◆パリ五輪代表選考会 陸上日本選手権 ▽第2日(28日、新潟・デンカビッグスワンスタジアム) 男子400メートル障害決勝は、五輪の参加標準記録を突破済みの豊田兼(21)=慶大=が、日本歴代3位の47秒99で制し、日本陸連の選考規定を満たして…

◆パリ五輪代表選考会 陸上日本選手権 ▽第2日(28日、新潟・デンカビッグスワンスタジアム)

 男子400メートル障害決勝は、五輪の参加標準記録を突破済みの豊田兼(21)=慶大=が、日本歴代3位の47秒99で制し、日本陸連の選考規定を満たしてパリ五輪代表に決まった。29日からの110メートル障害にもエントリーしている“二刀流ハードラー”は、日本勢初の障害2種目での五輪切符を狙う。

 1着でパリへと続くフィニッシュを切り、豊田は静かに右拳を突き上げた。五輪の懸かる大一番で自己新の47秒99。大会新での日本選手3人目の47秒台突入に、4426人の観客がどよめいた。「正直、驚いた。想定通りのレースができた」。大会前「将来的に出さないと」と見据えていた記録をいきなりたたき出し、今大会の五輪内定1号に。「うれしい。優勝だけ見ていた」と爽やかにはにかんだ。

 五輪を見据えた走りで勝負に出た。勢いよく飛び出すと、195センチの長身と長いスライドを生かして軽々と91・4センチのハードルを越え、序盤から大きくリード。課題だった最後の直線もスピードは落ちず、ライバルたちを置き去りにした圧巻の独走だった。「前半から飛ばすレースを試す絶好の機会だと思った。ハマった」。本番まで1か月。「ここがゴールではない。パリでは47秒5台まで縮め、決勝に進みたい」。理想的な勝ち方に手応えをつかみ、五輪のこの種目での日本勢初の快挙をにらんだ。

 偏差値70を超える東京・桐朋高出身の秀才。慶大入学時に父の母国で行われる五輪を目指す4年計画を立てた。転機は調子を合わせられず、予選落ちした昨年のこの大会だった。以降、1台ごとの通過記録をほぼ正確に言い当てられるほど自身の感覚と走りを高めて飛躍。現役慶大生の陸上選手では、12年ロンドンの山縣亮太以来の五輪を決めた。

 9頭身のさわやか“二刀流ハードラー”は、次は29日(予選、準決勝)、30日(決勝)の110メートル障害でパリへの切符を狙う。ハードル2種目で五輪出場なら日本人初の快挙。高野大樹コーチも「(2種目は)前例がない。これからもなかなかいないと思う」と断言するほど異例のチャレンジだ。

 110メートル障害は、3月の豪州の競技会で転倒。不安も残るが「標準突破を目標にしたい」と力を込めた。五輪は21歳のホープにとって、シニア初の国際大会。「さらに躍動できるようにしたい」と、パリから世界へ羽ばたいていく。(小林 玲花)

 ◆豊田 兼(とよだ・けん)2002年10月15日、東京都生まれ。21歳。桐朋中では四種競技に取り組み、桐朋高からは110メートル障害と400メートル障害に注力。2年時は400メートル障害でインターハイ出場。慶大に進み、110メートル障害は1年時のU20日本選手権3位、3年時のワールドユニバーシティゲームズで日本人初優勝。400メートル障害は今年5月のセイコー・ゴールデングランプリで日本歴代5位(当時)となる48秒36をマークして優勝。195センチ。

 ◆豊田の47秒99、世界では? 今季世界9位相当。21年東京五輪では7位(48秒11)を超える8位入賞レベル。昨年のブダペスト世界陸上と比べると、4位(48秒07)を上回り、銅メダル(47秒56)まで0秒43に迫る好タイム。

 ◆男子400メートル障害の五輪 過去最高順位は、01年と05年の世界陸上銅メダルだった、04年アテネの為末大の10位(準決勝敗退)で、五輪での記録でも日本勢最高の48秒46だった。この種目で日本は84年ロスから21年東京まで10大会連続で出場している。

 ◆110メートル障害と400メートル障害 10台のハードルを越える点は同じだが、ハードルの高さとインターバル(間隔)の距離が異なる。110メートルは高さが106.7センチ、間隔は9メートル14センチ。400メートルは高さが91.4センチ、間隔は35メートル。110メートルはスプリント力とハードリング技術、400メートルはまず体力、続いて戦術や技術が必要となる。