「陸上・日本選手権」(28日、デンカビッグスワンスタジアム) 女子1500メートル決勝で、東京五輪8位の田中希実(24)=ニューバランス=が4分1秒44の大会新記録で、五輪参加標準記録(4分2秒50)を突破して日本陸連の選考規定を満たし、…

 「陸上・日本選手権」(28日、デンカビッグスワンスタジアム)

 女子1500メートル決勝で、東京五輪8位の田中希実(24)=ニューバランス=が4分1秒44の大会新記録で、五輪参加標準記録(4分2秒50)を突破して日本陸連の選考規定を満たし、5000メートルに続いて五輪代表に入った。2010年の吉川美香以来2人目の5連覇。ドルーリー朱瑛里(津山高)は4分18秒16で7位だった。

 ライバルをはるかかなたに置き去りにする、驚異的な“田中劇場”で、二枚目の五輪切符をつかみ取った。田中は出場選手で唯一、序盤から先頭のペースメーカーにつけると、残り1周で前に出て独走。勢いそのままに五輪参加標準記録を突破し、大会新で5連覇を果たした。五輪出場も確定し「やっと1500メートルも決めることができた」と大きく胸をなで下ろした。

 日本陸上界をけん引し続ける中長距離界のエース。21年東京五輪では1500メートルと5000メートルに出場し、1500メートルは8位入賞。23年世界選手権の5000メートルで8位入賞を果たすなど、世界に「NOZOMI」の名を刻んできた。

 だからこそ、世界と戦う上での葛藤は常に頭の中にあった。5月中旬には「自分の武器が確立できていない。人によっては『限界』と感じてしまうような、つかみどころのない壁に当たってしまっている」と苦しい胸の内も吐露していた。

 ただ、5月末に得た5000メートルのパリ五輪代表と、大会直前に敢行したケニア合宿で風向きが変わった。特に世界の強豪がそろうケニアでは、22年からたびたび武者修行に行き、そのスピード感を肌で感じた。かつては「挑戦のイメージが強かった」場所は、今では「ホームのようなものに変わっていっている」という。直前の練習が生かされたことも、二枚目の五輪切符につながった。

 800メートル、1500メートル、5000メートルの3種目でエントリーする今大会は、4日間で最大5レース。一見過酷に見える挑戦は「気分転換になったり、(他の種目への)感覚を取り戻せる」と、相乗効果も生み出している。

 29日は800メートル予選と5000メートル決勝が待ち、800メートルは参加標準記録を突破して優勝すれば五輪代表となる。「気付けば折り返し地点。あした帰るぐらいの気持ちで走ったので、あしたまだあることが不思議。怖い気持ちも楽しみな気持ちもあって、それがすごく幸せ」と、独特の高揚感で後半戦を迎える。

 本命2種目での出場を決めたパリ五輪へは「二つとも期限内に(参加標準記録を)切れた。堂々と乗り込める」と大きな自信も得た。日本中に衝撃と感動を与え続ける24歳は、また一つ成長して、二度目の夢舞台に臨む。

 ◆田中希実(たなか・のぞみ)1999年9月4日、兵庫県小野市出身。西脇工高から同大に進学した。18年世界ジュニア選手権3000メートルで金メダル。21年東京五輪の1500メートルは日本人初の決勝進出で8位入賞。日本選手権は1500メートルで5連覇を達成し、5000メートルは23年大会で2連覇。1000メートル、1500メートル、3000メートル、5000メートルなどの日本記録を保持。23年世界選手権5000メートルで8位に入賞した。父はコーチも務める健智さん、母は97、03年の北海道マラソンを優勝した千洋さん。ニューバランス所属。153センチ。