレのゴール前で、それは起きた。

 試合後、そして、ミックスゾーンを通る場面と、GKチョン・ソンリョンの落胆ぶりは十分に伝わってきた。中断後にまだ1勝もできていない中での出来事ということも、その重さを増した。

 それでも試合後、多くの選手がソンリョンの元に寄って声を掛けた。中でも何度も肩を叩いたのが佐々木旭だった。その佐々木の捉え方は、驚くべきものだった。

「映像を見てみないと分かんないですけど、僕の判断ミスの可能性もあると思うんで、自分に矢印を向けてまたやっていきたいです」

 驚くべき責任感にその意図を聞くと、「外に蹴り出してもいい状況でもあったと思うので、また見返してやっていきたい」と言う。そして、「失点シーンに関しては、ディフェンスラインなのでかかわっていないことはないと思うので、もっとより良くするために、誰かのせいにするんじゃなくて、もっと自分ができたことがあったんじゃないかなって考えることが大事だと思うので、また映像を見てやっていきたい」とも説明する。

 外から見れば“事故”と片付けてしまいそうだが、佐々木はどんなことも追及して考えることが大事だという。これほどまでの自分への矢印の向け方は、このチームの根源にあるものでもある。ショッキングなタイミングでの取材対応にもかかわらず出てくるその言葉が、頼もしかった。

■磐田が取り組んでいた川崎対策

 自分に矢印を向けるのは、小林悠も同じだ。「1点差だと事故みたいなことも起こると思う」と話すからこそ、「自分が決めていれば」と、追加点を決められなかったことを悔やむ。2点目、3点目と追加点を求めることはチームの中で共有している。背番号11は、得点を奪えなかった責任感をにじませた。

 一方で、「ああいう事故になってしまうようなところに運ばれることを減らさなきゃいけない」と分析もする。だからこそ、ベンチに下がってもピッチ横から声を出し続けた。「少しでも勝ちの確率を上げれれば。下がった以上はもう声を出すことしかできないので」と想いを説明。時間の使い方、そして、相手2トップと最終ラインの枚数の部分での指摘を、最終ラインに向けて発し続けたという。

 では、磐田は川崎に対してどのような対策を取っていたのか。この1週間、磐田はフロンターレ戦に向けて中央で堅く守るブロックをトレーニングに採り入れていたという。金子翔太は、「監督から中を閉じろってことを、この1週間すごい言われてたので、極端すぎる中の締め方してたかもしれないですけど、でもそのぐらい締めないと、ちょっとでもスキを与えたら間を通してくる」と話し、実際の失点場面も、「中盤の選手はもっと締めれた」と悔やんだ。

■同点弾の場面で考えていたこと

 試合をイーブンにした後半アディショナルタイムの場面、磐田目線ではどう動いていたのか。まず、その起点となったのは鈴木海音のヘディングだった。川崎がクリアしたハイボールを鈴木が頭ではね返し、ジャーメイン良が収めて仕掛ける。それを佐々木旭が回収してバックパスするが――という流れである。

 その鈴木は、前後半での流れの違いをピッチの上で感じている。「前半はすごくうまくいってるって感じていた」と話す一方で、「後半の45分間、ずっとああいう形じゃなくて、どこかで行くときも必要」と振り返る。

 だからこそ、最後のチャンスを逃さなかった。先述したヘディングも、「トラップしてマイボールにつなげられる」と考えたが、「前を見たときにジャメがちょっと空いてたんで、ヘディングでうまくつなげた」と判断を変えたという。

 そのボールを受けたジャーメインは、「体力的に厳しくて、ほぼつってるような状態で本当に限界だった」とその状況を振り返るが、「ラストで仕掛けて、勝負に行った中で相手のミスでラッキーなとこがありましたけど、最後、縦に勝負したから生まれた点だったので、交代せずにピッチに残ってた中で一つ、最後に攻撃的な役割を果たせた」とストライカーとしての安堵感を見せた。

■「勝ちへの執念の中でみんな一つになって戦っている」

 磐田目線で見れば、土壇場の同点弾はこぼれ球をゴールに押し込んだ山田大樹も然り、3人の攻撃意識があの場面を導いたことになる。

 一方で川崎としては、佐々木や小林の言葉に表れるようにそれを事故で片づけない強さも見せている。試合中においても、ベンチに下がった先発選手もピッチ横から必死に声を送るなど、勝利への気持ちはけっして弱まっていない。

「勝ちへの執念の中でみんな一つになって戦っている」

 磐田戦後、小林悠がこう語っているように、むしろ、伴わない結果に悔しさは募る。であれば、それを次戦にぶつけるしかない。暑さの中で続く連戦を、苦境の出口にしてみせる。

(取材・文/中地拓也)

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