渡部博文レノファ山口FC社長インタビュー(3)「サッカーの醍醐味は、その予算規模でどこまで戦えるか。そこを突き詰めてやっていますね」 J2レノファ山口FCの渡部博文社長は言う。5位(第23節終了時点)という順位は、まさにその醍醐味を体現して…

渡部博文レノファ山口FC社長インタビュー(3)

「サッカーの醍醐味は、その予算規模でどこまで戦えるか。そこを突き詰めてやっていますね」

 J2レノファ山口FCの渡部博文社長は言う。5位(第23節終了時点)という順位は、まさにその醍醐味を体現している、といったところか。

 もっとも、流れゆく時代のなかで経営を動かしていくのは簡単ではない。

 昨今、Jリーグのクラブ経営は岐路に立っている。かつてないほど多くの日本人選手が海外へ移籍。欧州だけでなく、MLS(アメリカ)やアジアも含めたら、100人前後の人材が流出している。その背景にあるのが深刻な円安で、また、かつてのように有力外国人選手と契約できるのも、一部の裕福なクラブだけになった。日本経済の国際的競争力の低下が、Jリーグにも影を落としているのだ。

 そんななかで、地方のクラブは独自の戦い方を見出さないと、厳しい事態に直面する。渡部社長はどのように現実と向き合い、クラブを成長路線に導こうとしているのか。



2022年、現役でプレーしていた当時の渡部博文現レノファ山口FC社長photo by YUTAKA/AFLO SPORT

――社長として、「楽しい」と感じる瞬間は?

「やっぱり、勝った試合のスタジアムからの帰り道ですね。サポーターの顔を見る瞬間は、一番楽しいです。今まではホームでなかなか勝てず、それを味わえていなかったので」

―― 一方、苦しさや厳しさは?

「今までやってこなかった、数字の管理とかは、そこを突き詰めないと見えないことが多いので、それは大変でしたが......。やっぱり、どうやったら経営者として周りを納得させられるかってところですね。現役引退後すぐに入ってきて、受け入れられない方もいるのは当然なので」

――マーケティングの創意工夫は?

「今年から1万人プロジェクト(ホームゲーム年4回)を実施しています。昨年から集客が課題と捉えていたため、コンセプトを明確にし、サッカーに興味がない、ルールがわからない方にでも楽しめるようなイベントや体験など、さまざまな施策にチャレンジしています。今年は2回実施し(ホーム開幕戦とゴールデンウィークの最終日)、1万人には及びませんでしたが、7000人を超える来場者へ勝利を届けられたことは大きかったと思います。

 集客にはチラシ配りも重要ですが、JリーグIDやLINEなどデジタルマーケティングもうまく活用し、顧客データを分析しながら進めています。1万人プロジェクトはあと2回実施予定で、必ず達成したい。それ以外の試合も含めて、来場者数を伸ばし、顧客満足度をより高めていきたいと考えています」

【理想はレノファから海外へ】

――社長同士の交流はあるんですか?

「J2クラブの社長さんには、いろんなことを聞いて学んでいますね。モンテディオ(山形)の社長の相田(健太郎)さんとか。相田さんは自分が選手時代にヴィッセルでやっていた時、強化部長だった方なので。楽天イーグルスにいたこともあるので、選手獲得方針やクラブ経営については相談したことがありました。(ファジアーノ)岡山の北川(真也)社長も地方クラブとしてスポーツ振興や地域活性化の角度から精力的に活動されていて、参考にさせていただいています」

――今は100人程度の日本人選手が海外でプレーする時代です。強烈な円安で、少しの活躍で欧州移籍が決まっている現状で、外国人獲得も難しい。

「自分は、"日本人の価値はもっと高まっていくべき"という考えで動いています。カタールW杯では日本代表が最高位の9位になり話題は高まっていますし、2026年からはシーズン移行(秋春制)があります。"アカデミーからトップに上がる""上がらずとも海外に行く"でもいいのですが、その路線を作れるか。それはレノファの今後の課題ですね。

 日本サッカー全体でも、海外に行きやすくなっているのは自然の流れで、行っているからこそ、行きたい選手も多くなります。自分の立場としては、レノファからステップがありそうなクラブと提携できるか。今後はクラブに対して明るい未来の材料として、(クラブにとっても選手にとっても)双方にメリットのある提携をしていきたいと思っています」

――地域色を強め、そこから世界に羽ばたくイメージで?

「地方クラブのなかで、唯一無二のクラブになりたいですね。今までの現象で言えば、山口県は人材が流出しているところがある。アカデミーも小・中・高ありますけど、その大会に福岡、鳥栖、広島などのスカウトが来て、目を光らせている状態です。山口県内や、レノファで育って、J1、海外、というのは本当に少ない。Jリーグのホームグロウン制度もありますし、理想はレノファから直に海外へ。その動線を作りたいですね。たとえば、レノファからヨーロッパに行けるぞ、という期待感が持てるクラブになったら、人材も集まりやすくなりますよね」

【J1昇格をどう考えるか】

――社長としてのゴールはどこに設定していますか?

「チームというか、会社全体を見ているので、組織を引き上げられる社長になりたいですね。そこの軸で考えています」

――このまま行けば、J1昇格も視野に入ってきます。

「対策をされ始めた時、"今のままでいい"というのでは衰退するので、そこだけ気をつけていますね。あとは結果にふさわしいクラブになっているか。順位に対して、会社の規模や運営が追いついていなくて、ダメになったクラブもあります。たとえば5位だったら、5位にふさわしいクラブに押し上げられているか。予算規模が追いつくのはあるけど、体制としてどうなのか。たとえば"3億円、収入がプラスになりました"という時、どう使うかもイメージしておかないと。その方向性は決めてありますよ」

――あくまで力をつけてから昇格、という感じですか?

「一度、J1昇格を経験するのは必要なことだと自分は思います。たとえ難しい戦いになったとしても、興味を持つ人は増えるし、それに対してお金も集まるでしょう。選手が奮闘している姿を見せられるので」

――神戸時代の戦友、アンドレス・イニエスタを連れてくる、というのは話題を呼びそうですが?

「アンドレスとは、退団してからも連絡をとっています。彼や彼の家族は日本のことが好きだし、日本で引退してほしくて、オファーしたこともあるんですけどね。『ナベはアミーゴだから、無償でプレーするよ』と言ってくれていました(笑)」

――最後に、渡部選手がいたら契約しますか?

「高さと経験なら取ってもいいですね(笑)。今はチームが高さを必要としているので、判断、高さ、セットプレーとか、そこなら......」
(おわり)

■Profile
渡部博文(わたなべひろふみ)
1987年7月7日生まれ。山形県出身。山形中央高校、専修大学を経て、2010年、柏レイソル入団。その後、栃木SC、ベガルタ仙台、ヴィッセル神戸、レノファ山口でプレーし、2022年、現役引退を発表。同年12月、レノファ山口FCの運営法人である株式会社レノファ山口の代表取締役社長就任が発表された。